岸田賞_お写真

【岸田賞受賞後第一作『出てこようとしてるトロンプルイユ』掲載記念】ヨーロッパ企画・上田誠スペシャルインタビュー!「観客の役者を見るリテラシーは上がって来ている」(悲劇喜劇2018年1月号)

『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞を受賞したヨーロッパ企画・上田誠。受賞後第一作となる『出てこようとしてるトロンプルイユ』は、1930年代のパリはモンマルトル、アトリエ長屋の屋根裏部屋を舞台にした「だまし絵コメディ」である。
このたび『出てこようとしてるトロンプルイユ』の『悲劇喜劇』掲載に合わせ上田氏にインタビューを行った(戯曲は『悲劇喜劇』2018年1月号・3月号に分載)。新作戯曲の創作秘話から、岸田國士戯曲賞のこと、作劇におけるポリシーや言葉と身体の関係まで、たっぷりと語ってもらった。

――「来てけつかるべき新世界」から上田さんの劇作スタイルには変化が見られます。企画性が依然として強くありながら、物語性、ディティールが強くなったと思います。スタイルの変化にはどのような考えがあるのでしょうか。

上田 変化についてはけっこう意識的かもしれません。そして変えていく、というよりは、以前やっていたことを踏襲しながら、次のテーマを掘っていく、というのを数年おきにやっているような感じです。
例えば初期には「SF群像シチュエーションコメディ」を主に目指していましたが、その数年後には、そうでありつつ「地形やモノと身体が絡む劇」を。そのあとには、かつ「舞台の高低差を生かした劇」を。そして2010年ごろからは、さらに「企画性の高い趣向を中心に据えた『企画性コメディ』」を、というふうに。
そうして前回公演「来てけつかるべき新世界」からは、そこに「ローカル性」のようなものを加えようとし始めています。まさにディテールや、具体的なストーリーを強めたりとか。どんどん足し算していってる感じですね。引き算も覚えないと、と思いながら。

――上田さんはインタビューにおいて、バラエティーとドキュメンタリーの要素がどちらも入っているものが好きで、ヨーロッパ企画はそこをやろうとしていると答えています。「出てこようとしてるトロンプルイユ」における、ドキュメンタリー的エピソードがありましたら、教えてください。(「出てこようとしてるトロンプルイユ」は2017年9月30日から12月3日まで本多劇場・ABCホールほかで全国11か所で上演。)

上田 せっかく生の舞台なので、なんらかのドキュメンタリー性があるほうがいいだろう、とは思っていて。たとえば舞台上で飲み食いしたり、ビンタしたリ、キスしたり、高いところに登ったり、そういうのって演技どうこうではなく「本当」のことなので、舞台上に「本当」が載っている、っていう目の離せなさってあると思うんです。そういう、直接的な意味でのドキュメンタリー性は、常にうっすらとでも走らせておきたく思っていて。
今回でいうと「絵画を直接、拾ったり、持ち上げたり、捨てたりする」っていうのがそれです。実際に舞台上で「作業」が行われ、部屋が片付いていく、っていう。美術館のような設定で絵画を鑑賞するのとは違う、絵という「物性」の生っぽさが感じてもらえたらいいな、と。
あとは、巨人に食われて死ぬ、そして新たなレイヤーを生きる、を相当回繰り返す、というのも、身体的にはかなりドキュメンタリックなことだと思います。
設定としては「新しいレイヤーを、新しい身体で生きる」ことになっていても、やっぱり役者の体は、(当たり前ですけど)前のレイヤーで走り回ったことを引きずるので。
あと、物語のことでいえば、「不遇のトロンプルイユ画家の煩悶と逆襲」とか、「これがイケてる、これが終わってる、の芸術談義」は、他人事ではありません。ドキュメンタリー性を感じながら作りました(笑)。

――上田さんは2017年に岸田國士戯曲賞を受賞しました。独創的で上質な戯曲を発表し続けてきた上田さんの受賞はごく自然だと思う一方、周りで驚かれた方も多かったと思います。上田さんは今回の受賞をどのように受け止めていらっしゃいますか。インタビューでは「ヨーロッパ企画の演劇は〈演劇〉と思われていないんじゃないかという不安があった」ともおっしゃっていますが・・・。

上田 今までそういう気配がなかったので、驚きでしたし、素直に嬉しかったです。「演劇シーン」のようなものの、真ん中にはいないな……という気がしていたので。けど、辺境から演劇をラディカルに考えていく、ようなことを、自分たちなりに続けてきたつもりではあるので、そこを見てもらえたようで、すごく有り難かったです。

――岸田賞の選考会では、作劇の技術と笑いの技術が賞賛されました。上田さんは作劇術をどのようにして磨いていったのでしょうか。また、作劇におけるポリシーや意識していることがあれば教えてください。

上田 他の作家さんたちの戯曲を読むことと、あとはテレビゲームやバラエティ番組など、演劇とは違うところから語りのエンジンを採り入れようとすることはよくあります。劇にするモチーフも、あまり演劇の俎上には載ったことがない材料を調理したがることが多いです。
あとは、役者から出る言葉や考え、スタッフのアイデアや癖を混ぜ込んで劇を作る、ということもよくやります。僕らはせっかく劇団でやっているので、そうやって多声的にモノを作るのが豊饒さにつながるんじゃないかと。稽古場でも、ディスカッションしたりエチュードしたり、皆でわいわい資料映像を見たりして、脚本の段階から集団的に作っていくようなイメージです。

――上田さんという劇作家は、その劇作スタイルにおいて、先行例をもたない劇作家のように思えます。素朴な質問ですが、好きな劇作家はいますか?

上田 松本雄吉さんは本当に大好きです。高校生の頃に初めて観た演劇が維新派でした。そうすると後にも先にもこんな方々はいなかった、という。畏れ多いですけど、京都で劇をやっていこう、と思ったのは、大阪を拠点に人跡未踏なことをされている維新派さんの影響は、僕としては少なからずあります。
土田英生さん率いるMONOの劇も、同じく高校生の頃に観ました。そして会話劇ってなんてカッコいいんだ、と思ってヨーロッパ企画のスタイルが始まったので、土田英生さんにもすごく影響を受けています。
三谷幸喜さんの劇やドラマに立て続けに触れたのも、高校生の頃でした。ビデオが擦り切れるほど繰り返し観ました。
という、青春期に出会ったお三方は、今でも大好きですし心の師匠です。

――ヨーロッパ企画の作品は、戯曲の言葉と役者の身体が自然に一致していると思います。役者は演技をしている感じがありません。言葉と身体の関係は、新劇・アングラ・現代演劇と、どの時代においても探求されてきたテーマだと思います。上田さんの考える言葉と身体の関係を教えてください。

上田 別人が書いた言葉を血肉にして喋る、ということが役者の仕事であるとはもちろん思うんですけど、一方で、例えばお笑いだと、漫才作家が書いた台本を芸人さんが喋っている、と分かると少し冷めてしまうところがあったり、音楽でも、作詞作曲と歌い手が分かれていた時代から、シンガーソングライターみたいなことがリアリティを持ち出して、今ではヒップホップなんて完全に作詞者と話者(っていうんですかね)が一緒で、しかも生成的だったりして。そんな風に、身体と言葉の一致、しかもそれがリアルタイムで放たれていること、への観客の認知とか欲求が、じわじわ高まっているのかなあ、と感じます。
それもあって、役者がしゃべる言葉は、できるだけエチュードで本人から出た言葉を、なるべく生成的なニュアンスで、言ってもらうようにすることが多いです。
とはいえ、例えば役者がはっきりと「役」を演じて「セリフ」を言っているときでも、観客はその役の物語を見ながら、役者の「演じ」の技術を見ながら、その役者のプライベートを透かし見る、ように、複数のレイヤーを同時に鑑賞する、ようなことになってきていて。つまり観客の、役者を見るリテラシーとか解像度が、とても上がって来ているように思います。ウソはばれるし、本当のことをやってほしいし、けど面白いウソをついてくれるならそれはそれでいいし、というような。
なんとなくそんな前提に立ちつつ、役者が今思いついて言ったような発話を目指したり、逆にすごく作られたようなセリフを言う面白味も求めたり、という感じでしょうか。

――今後、題材としたい土地、考えている企画がありましたら、教えてください。

上田 ビックリマンシールとファミコンは、隙あらばコメディにしたいなと思っています。あとはイースター島、インカ、香港、ギリシャ、あたりが土地としては気になります。どこも行ったことはないですが。

――来年は、ヨーロッパ企画創立20周年です。今後のヨーロッパ企画の活動としては、どのようなものを予定していますか。また、今後の劇団の方向性として、考えていることがあれば教えてください。

上田 20周年記念の本公演をやる予定です。例年よりもお祭り感の強いものを。あとは20周年だからというわけでもないんですが、劇団ぐるみでテレビや映像もいくつかやる予定です。これからも集団的な動きに拘っていけたらと。21年目以降が盛り下がらないように、作戦を考えなくては、というところです(笑)。


略歴
上田誠(うえだ・まこと)
ヨーロッパ企画の代表であり、すべての本公演の脚本・演出を担当。
外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。
03年以降、OMS戯曲賞にて「冬のユリゲラー」「囲むフォーメーション」「平凡なウェーイ」「Windows5000」がそれぞれ最終候補に。
10年、構成と脚本で参加したテレビアニメ「四畳半神話大系」が、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞受賞。
大喜利イベント「ダイナマイト関西2010 third」で優勝。「企画ナイト」ほか、イベントへの出演も数多い。
12年、ドラマ「ドラゴン青年団」では、シリーズ脚本と一部監督も手がける。
17年、「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。

*戯曲集『曲がれ! スプーン』(表題作と「サマータイムマシン・ブルース」を収録)が早川書房より好評発売中。

*戯曲『出てこようとしてるトロンプルイユ』(前篇)は、『悲劇喜劇』2018年1月号に掲載。(発売日:12月7日 定価:1,445円 特集:演劇経済学)http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013746/




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