自分が1990年代育ちかどうか判別するには

あなたはいつ生まれましたか？
たいていの人にとって、これは簡単な質問だ。自分の誕生日を正確に知らない人でも、普通は数年の幅で、いつごろ生まれたかを言うことができる。

しかし、インターネットには、あなたが生まれた年代を特定するのに役立つと謳うページがあふれている。これらのページの年代特定はたいてい、あなたが生まれて初めて世間の流行を意識しはじめたころに、アメリカの大衆文化で何が起こっていたかに基づいている。

もちろん、この類のクイズは、自分がいつ生まれたかをあなたが突き止めるのを助けるのが目的ではない。それは、＂世間には自分がそこに属する、共通の思い出で結びついたグループがひとつ存在しているのだ＂という意識を、あなたに持たせようとしているのだ。

子どもをターゲットにした映画やテレビ番組は、この種のクイズに特にぴったりだ。それは、子ども時代の思い出は、懐かしいという感情を引き起こすだけではなく、子ども向けの番組はごく狭い範囲の年齢層だけをターゲットにしていることが多いため、「世代」を細かく区別できるからだ。あなたがどのような組み合わせの娯楽媒体とともに成長したかは、あなたの年齢を2、3年の幅で特定できる場合もあるほど、正確な「指紋」となることが多い。

たとえば、1980 年代の初期から中ごろに生まれた人々は、『リトル・マーメイド』（1989年）、『美女と野獣』（1991年）、『アラジン』（1992年）など、初期の「ディズニー・ルネサンス」（ディズニーの長篇アニメーション映画作品が相次いで成功を収め、ディズニーの評価と人気が飛躍的に回復した時期）の映画を見て成長したことを特に懐かしく覚えているのではないだろうか。

一方、1980年代後半に生まれた人々は、『ライオン・キング』（1994年）や『トイ・ストーリー』（1995年）を成長期に見たという、より鮮明な記憶を持っているだろう。1980年代前半に生まれた人々の多くは、1990年代後半の、ポケモンの爆発的なブームにはまるにはもう大きくなりすぎていただろう。その一方で、1980年代後半に生まれた人々は、マサチューセッツ州出身の5人組ボーイ・バンド、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックを聞くにはまだ幼すぎただろう。

どうやら、このような回り道で自分の年齢を特定する方法に対する需要が存在するようだ。だが、特定する手がかりを、映画とテレビ番組だけにしておくことはないのでは？ 世界は常にさまざまな変化をし、その痕跡を私たちに残しているのだから。

水疱瘡（みずぼうそう）パーティ

水疱瘡は水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる、痒みを伴う発疹で、発疹の跡は数週間残る。一般に、一度感染した人は、その後新たに感染することはない（しかし、治癒後に潜伏していたウイルスが何年も後になって再び活性化し、帯状疱疹と呼ばれる痛みを伴う発疹を生じることがある）。

20世紀のほぼ全体を通して、ほとんどすべての人が大人になるまでに水疱瘡に罹った。この病気は、子どもが罹るよりも大人が罹ったときのほうが重症になるので、親たちは自分の子どもたちがまだ幼いころに水疱瘡になることを望んで、彼らをウイルスにさらすために、水疱瘡に罹った子と罹っていない子を一緒に集めて「水疱瘡パーティ」を開いた。免疫を作って、リスクの高い成人してからの感染を避けようとしたわけだ。やがて1995年に水疱瘡のワクチンが登場すると、すべては一変した（※1）。

ワクチン導入後の10年間で、水疱瘡ワクチンの接種率は100％近くにまで上昇し、水疱瘡の発症件数は激減した。

だれもが罹る病気だった水疱瘡は、ワクチンが導入されてから20年のうちに、珍しい病気になった。1990年代中ごろ以降にアメリカに生まれた人には、水疱瘡はポリオと同じく、過去の病気だと思えるだろう。もしも水疱瘡と水疱瘡パーティを覚えているなら、あなたはおそらく1990年代かそれ以前に生まれたということだ。

予防接種の跡

水疱瘡の跡は残ることがあるが、水疱瘡のワクチンを接種しても跡は残らないのが普通だ。ほかの伝染病のワクチンは、その接種を受けた世代の体に跡を残している。

天然痘は水疱瘡とは別のウイルスによって起こる病気だが、人間が感染する感染性疾患としては、おそらく最も多くの死亡者を出しているだろう。ヨーロッパ人が南北アメリカ大陸にやってきたとき、天然痘も──肝炎などその他の病気とともに──一緒に持ち込まれてしまったが、先住民たちは生まれながらの免疫を持っておらず、感染に対し無防備だった。これらの病気はアメリカ大陸全域に広がり、そこに暮らしていた人々のほとんどが命を落とした。天然痘による死者の正確な数は知られていないが、20世紀だけでも、天然痘によって数億人が亡くなっている。

人間の宿主がいなければ、ウイルスは生き延びることができない。最初の天然痘ワクチンは18世紀末に開発されたが、19世紀が終わるまでに工業化国の大半で、比較的稀な病気となった。20世紀になると、医学の進歩によって世界中でワクチンの生産と輸送が容易になり、天然痘の撲滅を目指す世界的な運動が起こった。

それが功を奏し、「自然環境」における天然痘の感染は1977年にソマリアで発生したものが最後となり、また、1978年にある大学の研究室での事故によって起こった感染が史上最後の事例であり、それによる死者が、天然痘による最後の死者となっている。

天然痘のワクチンは、先端が二又に分かれた針を使って接種する（日本では「種痘［しゅとう］」と呼ぶ）。この針で皮膚の数カ所が一度に破れて、ワクチンが皮下に届く。

ワクチンには弱められたウイルスが含まれており、その接種により、実際に天然痘に感染したときと同じような腫れや水疱、かさぶたが接種箇所にひとつだけ生じる。2、3週間後、かさぶたの下の傷は治るが、種痘特有の丸い傷跡が残る。

アメリカにおける最後の天然痘感染は1949年のことで、アメリカとカナダの子どもに対する天然痘の定期予防接種は、1972年に終了した（日本では1976年に終了）。

あなたがアメリカまたはカナダの出身で、二の腕または脚の外側にこの予防接種痕があるなら、あなたは1970年ごろ以前に生まれたことになる（※2）。この丸い痕は、人類の最も恐ろしい敵との闘いで受けた戦傷だ。そして、あなたにこのような傷跡がないなら、それは私たちの勝利の証明である。

あなたの名前

赤ん坊につける名前にも流行り廃りがある。
なかには、常に一定の人気を誇る名前もある。エリザベス、マーシャル、スザンナ、ニーナ、そしてネルソンなどは、アメリカで何世代にもわたって一貫して人気がある。

ジョン、ジェームズ、ジョセフなど、聖書に由来する名前（それぞれ、ヨハネ、ヤコブ、ヨセフから来ている）も比較的一貫して人気がある。しかし、子どもの命名のパターンの変化も、あなたが知らないうちにあなたの年齢を知る手がかりになることがある。聖書に由来する名前のひとつ、サラは1980年代にはアメリカで最も人気の高い名前のひとつだったが、2010年代の中ごろまでには、アメリカでは「サラ」よりも「ブルックリン」と名づけられる赤ん坊のほうが多くなった。

ここに5年ごとのスパンで見た、その時期に生まれた人々に最も多く、そのころを代表するような名前のリストを挙げておく。人気があった時期が10年程度と、非常に短い名前もいくつかある。あなたがそのころアメリカで生まれたのなら、それらの名前は一般的でありふれたものと思われるかもしれないが、じつはあなたの世代をはっきりと示す証拠なのである。

あなたの同級生の名前がジェフ、リサ、マイケル、カレン、デイヴィッドなら、あなたはおそらく1960年代中ごろの生まれだろう。同級生がジェイデン、イザベラ、ソフィア、エヴァ、イーサンなら、たぶん2010年ごろの生まれだろう。

だが、名前が年齢を明かす方法は、ほかにもある。

1990年代中ごろのテレビドラマ、《フレンズ》は、マシュー、ジェニファー、コートニー、リサ、デイヴィッド、そしてもうひとりマシューという名前の俳優たちが演じる6人のルームメイトを中心に展開した。これらの名前はそれぞれに人気の浮沈を経ている。次のグラフのようにこれをすべて重ね合わせると、この6人の俳優たちが生まれた年代を推定することができる。

6人の俳優たちは、実際には1960年代の末、彼らの名前の人気がちょうど高まりはじめるころに生まれている。

言い換えれば、彼らは時代の少し先を行く名前を持っている。コートニー・コックスとジェニファー・アニストンの名前は、10年後になるまで人気が出ない（流行を先取りする親を持つ人々が俳優になることが多いということなのかもしれない）。それでも彼らの名前は少し時代を先取りしているとはいえ、年代別の人気の名前の傾向から外れてはいない。

だが、彼らが演じる登場人物たちの名前──フィービー、ジョセフ、ロス、チャンドラー、レイチェル、モニカ──を見ると、状況は違っている。

このテレビドラマの放送が始まったのは1994年だ。この6つの名前は1995年と1996年に明らかに人気が急上昇しているが、それはこのドラマのせいで、新しく親になる人たちの頭のなかにこうした名前が刻み込まれたからなのかもしれない。

だが、きっと番組だけが原因ではないだろう──これらの名前は、《フレンズ》の放送開始以前からはっきりと人気の上昇を示している。子どもにいい名前を探している親たちは、登場人物にいい名前を探しているテレビドラマのライターたちと同じ文化的傾向によって影響されただけなのかもしれない。

放射能を持つ歯

人類は1945年に核兵器を発明した。うまく作動するかどうかを確かめるために最初のひとつを爆発させ、続いて別のふたつを戦争で爆発させた。その戦争が終わると、ただ何が起こるか見るだけのために、さらに数千個の核兵器を、私たちは爆発させた。

これらのテストから、私たちは多くを学んだ。そのひとつが、「核兵器を爆発させると、放射能を持った塵が大気を満たす」ということだった。また、核兵器はさらに強力にできることもわかった。じつのところ、どれだけ強力にできるかには、ほとんど制約はなかった。これは人々を少し不安にさせた。アメリカ合衆国とソビエト連邦は、事実上世界を終わりにするのに十分な核兵器の備蓄をすぐに整えた。遠方にいる人間がボタンをひとつ押すだけで、今すぐにでも世界が終わるような大災害を引き起こせるという事実は、1950年代と60年代の子どもたちに強い印象を残した。

だが、残されたのは心の印象だけではなかった。身体にも痕跡が残されたのだ。

大気圏内での核爆発の大半は1950年代中ごろから終盤にかけて行なわれたが、1961年と1962年には、いっそう大規模な核実験が数度行なわれた。放射能汚染に対する懸念が高まるなか、アメリカとソ連は地上での核実験をすべて停止し、核実験は地下のみで行なうことに合意した。両国は1963年に部分的核実験禁止条約を締結し、大規模な大気圏内核実験の時代に終止符を打った。その後数十年のあいだ、フランスと中国が数回の大気圏内核実験を行なっただけだ。1980年10月16日に中国が行なったのが、地球の大気圏内での最後の核実験である（※3）。

これらの爆発によって生じた、放射能を持つ破片は、大気全体にまき散らされた。そこには多種多様な放射性元素が含まれていた。セシウム137などの放射性元素は人体に蓄積し、癌の原因となった。また、炭素14などは人間の健康には無害だが、放射性年代測定法を狂わせてしまい、考古学者たちには迷惑極まりなかった。

炭素14は宇宙線と大気の相互作用によって自然界で生成され、約5700年の半減期で窒素14へと崩壊する。大気中の炭素の一部は常に炭素14で、残りは炭素12と炭素13だ。やがて崩壊して別の元素になること以外は、炭素14は安定なほかの炭素同位体とまったく同じように振舞い、何の問題もなく有機物質（※4）に取り込まれる。

ある生命体が死ぬとき、その生物学的プロセスで起こっていた、大気とのあいだの炭素の交換が停止し、その生命体に含まれる炭素14の放射性崩壊が始まる。ある考古学的試料に炭素14がどれだけ残っているかを測定すれば、その生命体が新たな炭素14を受け取らなくなったのがどのくらい昔のことかを特定できる。つまり、その生命体がいつ死んだかを特定できるのだ。

この手法──放射性炭素年代測定法──が使えるのは、その生命体が生きていたときの大気中の炭素14の濃度がわかっているときだけだ。炭素14は宇宙線によって生成されるので、その濃度は長い歳月にわたってほぼ一定だと考えられるが、私たちの登場によって、そうではなくなってしまった。核実験で、大量の炭素14が大気に放出されてしまったのだ。

生命体の試料の年代を放射性炭素年代測定法で特定しようとする未来の考古学者は、20世紀に炭素14の濃度が異常に上がったことを必ず考慮に入れなければならないだろう。さもないと、せっかく発掘したすべての試料の年代を
誤って計算することになってしまう。

核実験で放出されたもうひとつの核汚染物質が、ストロンチウム90だ。ストロンチウムは化学的性質がカルシウムに似ているので、私たちの体はそれを歯や骨に取り込んでしまう。1960年代に子どもだった人々は、大量のストロンチウムを吸収している。研究者たちは1950年代から1960年代の乳歯を集め（※5）、ストロンチウム90の含有量を調べた。その結果、放射能による汚染が確認され、大気圏内核実験のモラトリアム実現の気運を高めた。

大気中のストロンチウム90の濃度は、1960年代前半以降低下している。歳月の経過とともに、自然に骨が再生するプロセスによってストロンチウムが除去されるにつれ、ベビーブーマー（第二次世界大戦直後にアメリカで出生率が急上昇した、1946 年ごろから1964 年ごろまでに生まれた人々のこと）の骨格に含まれるストロンチウムの濃度は低下した。1990年代までには、ベビーブーマーと子どもたちの骨格中のストロンチウム濃度は同じになった。

一方、歯は骨に比べ小さく安定しており、骨ほどのペースでは自然に再生しない。永久歯が1960 年代前半に形成されつつあった人々の歯は今日なお、ストロンチウム90の濃度がやや高い可能性がある。

核実験で大気に大量の放射性物質が放出されたのと同じように、有鉛ガソリン（微量の鉛を含むガソリン）が自動車に使われて大量に燃焼されたことにより、大気は鉛でも汚染された。これによって、20世紀中ごろには鉛中毒が広まり、1972年ごろがそのピークとなった。

1970年代後半、子どもの血中鉛濃度の平均値は1デシリットル当たり15マイクログラムだったが、それ以前の10 年間にはそれ以上の値だったと推測される。多くの地域の子どもたちの血中鉛濃度が20マイクログラム／デシリットルを超えていたが、今ではそれは、成長過程の脳に深刻な損傷を起こすのに十分な濃度であることが知られている。いくつかの研究から、歯のエナメル質（歯の最表層にあたる、人体でも最も硬いといわれている組織）に含まれる鉛は環境とのあいだで交換されないので、ベビーブーマーならびにＸ世代・ジェネレーションX（1960年代から1980 年代初めにかけて誕生した、ベビーブーマーの次の世代）の人々は、永久歯の鉛濃度もほかの世代の人々より高い可能性がある。

これらのストロンチウムと鉛は、いま実際に健康被害を起こすとは考えられないほど微量だが、それでも私たちは、これらの元素を子ども時代の記念品として持ちつづけているのだ。

20世紀中ごろに環境に放出された汚染物質の大半は、消えつつある。ヨウ素131 などの元素は、最初の数カ月は大量の放射線を出すが、すぐに崩壊してしまう。より寿命の長い炭素14 は、自然の炭素の循環によって除去されつつあり、今では炭素14 は、ほぼ「自然な」レベルまで低下している（※6）。

ストロンチウム90の半減期はもうひとつの主要な汚染源、セシウム137と同じく、約30年だ。本書（原書）出版時において、1960年代の核実験に由来するストロンチウム90とセシウム137の4分の1が残留している。

だが、放射性元素が徐々に環境から除去され、より不活性なかたちへとゆっくり崩壊するとしても、それらの元素の痕跡は私たちの体に残ったままだ。核実験が原因で発症した癌で亡くなった人はいったい何人いるのか、本当のことは誰にもわからない。少なく見積もって数千人、多く見積もって数十万人程度だろうか。これらの核兵器のテストによる、物言わぬ秘密の死者数は、広島と長崎の原爆投下による死者よりももしかすると多いかもしれない。第二次世界大戦後の短い期間に私たちが行なった選択が残した負の遺産は、今後も長いあいだ私たちのところに留まるだろう。

そのような次第で、自分が子どもだったのは1990年代か1950年代かを特定したければ、歯を調べよう。

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