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『誰死な』特別ショートストーリー第2弾! 一番でなくていい、二番目の流れ星に、私はなりたい

人に《死がふりかかる》のが見えてしまう志緒。彼女が哀しまぬよう、そんな《死》を回避させる佐藤くん。サトウとシオ——切り離せない・離れることのない二人の、ある日の温かな会話。

『誰も死なないミステリーを君に』の超番外篇ショートストーリー第2弾(屋上篇)をお楽しみください。


 § 遠見志緒と流れ星

「ねぇ、佐藤くん。私は二番目の流れ星になりたい」
 校舎の屋上で、夕暮れ空を見上げながら、制服姿の遠見志緒が呟いた。
「二番目の流れ星?」
 さきほど、流れ星を偶然に目撃したのは僕だった。
 沈みかけた夕日で紫色に染まった空の彼方に、一瞬だけ、光が流れ落ちたのだ。
 気付いて思わず「あ、流れ星だ」なんて口にした時にはすでにその現象は終わっていた。僕の言葉につられて空を見上げた志緒には、その姿は見えなかっただろう。
「だって、流れ星は優しくないじゃない。願い事を叶えてくれるなんて言っておきながら、ある日、突然、前触れもなく、降って落ちて。その速度は大体秒速四十キロメートル。一秒で四十キロメートルも先にいるの。目視してから願い事を三回繰り返さなくてはいけないのに、そのチャンスは時間にして一秒もない。非常にズルい。たぶん、はじめから願い事を叶える気なんてない。まさに、星屑だわ」
 こんなに流れ星に辛辣な人間を僕は初めて見た。確かに、さっきも、流れ星に三回願掛けをする暇なんてなかった。とんでもない星クズだな。
「だから、私は、二番目の流れ星になりたい。流れ星が落ちてから、きっかり一分後にやってくる流れ星よ。最初の流れ星を見つけられた人は、叶えたい願い事を用意して、二番目の流れ星を待つの。そして、ゆっくりと落ちていく流れ星に、三回、願い事を繰り返す。二番目の流れ星にはその人の願いを叶えてあげられる力はないかもしれない。けれど、少なくとも願いを最後まで聞いてあげたいし、きっと叶えられるよって、応えてあげたい」
 なるほど。それなら、二番目の流れ星を星クズだなんて呼ぶ者はいないだろう。
「ねぇ、佐藤くんは、二番目の流れ星に何を願う?」
 僕は「そうだね」と少し考えた。
「流れ星予測能力をもらおうかな。流れ星がいつ落ちるか分かる能力。それで、流れ星予報を出す。それなら、二番目の流れ星なんてなくても、最初の流れ星で、誰でも、何度でも、願いが叶えられる」
 志緒は、はっとした顔で顎に手を当て、しばらく考え込んだ後で言う。
「佐藤くん、私、流れ星になるのはやめて、世界で初の流れ星予報士になるわ」
「じゃあ、大気圏で燃え尽きなくても済むね」



※特別ショートストーリー第1弾はこちら

https://www.hayakawabooks.com/n/n09093f66d2e9?creator_urlname=hayakawashobo01


井上悠宇『誰も死なないミステリーを君に』

2018年2月24日発売/井上悠宇/ハヤカワ文庫JA

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