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津田大介(ジャーナリスト・早稲田大学教授)×R・ターガート・マーフィー(『日本-呪縛の構図』著者) 緊急対談「日本はどこから来て、どこへ向かうのか」1/2

(2017年11月7日、六本木にて。写真:古谷勝。協力:福原利夫)

東芝事件に見えた矛盾と救い

津田 日本‐呪縛の構図は、中身が濃くて飽きない講義をずっと受けているような本でした。日本人にとっては一見すると当たり前なことも書かれていますけれど、あらためて「外」の視点から客観的に指摘してもらうことで、気づかされることがたくさんありました。

マーフィー 光栄です。

津田 2015年に単行本が出版されてからの2年間で、マーフィーさんが指摘されている「呪縛」、つまり誰もが見て見ぬふりをしていた日本の矛盾の構造が、もっとも悪い形で立ち現れつつあります。
 2015年に明らかになった不正会計にはじまる東芝の一連の事件はすごく象徴的でしたね。アメリカの原子炉メーカーのウエスチングハウスを買って、明らかに失敗しているのに引き返すことができず、埋没費用(サンク・コスト)が切れずに崩壊に至った。マーフィーさんが本書の中で展開しているオリンパス粉飾決算事件についての分析は、東芝が辿ったプロセスの予言にもなっています。最近では、神戸製鋼や東レのデータ改竄事件も同様の構図ですよね。

マーフィー 日本企業の不祥事には両面があると思います。最高の品質を提供するものづくりの国という日本のイメージが崩れてしまったのは残念なことです。一方で、不正が明らかになった各社の経営陣は、他人のせいにせず、それを自分たちの問題として謙虚に受け入れて反省した。その点には救われた気持ちがします。
 2年前、ドイツのフォルクスワーゲンの排ガス規制逃れが発覚したときは、経営陣が逃げたんです。ところが日本の経営陣は逃げ回らずに会見を開いて、謙虚に認めている。そのあたりは日本の企業の健全さが感じられます。

津田 逆に言うと、企業責任を自ら認めているにもかかわらず、誰に責任があったのかわからない構造になっているということですよね。太平洋戦争のときと同じで、そこに突入していく過程で誰がどのような意思決定を行なったのかが解明されない。福島第一原発事故もまさにそうでしたし、安倍政権の抱える森友・加計問題にも及ぶところです。

マーフィー 全体としての責任を認めて、個人責任は追及しない。こうした文化は決して悪いものだとは思いません。肝心なのは原因究明であって、問題を改善していけるかどうか。そこが重要です。

津田 マーフィーさんがこの本で指摘されたように日本では矛盾が深く構造化されている。しかし、この矛盾を根本的に解消しようという動きは顕在化しない。原因はわかっているのに、同じことを繰り返してしまって、失敗の反省が次に活きないんですよね。

五五年体制がもたらしたもの

津田 いまの日本の政治を見ていると、そうした矛盾にすらも無自覚になり、むしろ矛盾を固定化する方向に突き進んでいるように見えます。

マーフィー 矛盾のおおもとは、五五年体制の起源そのものにあると思います。
 1955年に日本民主党と自由党が合流して自由民主党が結成されたことで、五五年体制が成立しました。右派を結集させた保守合同の目的のひとつに、左翼の排除がありました。後の日本の政治の動きや発展を見ていくと、左翼を徹底して排除したために、なかなかうまく機能せずに矛盾が生じ、正すことができないまま現在にまでいたっている、という気がします。
 異論があるかもしれませんが、戦後の日本の政治制度形成において一番影響力を持ったのは岸信介だと思っています。日米安保体制をつくったのも彼ですよね。1930年代~40年代の、岸信介が官僚・政治家として活躍していたころの体制が、1960年に日米安保条約ができてからの政治制度に色濃く反映されている。岸さんの念頭にあったのは、あくまで左翼を排除し、共産革命の芽をつむということでした。それが矛盾の原点だと思います。
 安倍晋三首相は、母方の祖父である岸さんのことをしきりに語りますね。子供のころ、岸さんのひざの上に乗りながら、どういうことを聞いていたのか、一度それを聞いてみたいと思います。安倍さんの人間形成に当然影響しているはずですから。

津田 いわゆる五五年体制下の自民党は、保守政党と言われながらも、やっていることはリベラル的で、分配重視の左翼型の政策も実施していましたよね。左翼政党・共産主義政党を抑えるために、自民党の政策の中に左翼的な政策を取り込んだ。
 そうした自民党の分配型政治は長年安定して機能していたものの、1980年代末から90年代初頭にかけて、リクルート事件や佐川急便事件など、分配における癒着の構造が表面化してきます。それで、自民党も一度体制を変えざるをえなくなった。1993年の、いわゆる政治制度改革ですね。

マーフィー アメリカやフランスで政権交代が起きましたが、その原因のひとつには、投票する一般市民の、政府やエリートに対する不信感があったと思います。いまの日本の場合は、政治家が個人的に私腹を肥やしているということは見受けられません。

津田 五五年体制が一度壊れたことは、やはり大きな転機になったのでしょうね。

日本の衆院選と米大統領選に共通する構造

津田 政治制度改革の結果として小選挙区制度が導入されました。しかし、その弊害がここ数年きわだってきています。今回の2017年衆院選に関して言えば、自民党の支持率が非常に低いにもかかわらず、議席としては全体の60パーセントを取ってしまうということがありました。
 もうひとつ、首相の解散権の問題があります。現行の体制では、首相が好きなタイミングで衆議院を解散できる。最近、朝日新聞で興味深い記事を読みました。小選挙区制度を作ったときの有識者会議で座長を務めた佐々木毅さんがインタビューに答えたものです。
 佐々木さんはこう言っていました。小選挙区制度は保守とリベラルできちんと対抗軸をつくって政策を高めていくための制度設計としてはまちがっていなかったけれど、ひとつだけ、有識者会議のなかで考慮に入れていなかったものがある。それが首相の解散権だった、と。
 ここまで解散権が濫用されると、与党にとって有利なタイミングで解散が行なわれて、地滑り的な勝利を加速する。今回、野党が分裂してしまったので、そうなると組織力のある側が勝つというのは必然ですよね。

マーフィー 少数の得票数なのに過半数をとったというのは日米共通ですね。
 2016年のアメリカ大統領選の場合は、得票絶対数ではヒラリー氏が多かったものの、州ごとの勝者総取りという選挙制度のしくみによってトランプ氏が勝利しました。そうした逆転現象が、最近では州知事の選挙でも起きています。民主党が強いと思われていた州で、同じようなトリックによって最近では共和党が勝っている。
 日本では、安倍政権の政策自体はそれほど支持を得ているわけではないのに、今回、野党が分裂してしまい、支持できるような政党がなかなか出てこなかった。結局どちらに安心を求めるかというと自民党になってしまう。決して安倍政権の政策への支持ではなかったわけです。

津田 この本でも指摘されているように、日本人は「仕方がない」とすべてを受け入れますよね。困った時、ドラスティックに、フランス人のように血を流してでも改革するのではなく、仕方がないと受け入れて現状を維持する。
 大きく変わって損をするよりは、現状維持、あるいは少しずつ衰退しているのであればそちらを選ぶというのが日本人のメンタリティになっている印象があります。それが今回の選挙結果にも如実に出ていますよね。

民主主義が分断を生む時代

津田 いま、世界各地で、民主主義のしくみが分断を生んでいます。トランプ氏は決してクーデターで政権をとったわけではなく、民主的な選挙で大統領になったし、イギリスのブレグジットにしても、国民投票で決定しています。

マーフィー アメリカ人はいま、本当に分裂しています。トランプ支持派と反対派の憎しみあいは、まさに市民同士の争い、「冷たい南北戦争」状態です。アメリカは危険な状態にあります。

津田 そんな時代状況のなか、日本の場合はどうなるのか、非常に興味があります。
 自民党と公明党が今回の衆院選で3分の2以上の議席を取ったので、おそらく憲法九条を含む憲法改正が発議されると思います。そのための国民投票にあたって、日本人がつきつけられる課題は大きいですよね。憲法改正すべしという人と、改憲は許さないという人がぶつかって、アメリカのような分断が起きるのか、それとも起きないのか。

マーフィー 私は1960年にはじめて来日しました。当時は学生運動が盛んでした。現在のアメリカと同じ、市民の間に分裂が生じていた時代です。暴力もともなっていて、相当ひどかった。通っていた仙台の高校の同級生で、のちに自殺した人もいたほどです。今の日本で国民投票があった場合、世論が当時ほど深刻に分裂することはないように思います。
 憲法改正の議論をするときは、九条以外からはじめたほうがいい。日本の政府のありかたにおける要改善点を洗い出し、政治機構をより良いものにしてから、九条の議論をすればよいのではないでしょうか。

津田 まったく同感です。それなのに、日本人はなぜかそういう道を選ばない。もどかしい思いがします。

マーフィー 九条に関して言えば、私は変えるべきだと考えています。九条を素直に読んでみると、現実的ではないと思わざるを得ません。
 日本国憲法は象徴的意味が非常に強い。米軍による占領時代の遺産という面も否定できません。その一方で、評論家の立花隆さんが『月刊現代』の連載で明らかにしたように、日本国憲法の原案は、大正デモクラシー時代に日本の左派が作った草案をアメリカの占領軍が見つけてきて、それをベースに作られたという側面もあります。

(続く)
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