
工場跡地がトンボの楽園に大変身!? 【連載】『東京いきもの散歩』(川上洋一)撮影篇
ビルが立ち並ぶ東京23区でも、ちょっと足を伸ばせば野生の生き物たちに出会えます。そんな都内にすむ動物や昆虫と、彼らがすむ街の成り立ちを紹介するのが『東京いきもの散歩』です。6月下旬の刊行にむけて、著者の川上洋一さんと写真家のなかのまさきさん、担当編集者が都内に撮影にでかけました(写真はなかのさん、ツイート内の写真は担当編集者)。
お天気に恵まれて、様々ないきものとの出会いがありました。
※特別な許可を得て撮影・観察をしています。
(新宿から数キロにわたってタヌキが行き来する道を紹介した記事はこちらから)
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5月某日午前 下町
第2章の舞台となる下町へ。まずは荒川区にある尾久の原公園です。ここでは、色とりどりのトンボや、カルガモをはじめとする野鳥に会いました。
尾久の原公園
川上さん、今日はアミと大きなリュックを背負って登場です。
短く刈られた芝生は、街中によくある公園のようです。ところが、そうではないのです。尾久の原公園の特色は、この湿地と池。
ここはじつは、水辺の生き物にとっての一大生息地なのです。30種類ものトンボが集まってきます。キャッチ&リリースの許可を得て種類を確認してみました。
川上さんが網を構えて……
シオカラトンボを捕まえました!
野鳥もたくさんいます。
園内ではオオヨシキリの「ギョギョシ ギョギョシ」という声も響き渡っていました。
なぜ、これほど豊かな環境ができたのでしょうか?
川上さんの解説によると
かつてここは、隅田川沿岸にひろがる工業地帯の一部でした。太平洋戦争では、米軍による空襲の最初の標的になったほどです。1970年代になると工場がよそへ移転して数haもの広大な更地が生まれます。
その土地をどう利用するか議論しているうちに、凹地に雨水がたまって大きな池になり、周囲にはヨシやガマが生えはじめました。そこへトンボが飛んできて繁殖をはじめ、5年ほどすると都内有数の生息地が誕生、というわけです。(『東京いきもの散歩』より)
自然の再生力はすさまじいですね! さらには、よみがえった自然を守り、手入れをつづけている人の活動があってこそ、都内の自然を楽しめるのですね。
東京港野鳥公園
午後は、第4章の舞台となる東京湾の埋立地へ。まずは大田区の東京港野鳥公園です。
野鳥公園は、大田市場のすぐ隣にあります。写真の奥が市場です。
じつは、この公園も、尾久の原公園と同じようなかたちで生まれた場所でした。大田市場とするための工事がはじまるまで、しばらく放置されていた埋立地に、雨水がたまって池や湿地ができ、ヨシ原や草原が誕生。そこに野鳥が集まるようになったのです。
公園の周囲には、大きな倉庫が並びます。
園内のネイチャーセンターから観察。望遠鏡が置いてあるので手ぶらでいっても楽しめますよ。
この公園の目玉は野鳥だけではありません。カニやトビハゼが生息する干潟が近くから見られるのです。
このハサミの白いのがチゴガニです。
アピールに余念がないチゴガニ。
カニを観察しようと奮闘する川上さん。
羽田空港近く(多摩川)の干潟
この日最後の目的地は、多摩川河口の干潟です。羽田空港手前の天空橋駅から移動します。
白い点々はぜんぶカニです。野鳥公園に復元された干潟にもたくさんの生き物がいましたが、こちらは比較にならないほどの数がいます。
白い点々の正体は、ヤマトオサガニです。
羽田といえば、空港よりも穴子です。地元の名店で穴子の天丼で〆。
お疲れ様でした!
『東京いきもの散歩』では、新宿・目白(山の手)、柴又・隅田川(下町)、白金・明治神宮・皇居、葛西・大田区(埋立地)などにすむ生き物と、それぞれの街や公園のユニークな成り立ちの物語を紹介していきます。
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●川上洋一(かわかみ・よういち)
1955年、東京都新宿生まれ。環境教育に携わりながら、自然科学を専門としたイラストレーター・ライターに。数十年にわたり里山生物の保全活動を続ける。著書に『世界珍虫図鑑』『東京 消える生き物 増える生き物』など。日本テレビ『ザ!鉄腕!DASH!!』の「新宿DASH」にレギュラー出演中。
川上洋一『東京いきもの散歩——江戸から受け継ぐ自然を探しに』は2018年6月19日に早川書房より刊行予定です。