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月ノ美兎が語る戯曲『サマータイムマシン・ブルース』(ヨーロッパ企画)

祝・劇団「ヨーロッパ企画」20周年! 早川書房では、今夏より再演される代表作『サマータイムマシン・ブルース』を刊行しました。2005年には本広克行監督で映画化された本作。最新作『サマータイムマシン・ワンスモア』もひかえるなか、改めて伝説のSF青春コメディ戯曲をお楽しみください。

上田誠『サマータイムマシン・ブルース』
(※書影はAmazonにリンクしています)

さらに今回「SFマガジン」の特別企画として、ヨーロッパ企画好きとして知られる大人気バーチャルライバー・月ノ美兎さんによる書評インタビューを大公開! 委員長が語るヨーロッパ企画と、その代表作の魅力とは?

月ノ美兎 (@MitoTsukino) 

■ヨーロッパ企画との出逢い

――劇団「ヨーロッパ企画」を初めて知ったのはいつのことでしょう? 

月ノ美兎 4~5年前に上野樹里ファンの友達からお薦めされた『サマータイムマシン・ブルース』映画版のDVDで知りました。もともと「電流イライラ酒」とかのゲームムービーは遊んでたんですけど、それと劇団としてのヨーロッパ企画さんのお名前が繋がったのは映画がきっかけだったと思います。

――ヨーロッパ企画のゲームの魅力を教えてください。

月ノ美兎 途中で自分がゲームやってるっていうのを忘れてくるんですよね。友達同士がぐだぐだ遊んでいるところに自分も混ざっていくというか。そういうぬるい空気感が好きです。
 最初に実況をしようと思ったのが「名探偵スワ」の選択肢のすべてをスルーしたときで、そこで「ヨーロッパ企画さんのゲームはおもしろい!」という確信をもってゲーム実況に使わせていただくようになりました。ブラウザ版のゲームムービーとゲームムービーフェスティバルの1と2は全部プレイしています。

――いちばんお気に入りのゲームと、いちばん反響の大きかったゲームを、それぞれ教えてください。

月ノ美兎 個人的におもしろかったのは「登人」ですが、いちばん反応が大きかったのは……「ステレオタイプ・ボーイズラブ」です。事前プレイとかしてなくて、ぶっつけ本番だったので……あのときは本当に……必死でした。

■『サマータイムマシン・ブルース』について

――そんなヨーロッパ企画さんとご縁のある月ノ美兎さんに、このたび映画化もされた戯曲『サマータイムマシン・ブルース』を読んでいただきました。ふだん戯曲や脚本をお読みになることはありますか?

月ノ美兎 映画研究部に入ってから脚本関係の本はいくつか読みましたけど、プロの劇団の戯曲を読んだのはこの本が初めてでした。小説とかと違って、ほとんどが登場人物名とセリフで書かれているじゃないですか。最初はその形式自体に慣れなくて、名字が2文字の方たちがたくさん出てくるけど誰が誰だっけ……って(笑)。なんとなく人物の似顔絵とかを描いてイメージするようにしたら、だんだん読み方がわかって楽しくなってきました。

――そうして最後まで読んでいただいて、ご感想はいかがでしたか。

月ノ美兎 慣れてからはセリフ量の多さが全然苦にならなくて、それどころか書かれていないはずのどんな表情や動作をしながら話しているのか……っていう細かい描写まで想像できるようになってきて、その没入感がすごくおもしろかったです。 

 学生サークルの仲間たちがタイムマシンを見つけちゃって、みんなすごいテンションが上がって何度も昨日とかにタイムトラベルするんだけど、あとから「過去を変えちゃうのやばくない……?」みたいに急に冷静になって、なんとかしようとしていくというお話でした。ハリウッド映画みたいにすごく大きな事件が起きるわけでもなく、あくまで全部軽いノリでやってるのがすごくリアルでしたね。実際、日常でタイムマシンを見つけたらこうするんだろうな……という、劇的すぎない感じ。

 ちょいちょいトラブルは起こるんですが、すごい勢いで読者にも全部わかるように説明されるのがおもしろかったです。普通の小説や映画なら読者にだけ伝わるようにする情報とかあると思うんですけど、演者さんと全部の情報を共有するようにして物語が進んでいく。自分もそのサークルの輪に入って、一緒に解決策を探しているような楽しさがありました。初対面なはずなのに「お友達感」がすごい。そういう洗練されたぬるい身内ノリみたいな空気を、文章の力だけで出していくのがすごくお上手だなと感じました。

2005年の舞台写真(撮影:原田直樹)

――夏休みの部活もの…ということで、ご自身の経験と重なる部分などありましたか。

月ノ美兎 わたくしも中学生のころ吹奏楽部だったんですけど、ほとんど練習しない部活で。部室にエアコンもなくて、夏休みも暑いなか漫画の回し読みとかばかりしてました。まさにこの本のSF研みたいな、ぐだぐだした雰囲気のなかで暮らしていたので、作中の空気にもなじみやすかったです。

――作中でこの役を演じてみたいとか、他のにじさんじメンバーにこの役をやってほしいと思った役はありましたか?

月ノ美兎 演じるかはともかく……いちばん親近感を覚えたのは、映画でも舞台でも永野宗典さんが演じられていた曽我でしょうか。小柄で、一人だけタイムマシンでひどいめにあっている。わたくしも背が小さくて乗り物で体調を崩しやすいので、いろいろ共感できました。
 にじさんじのメンバーだと、えるちゃん小泉石松みたいな、めちゃくちゃなことを言って場を煽っていくムードメーカー役が向いていると思います。楓ちゃんは……ケチャ(犬)でいいんじゃないですかね(笑)。

■映画とSF、みなさんへのメッセージ

――月ノ美兎さんご自身も映画研究部で、脚本制作もされるということで、その視点から本作・本書はいかがでしたか。

月ノ美兎 わたくしの映画研究部がふだん作っているのはオリジナルもので、コメディもシリアスなのもあります。脚本を書くこともあるので『サマータイムマシン・ブルース』の生き生きしたやりとりは勉強になりますね。わたくしが書くものもセリフが多くなる傾向にあるので、こういう一箇所に大人数が集まるお話は相当難しそうだなと。役者さんのアドリブをそのまま書き起こしているみたいなリアルさじゃないですか。全員楽しそうなのがすごいですよね。
 いちばん笑ったのはタイムマシンを見つけたときの部員のリアクションで、ドラえもん来ちゃった!? っていうのを「Dが来た!」「TMに乗って!」「DYを食べながら!」となぜかイニシャルトークで喋ってたシーンですね。この人たちおもしろいな、っていう。
 映画を観たのもだいぶ前のことなんですけど、こうやってあらためて戯曲として読むと、どうでもいい掛け合いの部分にもおもしろさが詰まっていたんだなって思いました。

――ちなみに、こういったSF作品で他にお好きなものはありますか?

月ノ美兎 時をかける系のSFだと、映画『バタフライ・エフェクト』が大好きです。『バタフライ~』は時間を巻き戻すたびに劇的なことの連続ですけど、『サマータイムマシン・ブルース』は逆に、まったく劇的なことが起きない(笑)。どちらもおもしろいですけど、同じテーマなのにめちゃめちゃ振れ幅が大きいですね……。ヨーロッパ企画さんは、わたくしたちの日常の延長にある世界を、誇張せず、魅力的に描いてくれるなあと。

――そんなヨーロッパ企画ですが、今年で結成20周年となるそうです。

月ノ美兎 20周年……わたくしは結成当時から演劇を追ってきたわけではないのですが、あ、わたくし16歳なので生まれる前ですね……とにかく、Vtuberを始める前からファンだったので、とてもおめでたいことだと思います。勝手に始めたゲームの実況も、温かく見過ごしていただいてありがとうございます……。許していただけるのなら今までどおり、応援するつもりで続けさせていただけると嬉しいです。

――最後に本書について、みなさんへのメッセージをお願いします。

月ノ美兎 『サマータイムマシン・ブルース』は、わたくしが動画で実況させてもらっているゲームのゆるっとした空気感を、そのまま文章でも体験できるとても楽しい本でした。あまり戯曲を読み慣れていないわたくしでもすごくおもしろかったので、ぜひみなさんも読んでみてください! 一緒に登場人物たちの輪に入るような気持ちで、部員の顔を想像したり絵に描いてみたりしながら読むのもオススメですよ!!

――ありがとうございました!

(2018年7月5日/於・にじさんじ/聞き手&構成:SFマガジン編集部)

『サマータイムマシン・ブルース』
(単行本)

〔あらすじ〕
夏、とある大学の、SF研究会の部室。SF研究を一切しない部員たちと、その奥の暗室に居をかまえる、カメラクラブのメンバーたち。そんな日常に、ふと見ると、部屋の片隅に見慣れぬ物体。「これってタイムマシンじゃん!」どうやらそれは本物。興奮する一同。先発隊に選ばれた3人は早速タイムマシンに乗り込み、昨日へと向かうが……。

〔著者紹介〕
上田誠
(うえだ・まこと)
1979年京都府生まれ。劇団・ヨーロッパ企画代表にして、全公演の脚本・演出を担当。これまでに「冬のユリゲラー」「囲むフォーメーション」「平凡なウェーイ」「Windows5000」がそれぞれOMS戯曲賞最終候補となり、2017年、「来てけつかるべき新世界」第61回岸田國士戯曲賞受賞。劇団公演以外の主な参加作品に、映画「サマータイムマシン・ブルース」(2005)、「曲がれ! スプーン」(2009)、劇場アニメ「夜は短し歩けよ乙女」(2017)、「ペンギン・ハイウェイ」(2018)の脚本など。

公演情報はこちら(ヨーロッパ企画公式サイト)

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