「天狗倶楽部」の珍奇な逸話が満載! NHK大河ドラマ「いだてん」を100倍楽しめる『快絶壮遊〔天狗倶楽部〕──明治バンカラ交遊録』北原尚彦氏の解説を公開。

オリンピック出場選手:三島弥彦→生田斗真(演)
ヒゲの応援団員:吉岡信敬→
満島真之介(演)
天狗倶楽部リーダー:押川春浪→武井壮(演)
天狗倶楽部のナンバー2:中沢臨川→近藤公園(演)

NHK大河ドラマ「いだてん」にて強烈な印象を残しているバンカラ集団「天狗倶楽部」。実在の彼らは、日本に野球や相撲をスポーツとして定着させた運動サークルでした。

SF作家にして明治・大正のエンタメ小説と押川春浪研究の第一人者、横田順彌氏の「天狗倶楽部」紹介本の面白さがよくわかる、北原尚彦氏の解説を全文公開します!

横田順彌と〔天狗倶楽部〕

                作家・日本古典SF研究会会長    
                            北原尚彦  

 明治時代。スポーツ集団にして応援団、心優しくもバンカラ、奇絶にして怪絶、暑苦しくも愉快な連中がいた。押川春浪と〔天狗倶楽部〕の面々である。
 春浪は小説家であり雑誌編集者。代表作は『海島冒険奇譚 海底軍艦』に始まる冒険小説シリーズ。その作品には空想科学的要素もしばしば含まれるため、〝日本SFの祖〟とされる。
〔天狗倶楽部〕は、早稲田大学出身者を核として集まった、スポーツマンと作家・芸術家のグループである。押川春浪を頭目に、アマチュア野球の父となる飛田穂洲、画家の倉田白羊と小杉未醒、海外に柔道を広めた前田光世、新聞記者で弥次将軍と呼ばれた吉岡信敬など多士済々だ。
 ──本書はそんな彼らを起点に、明治期の文学界、芸術界、その他重要人物たちを紹介したものである。東京都歴史文化財団主催の『江戸東京自由大学』における講座「知られざる明治交流史」(1996年10月13日開催)に基づき、書き下ろされた単行本(教育出版《江戸東京ライブラリー》1999年)を、文庫化したものである。単行本の刊行は1999年6月だったが、同年同月、依頼を受けて横田氏宅で本の整理の手伝いをしたことがある。その際にできたばかりの見本を労働報酬として頂いた──という(個人的で恐縮だが)想い出の書である。
 明治時代について解説した本というと、教科書や小難しい学術書、というイメージがあるのではなかろうか。ところが本書に関しては、全くそんなことはない。それどころか、教科書には書かれていないような奇想天外な人々や、にわかには信じ難い面白いエピソードを教えてくれるのだ。しかもそれを書いているのがSF作家・横田順彌なのだから、詰まらないわけがない。
 横田順彌流の研究手法は、本書中にも書かれているが、とにかく上下に前後左右にと拡げていくこと。そのメインとなるものだけ調べていては見えない事柄が、そうすることで見えてくる、というものだ。
 そのため各章ごとに色々な方面に進んでいくので、著者の明治研究を俯瞰するのにも最適の書だと言えよう。ベースとなっているのが講演だということもあり、読んでいてあたかも著者が語って聞かせてくれているような心持になる。

 著者・横田順彌について。1945年佐賀県生まれ、本名同じ。本当の誕生日は11月だが、生まれた時に弱々しい赤ん坊だったため「これはもたないだろう」と親が考えてすぐには出生届が出されなかった。しかし無事に生き延び、ようやく出生届が出されたため、戸籍上は12月生まれになっている。
 1970年、〈週刊少年チャンピオン〉掲載の短篇「宇宙通信「X計画」」で商業デビュー。翌年〈SFマガジン〉にもデビューするが、これが小説と古典SFエッセイの同時掲載だったのは有名な話。そして1973年『日本SFこてん古典』の連載が始まる。戦後に始まるとされてきた日本SF史に、前史とも言うべき存在が明治・大正から昭和の戦前・戦中にもあったこと、それらが実は滅茶苦茶面白いことなどを教えてくれて〝古典SF〟という概念を確立させた。
 創作ではリリカルなファンタジイ、シリアスなSFなど様々な傾向の作品を書いていたが、中でも一番知られることになったのが「ハチャハチャSF」だろう。これはダジャレとメタフィクショナルな実験小説を融合させた、唯一無二(かもしれない)のジャンルである。『宇宙ゴミ大戦争』に始まる荒熊雪之丞シリーズがその中でも代表となるだろうか。別作品になるが、「朝だ。雨がふっている。朝だ雨(アサダアメ)だ」という書き出しなどは、(一定以上の年齢の)SFファンなら誰でも知っていると言ってもいいぐらいだ。
 SF界では〝ヨコジュン〟として親しまれる。小柄であり、かつ巨漢の鏡明と仲が良かったことから凸凹コンビとして有名に。平井和正『超革命的中学生集団』では彼をモデルにした〝横田順弥〟が主人公となっている(鏡明らも登場)。
 その後の研究対象は、古典SFから、明治期にSFを書いていた押川春浪、押川春浪が中心となっていた天狗倶楽部、彼らに関係していた明治人、さらには明治文化そのもの……と、どんどん広がっていった。
 横田順彌の明治研究は、いわゆる文学史などの〝正史〟以外にも様々な史実があり、忘れられた色々な作品があるのだ、ということを教えてくれた。また本書の中でも繰り返し語られているように、目的とする事物だけを研究するよりも、周辺の事柄まで研究した方が見えてくる場合もある、ということも。
『快男児押川春浪 日本SFの祖』(會津信吾との共著、1987年)で日本SF大賞を受賞。また『近代日本奇想小説史 明治篇』(2011年)では日本SF大賞特別賞、日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、大衆文学研究賞(大衆文学部門)をトリプル受賞した。
 一方、小説もハチャハチャSF中心から、押川春浪や〔天狗倶楽部〕らが活躍する〝明治SF〟中心へとシフトしていく。本人は「もっと早く明治SFに移行したかったのに、師匠にあたる小松左京さんが『ヨコジュンはハチャハチャSFを書け!』と言うから、書き続けたんだよ」と語っていた。この明治SFを書くために様々な明治の事物を調べていたことも、明治研究と有機的に絡まり合っていたのは間違いあるまい。近年、これら明治SFの諸作品は大部分が品切れになっていたが、一部は〈横田順彌明治小説コレクション〉全3巻(日下三蔵編/柏書房)として復刊されたため、まとめて読むことができるようになった。是非、お手に取ってみて頂きたい。
『近代日本奇想小説史 明治篇』に続く『大正篇』は、〈SFマガジン〉に休み休みながらも連載されていた。この後には『昭和篇』が待っているし、明治SF長篇『火星人類の逆襲』『人外魔境の秘密』に続く第三作が予告されながら、長らく書かれないままとなっていた。それらの執筆を含めてまだまだご活躍頂きたい──と思っていたのだが、残念ながら2019年1月4日に急逝。享年73だった。

 本書を読んで、それぞれの項目についてもっと詳しく知りたいと思った方は、それこそ横田順彌による他の著作を読むのがてっとり早いだろう。
 押川春浪本人については、『快男児押川春浪 日本SFの祖』を。
 押川春浪だけでなく、古典SF全般について興味を持った方は、『日本SFこてん古典』及び『近代日本奇想小説史 明治篇』を。
 春浪と「野球害毒論」、〔天狗倶楽部〕に関わる日本の野球黎明史については、『熱血児 押川春浪 野球害毒論と新渡戸稲造』『早慶戦の謎 空白の十九年』を。
〔天狗倶楽部〕について、もっと詳しく知りたい方は『〔天狗倶楽部〕快傑伝 元気と正義の男たち』を。
 第11章で中村春吉が気になった方は、複数の明治人を紹介した『明治バンカラ快人伝』を(他にも前田光世、吉岡信敬らについて詳しく語られている)。また児童書だが、『わがはいは中村春吉である。自転車で世界一周無銭旅行をした男』もある。
 第12章では当時の飛行家についても語られているが、『雲の上から見た明治 ニッポン飛行機秘録』は、明治の飛行機事情だけでまるまる一冊。
 その他、教科書には載っていないような明治の世相を知るには『明治おもしろ博覧会』『明治時代は謎だらけ』『明治はいから文明史』『明治不可思議堂』がよい手がかりとなるだろう。『~博覧会』には、オリンピック選手の金栗四三&三島彌彦や、阿武天風ら、〔天狗倶楽部〕のことも書かれている。また『明治ふしぎ写真館』は明治期のふしぎな&面白い写真や図版が満載で、当時のイメージを掴むのに適している。明治・大正期における未来予測を紹介した『百年前の二十世紀 明治・大正の未来予測』は教科書にも採用され、読書感想文コンクールの課題図書にもなった。これらのいずれも肩が凝らずに読めて、〝面白くてためになる〟のだ。

 さて、2019年の大河ドラマ『いだてん』は、オリンピックがテーマ。明治パートでは、初めてオリンピックに出場した日本人・金栗四三が主人公。彼は〔天狗倶楽部〕と関わりがあったため、押川春浪や〔天狗倶楽部〕のメンバーたちも登場する。TVのドラマ(それも大河ドラマ)に彼らが出てきて、いかにも彼ららしく暴れまわっているのを観るのは、なかなか感無量である。
〔天狗倶楽部〕と言えばヨコジュン……というわけで、ドラマを観て横田順彌を思い出した方も多いだろう。とはいえスタッフの中に、その名前はなかった。
 だが。横田氏が『いだてん』の企画段階から協力し、資料提供をしていたことを、実は本人から伺っている。わたしからは「『監修・横田順彌』って、絶対に入れてもらって下さいね、横田さん!」と申し上げていたのだが、途中で「面倒くさくなって手を引いちゃったよ。名前も出さなくていいって言っちゃった」とおっしゃるではないか。これに関しては本人から伺っただけでNHKには未確認だが、天狗倶楽部を扱った番組を制作するに当たって横田順彌に話を聞いていない、著作を読んでいないとなったら、それは手抜かり以外の何物でもない(というかおそらく不可能だろう)ので、彼が関わっていたことは間違いないだろう。
 これからも〔天狗倶楽部〕や押川春浪の知名度が上がり、横田順彌の著作がもっともっと読まれていくことを願ってやまない。

                            2019年2月

『快絶壮遊〔天狗倶楽部〕──明治バンカラ交遊録』
横田順彌
ハヤカワ文庫JA
希望小売価格:800円

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