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ハーバードのトップ天体物理学者が世に問う大胆な仮説!『オウムアムアは地球人を見たか?』試し読み

「謙虚たれ、地球人」

(著者の講演会を報じた地元紙の見出しより)

 ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、パブリッシャーズ・ウィークリーの各紙誌でベストセラーとなり、Amazonベストブックにも選ばれた話題の書、『オウムアムアは地球人を見たか?』(アヴィ・ローブ:著、松井信彦:翻訳)が4月5日に発売となります。 
 2017年、観測史上初めて太陽系外から飛来した謎の天体「オウムアムア」。その正体をめぐっては、世界中の科学者や天文ファンの間で熱い議論が繰り広げられました。
 そんな中、世界トップクラスの天体物理学者で、アメリカ大統領科学技術諮問委員など要職を歴任するアヴィ・ローブ博士が、科学的検討を重ねた末にたどり着いた驚きの結論とは……?
 宇宙飛行士の山崎直子さんも「時空を超えた捜査から目が離せない」と賛辞を贈る、このノンフィクションの冒頭部分を特別公開します。

はじめに

 時間が取れたら、外へ出て宇宙に見とれてみよう。もちろん夜なら申し分ない。だが、それとわかる天体が真昼の太陽だけのときにも、宇宙は必ずそこにあって目を向けられるのを待っている。思うに、空を見上げるだけでも物の見方は変わりうる。

 頭上に広がる光景がひときわ壮観なのは夜だが、それは宇宙の性質ではない。人間の都合だ。私たちの大半が昼間はほとんど、いろいろな用事にかまけて目の前数十センチないし数メートルの範囲に気を取られている。頭上に意識が向くとしたら、たいてい天気が気になったときだ。それでも、夜になれば地上での気苦労はえてして薄らぐし、月や星や天の川が、運が良ければ彗星や人工衛星が通り過ぎていく様子が、市販の天体望遠鏡で、さらには肉眼でも見えてくる。

 思い立って見上げれば目に飛び込んでくるあの光景は、有史以来、人類にインスピレーションを与え続けてきた。近年では、ヨーロッパ各地で見つかっている4万年前の洞窟壁画が、私たちの遠い祖先が星の動きを追っていた証拠だと考えられている。詩人に哲学者、神学者から科学者まで、人類は宇宙を見て畏敬の念を抱いたり、行動に駆り立てられたり、文明を進歩させたりしてきた。実際、ニコラウス・コペルニクス、ガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートンによる科学革命に勢いを与えて、地球を物理宇宙の中心の座から引きずり降ろしたのは、まだ萌芽期だった天文学だ。みずからをおとしめるようなこの世界観を唱えたのは彼らが初めてではなかったが、先人の哲学者や神学者とは違って、彼らは仮説を立てて証拠で裏付けるというアプローチを採っており、以来それは人類文明の進歩を見極める試金石となっている。

***

 私は職業人生の大半を、宇宙への好奇心を慎重に、徹底的に、厳密に満たすことに費やしてきた。地球の大気圏外のことなら何でも、直接または間接的に私の本業の守備範囲に入ってくる。本書の執筆時点で、私はハーバード大学天文学科の学科長、ハーバード大学ブラックホール・イニシアチブの創設者兼所長、ハーバード・スミソニアン天体物理学センター理論計算研究所の所長、ブレイクスルー・スターショット計画の委員長、全米アカデミーズ物理学および天文学委員会の委員長、エルサレムのヘブライ大学「アインシュタイン:不可能を可視化する」デジタルプラットフォーム諮問委員会の委員、そして米国大統領科学技術諮問委員会の委員の任を仰せつかっている。私は恵まれており、宇宙を巡る実に奥深い問いの数々について、並外れて才能豊かな大勢の学者や学生と一緒に検討している。

 本書で向き合うのはそうした奥深い問いの一つ、最重要と言えそうな問いだ──私たちだけなのか? この問いは昔からさまざまに言い表されてきた。たとえば、地球上の生命は宇宙で唯一の生命なのか? 人類は果てしなく広がる時空において唯一知覚力を持つ知性なのか? もっとうまく、もっと正確にはたとえばこう言えよう。宇宙ができてこのかた、途方もなく広大な空間のどこかに、知覚力を持つ文明が今ほかにもいて、あるいはかつていて、私たちと同様に星々を探査してその営みの痕跡を残したか?

 この最後の問いへの答えが〝イエス〟だという仮説を支持する証拠が2017年に太陽系を通り過ぎていった。私はそう考えている。本書ではその証拠に目を向けてこの仮説を検証し、科学者が超対称性、余剰次元、ダークマターの性質、多宇宙(マルチバース)の可能性に関する臆測を信じているのと同じようにこの仮説を信じるならどういう話になりうるのかを問うていく。

 本書ではさらに、ある意味もっと難しいもう一つの問いについても考えていく──私たちには、科学者にも市民にも、備えができているか? 地球上の生命は唯一無二ではなく、もしかするとそう抜きん出た存在でもないという、証拠に裏付けられた仮説に基づく信憑性のある結論を受け入れたあとのことに、人類文明は向き合う準備ができているのか? 残念ながらその答えは〝ノー〟であり、支配的な先入観が心配の種である。

***(略)***

 生命の始まりから万物の起源まで、科学上の疑問の答えを追い求めることは、人類による何より高慢な企ての一つと映るかもしれないが、追い求める行為そのものは謙虚な営みだ。人間一人の寿命は何を基準に考えても実に短く、個人の偉業は何世代にもわたる努力の集積としてしか見えてこない。私たちは誰もが先人の肩の上に立っており、その私たちの肩もあとに続く者たちの営みを支える必要がある。それを怠れば、私たちやあとに続く者たちを危険にさらすことになる。

 人類が宇宙を理解するのに苦労しているのはこちらの理解力の問題であり、事実や自然法則の問題ではない。そんな私たちの認識にも謙虚さを見て取れる。私は若い頃に哲学者を目指していたので、このことを早くから自覚していた。その後、駆け出しの物理学者としてあらためて思い知り、ある意味偶然になった天体物理学者としていっそう深くそう思うに至っている。私は10代の頃、実存主義者に、そして彼らの視線の先に不条理とも思える世界と向き合う個人がいることに、大きな衝撃を受けた。天体物理学者としての私は自分の人生を、というかあらゆる生命を、宇宙の壮大なスケールに照らして意識する。謙虚な目で見ると、哲学も宇宙も私たちはもっとうまくやれるという希望を抱かせるものだ。世界各国による適切な科学協力と本当の意味でのグローバルな視点が求められるにしても、私たちはもっとうまくやれる。

 私はもう一つ、人類にはちょっとした後押しが必要なときがあるとも思っている。

 地球外生命の証拠が太陽系に現れたら、私たちは気づくだろうか? 地平線のかなたに重力をものともしない宇宙船が大音響とともに現れると予想しているなら、現れ方が違った場合にかすかな物音を聞き逃すリスクがあるのでは? 地球外生命の証拠が、たとえば作動していないか壊れたかしたテクノロジーだったとしたら? 発祥以来10億年になる文明のごみに当たる何かとか。

***(略)***

 本書で検討する証拠の大半は、2017年10月19日からの11日間に集められたものだ。知られている限り初の星間空間からの来客に対し、与えられた観測期間はこれだけだった。この特異な天体については、得られたデータの分析結果をほかの観測結果と考え合わせていろいろな推定がなされている。11日とはたいした日数に思えず、もっと証拠を集められていたらと願わない科学者はいないが、それでも大量のデータが得られており、さまざまな事柄を推定できるので、本書ではそれぞれ詳しくご紹介しよう。ここで、データを検証した誰もが同意する結論が一つある。この来客がこれまで調べられてきたほかのどの天体と比べても奇想天外だったことだ。そして、観測されたこの天体固有の特徴を漏れなく説明しようと提唱されている仮説もやはり従来の説と比べて奇想天外である。

 観測された特異な特徴の数々に対する最も簡潔な説明として、私は〝この天体は地球外の知的文明によってつくられた〟と唱えている。

 もちろん仮説だが、徹底して科学的な仮説だ。とはいえ、ここから導かれうる結論は、そしてこの結論をふまえて私たちが取りうる行動も、科学の枠には収まらない。というのも、人類が答えを探し求めてきた深遠な問い、宗教や哲学や科学的方法の目を通して眺められてきた問いのいくつかを、私の単純な仮説が明るみに出すからだ。そうした問いは、人類の文明や宇宙に存在する生命にとって、要はあらゆる生命にとって、何かしらの重要性があることすべてに関わっている。

 透明性に配慮してお伝えしておくが、私の仮説を〝流行らない〟、〝科学の主流から外れている〟、さらには〝発想に深刻な難あり〟と考える科学者がいる。だが、私たちが犯しうる最悪の過ちは、この可能性に対する取り組みに真剣味が足りないことだと私は考える。

 説明させてもらいたい。

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この続きは製品版でお楽しみください!

■著者紹介
アヴィ・ローブ
(AVI LOEB)
1962年生まれ。ハーバード大学教授で、2011年から2020年まで天文学科長を務める。ハーバード大学ブラックホール・イニシアチブ創設者兼所長。ハーバード・スミソニアン天体物理学センター理論計算研究所所長。またブレイクスルー・スターショット計画委員長、米国アカデミー物理学および天文学委員会の委員長を務めている。米国大統領科学技術諮問委員会の委員でもあり、2012年には《タイム》誌が選ぶ「宇宙で最も影響力のある25人」の一人に選ばれている。2021年に始動した、異星文明の証拠を探索する「ガリレオ・プロジェクト」を率いる。ボストン近郊在住。

■訳者略歴
松井信彦
(まつい・のぶひこ)
翻訳家。慶應義塾大学大学院理工学研究科電気工学専攻前期博士課程(修士課程)修了。訳書にイ&ユン『人類との遭遇』、シュワルツ&ロンドン『神経免疫学革命』、ハンド『「偶然」の統計学』、レヴィン『重力波は歌う』(共訳)、ビリングズ『五〇億年の孤独』(以上早川書房)、ラッセル『AI新生』、ミーオドヴニク『Liquid 液体』ほか。


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