悲劇喜劇1月号

悲劇喜劇2017年1月号収録 『未来のための落語論、演劇論』その3 サンキュータツオ(「渋谷らくご」プロデューサー)×  九龍ジョー (ライター、編集者)

 大人が楽しむエンターテインメントとして、人気を二分する落語と演劇。そこで、ポップカルチャーから伝統芸能まで詳しい九龍ジョー氏と、初心者向けの落語スポット「渋谷らくご」キュレーターのサンキュータツオ氏によるスペシャル対談を敢行。落語の真の魅力とは? 演劇の行く末は? 時代の空気といまを知るおふたりに語っていただいた。

 第一部は12月9日、第二部は12月12日に公開。今回は最終回となる第三部です。

■落語新スタイル、「シブラク」という挑戦

編集部 タツオさんは、新しい落語のスタイルに挑戦した「渋谷らくご」のキュレーター(番組編成)を務めていらっしゃって、いまや大盛況を収めてらっしゃいますね。

サンキュータツオ(以下、タツオ) おかげさまで。渋谷らくご(通称シブラク)は、毎月第二金曜から五日間だけ開催する落語会で、毎日真打ちから二ツ目の、若手のなかから、いまいいなと僕が思う落語家さん四名に出ていただいていて、いろいろ画期的な試みをしています。

九龍ジョー(以下、九龍) まず、後半の部が二十時開演というのがいいですよ。

タツオ 卒業論文で志の輔師匠に二年間密着取材したときから、開演時間問題に関しては師匠もかなり気を割いていたところだったんです。九〇年代って、落語は十八時開場、十八時半開演がデフォルトだった。でもその時代に志の輔師匠は、十九時開場十九時半開演にしちゃった。これはすごい改革で。実際、現役世代には、十八時半開演ってキツいわけですから、結果、お年寄り来てください、っていうメッセージでもあるわけで。これが十九時半だったら、働いてる人来てください、っていうメッセージ性も出てくる。そんななか、渋谷で若い人たちに向けて何を発信すべきかを考えたとき、まだどこもやってないこと……それが二十時開演二十二時終演だったんです。レビューをロビーに貼り出すのも、ハッシュタグをつけて「♯シブラク」でツイートしやすくしたのも、批判はかなりあったし、ある意味賭けでしたけど、一石を投じることはできたんじゃないかと思いますね。

九龍 それってどれも現代のSNS世代にはすごく重要なことですよね。同性代の人たちはこんなふうに観てるんだ、みたいなことが分かるし、落語好きたちの親和性も高まるし。あとね、小屋=劇場の問題も大きいと思うんです。

タツオ そうですね、興行はもう八割小屋で決まる、いや小屋と開演時間にほぼすべてのメッセージが集約されますよ。

九龍 見巧者!(笑)。

タツオ いやでもね、『しゃべれどもしゃべれども』とか『タイガー&ドラゴン』なんかのドラマや漫画が人気を博して以降、落語界を囲む空気感が、本当に変わりましたから、それができたと思います。『タイガー&ドラゴン』の前は、アニメ好きと、落語好きっていうのは人に言えない趣味だったんですから(笑)。いかがわしさと、知らない世界ゆえに、変な人がハマるもの、というイメージが先行していた。

 とはいえ、これだけ趣味が多様化してる時代、僕らは映画も演劇も、アイドルだって観るし、音楽だって聴く。その中で落語を聴かせるための発信方法は色々考えましたよ。音楽好きに対しては堅い論調よりも「歌い調子の落語家の噺が、なんかエミネムみたいだった」っていう情報のほうが響くわけだから。そろそろ、かつての落語評論のフィールドを出て、そういう語りが存在してもいいんじゃないかと。それはやっぱり日々ネットに触れてる人たちにしかできない新しいエンターテインメントの形だと思うんです。

九龍 普通なら噺家の出番も香盤順に組みますけど「渋谷らくご」ではそうしない。だからこそ何かが起こるな、っていう予感もあるし。

タツオ 天気や季節で演目当てまでできるような本当にゴリゴリの保守本流の落語ファンの人たちでさえ、「『渋谷らくご』おもしれえな」って言ってくれるようなこともある。観たことない何かが起こってるぞ、って。そういうお客さんは、全体の五%くらい。別ジャンルの映画や演劇ファンが四割で、あとの四割~五割が演者についてるお客さんです。うれしいことに、「渋谷らくご」で吉笑さん知ってファンになったので、吉笑さんの会必ず行きます」なんて言ってくれる若い人たちもでてきまして。

九龍 何か新しい面白いものを追っかけたいっていう人たちはいつの時代にも確かにいて、その人たちはミニシアターにも、小劇場にも、ライブハウスにも分け隔てなく行くんですよね。そういう人たちもシブラクに流れ込んでいるのを感じます。シブラクの開演待ちでの「何かが起きるかもしれない!」っていう熱気は、他ジャンルとも共通するものがありますから。

 だから、僕は、個人的には、むしろ演劇のほうは今、そういう人たちを興奮させることができでいるのかな? っていうのを思ったりもしますね。全体的にチケットも高い中で、「何かとんでもないことが起きるかもしれない!」っていうワクワク感や、実際にそういう衝撃を与えてくれるものがあるのだろうかと。とくに若い世代ですね。僕が出会えていないだけかもしれないですけど。

タツオ 「渋谷らくご」は予算ないんで、若手でしかできないっていう事情もあるんですけど(笑)。後援とかつかないかなあ。

九龍 でも、その制約が功を奏してますよね。それによって人気落語家だけを取り合わなくていいし、逆に新しい人たちに光も当たるし。

タツオ そもそもね、人気の落語会ってたいてい単日公演なんですよ。『赤めだか』のドラマを観て談春師匠の落語を聴いてみたいと思っても、即日完売なわけです。けど「渋谷らくご」は毎月第二金曜から五日間。それならどこかでいけるな、となる。生活サイクルの中にまず“落語を聴く”っていうことを入れこむことから始める作業でしたね。

 その延長線上に演劇的空間の寄席があるんで、シブラク経由でほかの落語会に流れてくれればいいし、もう「渋谷らくご」必要ないよっていうぐらい落語熱が高まってくれば、それで役割を終えるかなって思ってます。落語初心者がふらっと行っても湯あたりせずに楽しめる、ぬるい温泉みたいな場所なので、みなさんにもぜひ一度シブラクに来て欲しいですね。

サンキュータツオ(さんきゅう・たつお)「渋谷らくご」プロデューサー。漫才師(米粒写経)、日本語学者、一橋大学非常勤講師。1976年、東京生まれ。卒業論文では、落語家・立川志の輔に2年間密着取材。アニメオタクとしても知られる。著書、共著に『東京ポッド許可局』(SHINSHOKAN)、『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』『ヘンな論文』(共に、角川学芸出版)、『俺たちのBL論』(河出書房新社)など。

九龍ジョー(くーろん・じょー)ライター、編集者。1976年、東京生まれ。ポップカルチャーから伝統芸能まで幅広く執筆。『文學界』で「若き藝能者たち」、『カルチャーブロス』で「これから生まれる古典のはなし」連載中。著書に『メモリースティック ポップカルチャーと社会をつなぐやり方』など。編集を手掛けた書籍も多く、演劇・落語では、岡田利規『遡行 変形していくための演劇論』、立川志の輔『志の輔の背丈』、立川志らく『雨ン中の、らくだ』、立川吉笑『現在落語論』などがある。

渋谷らくご

ユーロスペース内/渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F

〈問い合わせ先〉03-3461-0211

聞き手:田中あか音

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ありがとうございます!今日のおすすめは『ザリガニの鳴くところ』です。
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