【8月5日発売】華文ミステリの俊英、新たなる代表作! 陸秋槎『喪服の似合う少女』を徹底紹介!
早川書房では中国の人気ミステリ作家・陸秋槎(りく・しゅうさ)の新作『喪服の似合う少女』(大久保洋子訳)をハヤカワ・ポケット・ミステリより2024年8月5日に刊行いたします。
これまで歴史本格推理から学園青春ミステリ、さらにはSF傑作集まで、挑戦的かつ多彩な作風で新作刊行の度に大きな反響を呼んできた中国ミステリ作家の俊英、陸秋槎。今回発売となる『喪服の似合う少女』は私立探偵を主人公とした歴史ハードボイルド長篇であり、まさしく著者の新たな代表作といえる作品です。
○あらすじ
地方都市「省城」の女性私立探偵・劉雅弦(りゅう・がげん)のもとに富豪の令嬢・葛令儀(かつ・れいぎ)が訪れた。彼女は劉に、失踪した学友の岑樹萱(しん・じゅけん)を捜索してほしいと依頼する。引き受けた劉であったが、消えた岑樹萱の実情は誰に話を聞いても窺い知れず、映画館を営んでいた彼女の父もまた借金を抱えて行方不明となっていた。さらに劉は調査の中で死体を見つけ、殺人容疑で警察に逮捕されてしまう……。内戦を経た経済成長の中、爛熟しつつある1930年代の中国本土の市街をひとりの探偵が往く。巨匠ロス・マクドナルドへ捧げられたハードボイルド小説。
○舞台は1930年代。中国で「私立探偵」が成立していた時代
本作の舞台は1930年代の中華民国時代。地方都市「省城」の私立探偵「劉雅弦」が主人公です。実は中国では、のちに中華人民共和国が成立して以降、職業としての探偵業は国から認可されていません。著者の後書きによれば、中国本土で私立探偵を主人公にしたハードボイルド小説を執筆するために、史実に基づいてこの時代の小説になったとのこと。1920年代から30年代にかけての当時の中国は刻々と政情が変化しつつも、西洋文化の流入や財閥の台頭もあり、独特な発展を遂げていました(いわゆる「魔都」と呼ばれていた上海のイメージも概ねこの時代の様相を指していると言えるでしょう)。『喪服の似合う少女』の「省城」もまた、都市に流入した農民たち、名を上げた成金たちなどが住まい、貧富の拡大や労働問題が噴出する都市として描写され、民国時代の歴史小説としての興趣にも満ちています。
○ハードボイルド小説の巨匠に捧げられた、私立探偵の物語
折しも1930年代前後のアメリカではレイモンド・チャンドラーらを筆頭にハードボイルドを代表する作家たちが頭角を現し、ミステリの新潮流として隆盛へ向かいつつあった時代でした。以降、第二次大戦後にかけてアメリカでは次々と有力なジャンル作家が出現しますが、中でも『喪服の似合う少女』に最も影響を及ぼしているのは〈私立探偵リュウ・アーチャー〉シリーズで知られる巨匠ロス・マクドナルドです。独自の作風を決定づけた『ギャルトン事件』やオールタイムベスト級の傑作『さむけ』など、ロス・マクドナルド作品では悲惨かつ哀切極まる事件に真摯に向き合う探偵アーチャーの独特な佇まいが特徴であり、それは『喪服の似合う少女』において、抑制された筆致から浮かび上がる劉雅弦の探偵としてのリリシズムにも色濃く反映されていると言えます。
また、著者の陸秋槎は女性私立探偵ものの代表的な連作であるサラ・パレツキーの〈V・I・ウォーショースキー〉シリーズの中国語訳版の解説も担当するなど、女性を主人公にしたハードボイルド小説に造詣が深いことで知られており、劉雅弦のキャラクター性――海外で順風満帆とは言えない人生を歩んだ過去を持ち、抑圧や暴力に屈さず、シニカルかつビジネスライクに立ち回りながらも確かな矜持を持つ探偵――を巧みに描いています。
○陸秋槎ファンの方にも、初めて読む方にもオススメの作品
歴史本格推理『元年春之祭』で長篇デビューし主に本格ミステリやSFを執筆してきた陸秋槎にとって、『喪服の似合う少女』は初挑戦となるハードボイルド小説ですが、これまでの作風とは異なる新境地でありながらも、愛読者の期待を裏切らないミステリとなっています。果たして少女はどこに、そしてなぜ消えたのか? 関係者たちの不審な行動の真意は? 事件を覆い隠していた謎のベールは劉の調査にしたがって次第に剥がされていき、やがて事態は思いもかけない驚愕の展開へと突き進んでいます。陸秋槎ファンにも、初めて手に取る読者の方にも、双方にオススメできる傑作です。
○絶対に読み逃せない! 2024年は「華文」エンタメの当たり年!
本年は早川書房刊行の華文作品がかつてない盛り上がりを見せています! 現代中国ミステリ界で大人気の紫金陳『検察官の遺言』、大迫力の冒険小説巨篇である馬伯庸『両京十五日』、さらに映像方面ではダークなサスペンス『悪童たち』を映画化した『ゴールド・ボーイ』の公開、そして劉慈欣の超大作SF『三体』のNetflixドラマ版がついに配信開始されるなど、まさに「当たり年」と言える活況です(また、日本未公開ですが、巨匠ウォン・カーウァイ監督による金宇澄の小説『繁花』のドラマ版も中華圏で社会現象を巻き起こしています)。
静かな詩情を湛えたハードボイルド『喪服の似合う少女』もこうした今年の話題作に連なることは必至。アジア小説ファンからミステリファンに至るまで、あらゆる方に是非お手に取っていただきたい作品です。
◆書誌情報
タイトル:『喪服の似合う少女』/著訳者:陸秋槎/大久保洋子(訳)/2024年8月5日発売予定/ハヤカワ・ポケット・ミステリ/本体価格:1,900円(+税)/ISBN:978-4-15-002006-4