トランスヒューマンガンマ線バースト童話集

名作童話をSF小説化した新星。SF作家・三方行成インタビュー

2013年から再開、数々の話題作・新人作家を輩出し、今年で第6回を迎えたハヤカワSFコンテスト。優秀賞受賞作にして今回唯一の書籍化である『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』が発売となりました。名作童話がトランスヒューマンとガンマ線バーストによってSF化するという超個性的な短篇集をものした、著者・三方行成さんへのインタビューを掲載します。第1話が丸ごと読める無料体験版を配信中!

──まずは自己紹介をお願いします。

三方 三方行成と申します。以前はsanpowという名前でした。このたび第6回ハヤカワSFコンテストで優秀賞をいただきました。人間です。証拠? そんなこと言われたって苦しいなあ。いやね、俺だって面倒くさいことをいいたいわけじゃないんですよ。でも人間の証明ってどうやるんですか。手続きでも決まっているんですか。その手続きは誰もが結果に納得できて、ご家庭にある道具で簡単にできちゃうやつなんですか。「人は危機に接して本当の自分に立ち返る」誰だお前、急に出てきて犬みたいな顔しやがって。「お前が私を生み出した。この天秤に載るがいい」いやだよ。だいたい何だ天秤って。うわー俺かる~い。一枚の羽根に重さで負けてる。「真実は重く嘘は軽い。お前は嘘で満たされている。人間と呼ぶには足らぬ。このままではお前は消え去る」なんてこと言うんだ縁起でもない。「ならば語れ。お前の皿に積むがいい。天秤を傾けるのだ」ここで思い出されるのはエジプトの死後の世界のお話ですね。死者はアヌビスの前に引き出され心臓を抜き出され天秤に載せられる。心臓の重みは積んできた善行の重み、それが小さな羽根一枚の重みに勝りさえすれば死者の国に入れてもらえる。だめなら獣に食われるんだ。「お前は獣にも食われず単に消えさる。語れ。時間がないぞ」本当だ、なんか存在感が薄れてきた! ええい、こうなったらやるしかないか。「ジリリリリリ!」ねえ、なんか鳴ってる。「あっ終業時間だ。今日はおしまい。また今度ね」まじかよ。俺が消えるか否かの瀬戸際なんですけど。かなり薄れてきたんですけど。スケスケの助なんですけど。あれ、待てよ。『人は危機に接して本当の自分に立ち返る』?。スケスケの助。そうか、これが俺の本当の名前──
 と、このような妄想が頭に浮かぶ毎日です。自己紹介という難行に動揺したあまりこのようなものが出てきたので紹介に代える次第です。三方行成と申します。以前はsanpowという名前でした。人間ですよ。証拠? ええっとねえ。

──SF小説はこれまでどんなものを読んできましたか?

三方 『ハイペリオン』『ペルディード・ストリート・ステーション』『啓示空間』三部作『犬は勘定に入れません』です。もちろん『ディアスポラ』も。『量子怪盗』も。Jコレクションも読んでいました。『アイオーン』が嬉しかった。『ムジカ・マキーナ』もそうでしたが時代の違う異物がシームレスに出てくるのが嬉しかったですね。『虐殺器官』『グラン・ヴァカンス』『皆勤の徒』も読みました。『皆勤の徒』はJコレクションではない。『ブラインドサイト』の話はしましたか? 挙がるタイトルが微妙に懐かしいやつだな、と思ったそこのあなたはご慧眼です。
 昔ついでに思い出話をしますが、覚えている限り最初に読んだのは小学校の図書館に置いてあった眉村卓の短編集です。タイトルは忘れましたが、自分に催眠術をかけて死ななくなった男がたどる恐ろしい運命──という話が大変印象に残って具体的には夢に出ました。図書館には星新一のショートショートや、たしかレンズマンもありました。ブーツにいれた液体の鉄を宇宙船の燃料に使うやつでした。そこからの連想で急に飛びますが『サムライ・レンズマン』も読みました。『IX(ノウェム) 』も。『ブラックロッド』も。『ブラックロッド』は中学の同級生が単行本を持ってきてくれて中学生のお脳に直撃しました。歳がバレる。私のプロフィールには生年も記載されています。ファミ通に載っていた『2000年のゲーム・キッズ 』も好きでした。
 見慣れない要素と見慣れた要素、あるいはどちらも見慣れているけど一緒にいるのは珍しい要素が一つの舞台に乗っている話が好きです。

──カクヨムで小説を発表された経緯や、ネットの反響などいかがでしたか。

三方 それまでは同人アンソロジーに1回寄稿したり(『人は死んだら電柱になるアンソロジー』。人が死ぬと電柱になる設定を共有した創作同人アンソロジー)いろんなところで名無しとして書いたりもしていましたが、おおむねツイッターにたわごとを書いて満足していました。たわごとのいいところはどうしてそんなナンセンスをわざわざ言うのか意図や経緯を説明しなくても構わないところです。いま説明してますね。なかなかうまく行きませんね。
 そんなナンセンスの1つとしてトランスヒューマンガンマ線バースト童話集』のネタを思いつきました。ツイッターに書いて、後になって見直して、脳のすみっこに押し込んでおくのもどうかな、と思ったので小説にすることにしました。
 そうやってはじめに『地球灰かぶり姫』を書きました。
 5人かそこらが読んだら上等、と思っていましたら大勢の人の目に触れたようでびっくりしました。最後まで気を悪くせずに読んでくれる人が1人でもいれば御の字、と思っていましたら2人以上いたようで2度びっくり。思わず『竹取戦記』を書きました。バブルに浮かれて2匹目のドジョウを狙ったわけです。その後も他の話を書いて、最後はまとめる話として『アリとキリギリス』を書いて、連作短篇の体裁にしました。これだけの量の文章を書いたことはありませんでした。書いてよかったです。

──最後に読者へのメッセージをお願いします。

三方 これからどうにかいろいろなお話を書けていければ幸いです。それが皆さんのお気に召したらもっと幸いです。
 どうかよろしくおねがいします。

──ありがとうございました。

(メール・インタビュー)

『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』
三方行成
装画:シライシユウコ/装幀:伸童舎

第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作

はるか未来、あるところにシンデレラという人類の進化形=トランスヒューマンの少女がおりました。〈魔女〉から拡張現実ドレスを与えられた彼女はカボチャ型飛行体に乗り、お城の舞踏会へ向かいます。しかしその夜、空から宇宙最強の爆発・ガンマ線バーストの閃光が降り注ぎ――
「地球灰かぶり姫」ほか「竹取戦記」「スノーホワイト/ホワイトアウト」など、古典に最新の想像力を配合した童話改変SF全6篇を収録。超個性派による第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作!

三方行成 Sanpow Yukinari
1983年生まれ。長崎県諫早市出身・在住。小説投稿サイト「カクヨム」にて「sanpow」名義で活動。同サイトへの投稿をまとめた本書が第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞して、作家デビュー。

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