無人の兵団_帯

ビル・ゲイツ氏絶賛! 最新ノンフィクション『無人の兵団』が明かす「ターミネーター」誕生の可能性、AI搭載のロボット兵士が握る人類の未来とは?

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驀進するAI・ロボット技術を背景に、急速な進化を遂げる「自律型兵器」。果たして、「ターミネーター」に描かれるような、ロボットが人間を脅かす近未来は到来するのか? ビル・ゲイツ氏、瀬名秀明氏ら、AI問題についての造詣が深い著名人がこぞって絶賛する話題作『無人の兵団――AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』(ポール・シャーレ著、伏見威蕃・訳。原題Army of None)の邦訳版刊行を記念し、訳者の伏見威蕃氏がその魅力を語る。

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『無人の兵団』 訳者あとがき

 AI(人工知能)に関する話題は、ほとんど毎日、マスメディアで取りあげられているが、AIの定義は明確にされているとはいいがたいし、その能力の範囲もレベルも多岐にわたっている。それに、現在、実用化されているAIは、ほとんどが限定的な機能に特化したナローAIで、汎用人工知能(AGI)はまだ実現していない。

 しかし、軍事分野では、ターゲット(攻撃目標)を自力で発見し、交戦の決断もみずから行なう自律型兵器の開発が進んでいる。俗にキラー・ロボットと呼ばれるこの自律型致死兵器システム(LAWS)をどう規制するかという論議が、国連で開始され、特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW)の締約国会議で話し合われている。だが、規制慎重派と規制推進派の意見の隔たりは大きく、また自律型兵器の開発を進める米中ロの抵抗もあって、議論の進展ははかばかしくない。

 自律型兵器運用について、著者はOODAループと呼ばれる軍事行動の重要プロセスをもとに、わかりやすく説明している。OODAとは、観測(Observation)、方向付与(Orientation)、決定(Decision)、行動(Action)の略語で、ターゲットを捜し、ターゲットに向かい、攻撃を決定し、攻撃する ── という四段階の意思決定プロセスを表わしている。もとは空中戦を行なうパイロットの手順だったが、より大きな意味での軍事行動にも当てはめられるようになった。

 このループの中枢に人間がいるものは、半自律型兵器と呼ばれる。たとえば、人間のオペレーターがターゲットを決定して発射したあと、ミサイルが自力でターゲットを攻撃するような場合が、それに当てはまる。したがって、〝撃ち放し〟ミサイルは、ほとんどが半自律型兵器だ。いっぽう、ループのすべてをAIが行なう場合は、完全自律型兵器と呼ばれる。イスラエルのハーピー滞空弾薬がそれに該当する。なぜなら、ハーピーはターゲットを指定されずに発射され、飛翔しながら自力でターゲットを探して攻撃するからだ。こういった限定的な完全自律型兵器はすでにいくつか存在する。また、イージス・システムは、監督付き自律型ウェポン・システムと呼ばれる。このシステムでは、人間が各種の設定を決めて、脅威を確定したあとは、兵器が自律して防御のための攻撃を行なう。複数のミサイルが襲来したときには、人間がそのそれぞれに対応している時間はないからだ。ただし、人間が途中で攻撃中止を命じることができるので、〝監督付き〟に分類される。

 半自律・完全自律・監督付き自律という三つの型には、それぞれに長所と短所がある。たとえば、日本政府は以前からLAWSは開発しないという姿勢を打ち出し、AIの判断のみで兵器が攻撃を行なうのを避けるために「人間の関与が必要」だと文書によって表明しているが、そのいっぽうで、イージス・システムのような防御兵器では、積極的にAIを活用するとも述べている。対応速度の面で、どうしてもコンピューターに頼らざるをえないからだ。

 この稿では、おもにAIと自律型兵器のかかわりについて取りあげたが、本書『無人の兵団』は、軍事だけではなく、もっと幅広く、奥深い領域を網羅している。AIといま呼ばれているものは、社会や日常生活のあらゆるところに存在し、私たちに大きな影響を及ぼしている。考えるだけで気が遠くなりそうなこの問題を、著者は専門家ではない人々にもわかりやすいように、なおかつ詳細に解説している。ビル・ゲイツが絶賛しているのも当然で、分野を問わない必読の書であるといえよう。

 なお、本書は二〇一九年のウィリアム・E・コルビー賞を受賞した。同賞は米ノーウィック大学によって毎年開催され、軍事史、諜報活動、国際情勢について理解を深めるのに貢献したフィクションおよびノンフィクションに贈られる。ウィリアム・E・コルビーは、一九七三年九月から一九七六年一月までCIA長官をつとめた。ブライアン・フリーマントルは『CIA』の取材でコルビーの協力を得たことをあとがきで謝している。ちなみに、コルビーは議会に対してかなり率直だったために、ホワイトハウスと疎遠になり、フォード政権のなかばでキッシンジャー国務長官などの助言により解任された(後任はジョージ・H・W・ブッシュ)。

 著者ポール・シャーレは、陸軍レインジャー部隊の兵士としてイラクとアフガニスタンに出征した経験があり、現在は新アメリカ安全保障センター(The Center for a New American Security)のシニアフェローとしてテクノロジー及び国家安全保障プログラムのディレクターをつとめている。《ウォール・ストリート・ジャーナル》、《ニューヨーク・タイムズ》、《タイム》、《フォーリン・アフェアーズ》、《ポリティコ》に記事を書き、CNN、FOX、NPR、MSNBSへの出演も多い。現在、ヴァージニア州在住。

 二〇一九年六月

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『無人の兵団』は早川書房より好評発売中です。

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