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ここではない、どこか遠くへ――担当編集が語る川端裕人『青い海の宇宙港』の魅力

 ハヤカワ文庫JAで好評発売中の青春小説、川端裕人『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇。担当編集は本作に文庫化から関わり、強く思いました。

 この素晴らしい作品をもっと多くの人に読んでもらいたい!!
と。

 というわけで読みどころをアツく紹介してみました。
 2、3分、時間をください!

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川端裕人『青い海の宇宙港 春夏篇』
ハヤカワ文庫JA 本体価格780円+税

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川端裕人『青い海の宇宙港 秋冬篇』
ハヤカワ文庫JA 本体価格820円+税

(書影はそれぞれamazonにリンクしています)

☆『青い海の宇宙港』とは☆

 早川書房の雑誌《SFマガジン》で2015年2月号から2016年8月号にかけて連載された長篇小説。今年の7月に文庫化されました。
 親元を離れ、ロケットの発射場がある多根島(たねじま)という島に離島留学(作中では「宇宙遊学」と言われます)をしに来た小学6年生の天羽駆(あもうかける)を主人公に、宇宙遊学生の周太・萌奈美、多根島の在校生・希実が、島の大人たちの助けを借りて宇宙まで届く本物のロケットを打ち上げるまでの一年を描いた物語です。

詳しいあらすじはこちら↓↓

☆担当と本作の出会い☆

☆読みどころの紹介

①こんな子ども時代を過ごしたかった!

 駆たちがやってきた多根島は、タイトル通り青い海に囲まれ、魚や昆虫などが多く生息する豊かな自然と、最先端の宇宙関連施設が同居する奇跡のような島。大人の私としては、仕事を放棄してでも行きたい(!)場所です。

青緑色の海、深い青の空、そして、大型ロケットの射点がまるまる見えた。丘の途中でまわりには木が生えているのに、ここだけ畑になっていて、見晴らしが良い。海と空と、ロケットの射点。こういったものが、一緒に見えるなんて、本当にすごい。おまけに、ここは、駆が一年間を過ごす家のすぐ近くなのだ。

 また、彼らが島で出会う大人たちとのドラマも読みどころ。
 宇宙関連企業で広報を担当する青年・加勢遙遠(かせはると)を筆頭に、遙遠の同僚で希実の姉・菜々、遙遠の先輩でいぶし銀のエンジニア・ゾノさん、駆の担任で歴史好きの千景(ちかげ)先生、駆の里親となるおやじとおかあ、おやじの弟で小さい宇宙関連企業を営む寡黙な岩堂さんなど、後述のようにそれぞれに想いを抱えた大人たちとの交流が、子どもたちを成長させていきます。
 自分も子どもの頃にこんな経験がしたかった!!と、強く思いました。

②大人たちの青春と一歩を踏み出す勇気に共感! 

 多根島の大人たちも、それぞれに現状に不満を抱えています。
 遙遠はエンジニアとして活躍したい一心ですが、配属されたのはまったく眼中になかった広報部。自分より知識のないぽっと出の後輩がロケットの発射業務に携わるのを見て、悔しさをにじませる日々が続いています。

「加勢君は、興味の幅が広い。これまで通常業務の他にも、数々のプロジェクトに首を突っ込んできたと聞いている。社内審査会の自主企画で一番、名前を見るのが加勢君だとか。その経験と意欲を活かすために多根島に行ってほしい」
「多根島宇宙港で、新規ロケットシステムの開発をする仕事ですか」
 遙遠はその時、最終段階に入っていたゼータ3型ロケットのフルスラスト構成チームに入るのだと勘違いした。そして、心の中で大きくガッツポーズを決めていたことを認めなければならない。
「いや、広報だ」
「コウホウ?」
「宇宙港の広報は宇宙開発の総合店舗。すべてにかかわり、すべてを見渡す立場だ」
 最初、言葉の文字列がランダムに割り振られた記号に思えたほど、意味不明だった。それほど、遙遠にとって意外であり、青天の霹靂に等しかった。
    (中略)
 自分がここにいる意義を見いだすことはできたし、また、積極的に他の業務にも首を突っ込んだので、飽きることはなかった。宇宙開発の総合店舗。すべてにかかわり、すべてを見渡す。そういう惹句もあながち嘘とは言えなかった。
 ただし、時間が過ぎるとともに、遙遠はしばしば苛立ちを抱くようになった。
 ふとした時に、自分の指先を見つめ、そのまま立ち止まる。隙間に汚れのない爪先や、油のしみひとつない指の腹に、なにか物足りなさを感じてならない。この指は、パソコンに向かってキーボードを叩くのではなく、もっとゴツゴツした仕事をしたがっている。

 千景先生は大きな街の学校に配属されたらと願いつつも、実際は島民全員が顔見知りの島に配属され、ちょっとだけ息苦しさを感じています。

二十代後半の時期を、商店街がわずか百メートルくらいの一本道だけで終わってしまうような小さな町で暮らすことになるとは! 小洒落たカフェや、気の利いた服が手に入る服飾店などあろうはずがない。それどころか、人が少なすぎて、新参者が異常に目立つから困る。赴任当日の夜に入った定食屋で、「新しい先生」だとすでに知られていたのは恐れ入った。華美を避け、ひっそりと暮らす覚悟を決めざるをえなかった。

 岩堂さんは、近代化によって島の伝統が忘れ去られていくことに焦っています。

(前略)
「それとも、おまえさんたちが、新しい伝統を創るのか。龍満神社ゆかりの八大ガオウ(※)すら、多くは失われたのだぞ。今さら新しく、創り出すことなどできるのか。古いものをただ失う者たちに、新しいものは作れない。違うか」

※編集註:ガオウ……多根島の神域であり、パワースポットのようなもの 

 島の大人に共通しているのは、現状には満足していないが、もう自分たちは置かれた場所で生きるしかないのか……という思い。
 そんな大人たちが、子どもたちの情熱に満ちた姿を見て少しずつ再起し、自身の夢や目標を思い出し、前を向いて歩きだす。その一連の流れがまさに「胸アツ」なのです! 大人になっても夢を追うことの素晴らしさが、真正面から描かれています。ここはぜひ本篇でお楽しみください!

③科学描写も丁寧でバッチリ!

 著者の川端裕人さんは、日本テレビに入社後、科学技術庁や気象庁の担当記者を経て、1997年に退社。1998年に『夏のロケット』で小説家デビュー。2000年『動物園にできること』で大宅壮一ノンフィクション賞候補、2001年『せちやん』で吉川英治文学新人賞候補、2018年『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』で講談社科学出版賞を受賞と、確かな取材力をもとにフィクション・ノンフィクションの両方で活躍されています。本作でも綿密な取材に裏打ちされた描写は健在。私たちの真上にある宇宙への憧れを、深く、透明感溢れる筆致で描いています。

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『川の名前』では川に魅せられた少年たちのひと夏の冒険と出会いを、『夏のロケット』では宇宙に魅せられた大人たちの二度目の青春を、『雲の王』では気象予測と少年の成長を、「銀河へキックオフ!!」のタイトルでアニメにもなった『銀河のワールドカップ』では、キャリア半ばで道を断たれたサッカー選手と少年少女サッカーチームの交流と夢を、『ふにゅう』では夫婦に、そして親になるということを、それぞれ丹念に、かつ温かいまなざしで描いてきた川端裕人さん。
 主人公が子どもであれ大人であれ、川端さんの作品に共通しているのは、リアルを突き詰める姿勢と、すべての人や自然へ向けられた慈愛に満ちたまなざしだと思っています。『青い海の宇宙港』はそんな川端さんの集大成ともいうべき作品であり、デビュー20年(と少し)にふさわしい作品です。

本作『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』をより多くの方に手に取っていただきたいと、担当として強く思っております。冬休みの読書に、ぜひお迎えください。

「天羽くん、おれの判断はゴーだ」加勢さんが言う。
「はい。ぼくの判断も同じです」
「では、少年、地上ではない、遠いどこかへ──」
 加勢さんが言葉をため、駆も息を整えた。
「「今すぐ旅立とう!」」

試し読みはこちら↓↓

川端裕人さんによる文庫版あとがきはこちら↓↓

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川端裕人『青い海の宇宙港 春夏篇』
ハヤカワ文庫JA 本体価格780円+税

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川端裕人『青い海の宇宙港 秋冬篇』
ハヤカワ文庫JA 本体価格820円+税

(書影はそれぞれamazonにリンクしています)