生物学探偵セオ_クレイ_街の狩人

この名探偵、クセが凄すぎる!? 『生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人』訳者あとがき公開

昨年シリーズ第一作『生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者』が邦訳刊行後、そのあまりに個性的な主人公の描写で日本のミステリ読者に強烈なインパクトを残した〈生物学探偵〉シリーズ。その第二弾『生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人』が今月発売となりました。前作でも警察から証拠品を盗み出すなど破天荒な行動が目立ったセオ・クレイは、今回さらにパワーアップ。いきなりバーチャル・リアリティ空間から登場してテロを阻止したり、自分の天才的頭脳が軍事目的に利用されかねないことを憂いたり、何よりも、街に潜む連続殺人鬼「おもちゃ男(トイ・マン)」のさらなる凶行を防ぐためにもはや暴走ともいえる予測不能な大活躍を魅せてくれます。好評発売中の本書より、訳者の唐木田みゆきさんによるあとがきを公開いたします。

生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人_帯付


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【書誌情報】
■書名:『生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人』
■著者:アンドリュー・メイン
■訳者:唐木田みゆき
■発売日:2020年1月23日
■価格:本体940円+税
■出版社:早川書房

訳者あとがき
唐木田みゆき

 連続殺人事件を解決して一躍有名になった生物情報工学者セオのもとへ、ひとりの父親が訪ねてくる。小学生の息子が下校途中で何者かに連れ去られ、九年間行方知れずだという。事件が起こった地域を探るうちに、セオは姿を消す子供たちの多さと、その不気味なパターンに気づくのだが……

 〈生物学探偵セオ・クレイ〉のシリーズ第二弾をお届けしよう。
 一作目ではモンタナの森林で犯人を追っていたセオが、今回はロサンゼルス近郊、そしてジョージア州のアトランタへと活躍の場を移す。治安の悪い貧困地域では、長年にわたって一定数の子供たちが行方不明になっているが、未解決事件として放置されるばかりか、通報すらされないことがある。そのほとんどが崩壊家庭か不法移民の子供たちだ。
 セオはそうした顧みられない子供たちを狙う怪物の正体を嗅ぎ取り、徐々にその正体に迫っていくうちに、なんと魔術や呪術信仰の世界とかかわっていく。徹底した合理的精神の持ち主であるセオが怪しげなスピリチュアルの領域へ首を突っこみ、七転八倒のすえに手がかりをつかみ取るくだりは、スリルとサスペンスとウィットが満載だが、児童誘拐の目的が明らかになったとき、物語はおどろおどろしさをきわめる。
 とはいえ、本作はオカルトでもホラーでもない。最先端の科学と冷徹な論理で事件を解決するミステリーだ。セオは遺伝子工学や生物学を駆使して真相を探るのだが、作中人物に「あなたは歩くディスカバリー・チャンネルみたいな人だ」と言わせるほど、さまざまな分野の知識をわかりやすく語って、わたしたちを未知の世界へといざなってくれる。仮想空間を犯人追跡のツールにしたかと思えば、DNAデータから事件の突破口を見つけ、野生動物の習性を利用して証拠集めもする。あげくのはて、犯人を特定するために、遺伝子工学を利用してあるとんでもない策に出るのである。一作目でも、越えてはいけない線を正義のためにやむにやまれず踏み越えていたセオだが、今回もまさかそこまでと思うことをやらかし──というわけで、未読のかたはどうぞお楽しみに。

 さて、内気で変わり者の科学者セオが見せるド根性ぶりが本シリーズの魅力のひとつなのだが、一作目の修羅場をくぐり抜けて、主人公はワンランクたくましくなった感がある。ときには「どうしてこんなにばかなのかしら」とあきれられながらも、悪漢の襲撃をダーティハリーばりのアクションで切り抜ける場面もあり、以前のような気弱さや要領の悪さは確実に減っている。それでも、筋を通す頑固さと女性に対する不器用さは相変わらずだ。
 しかし、世間に知れ渡ったがゆえの深刻な悩みをセオはかかえることになる。自身が開発する犯人追跡の道具が、テロ対策として軍事利用されるかもしれないからだ。それは両刃の剣であり、使い方を誤れば罪のない人々の運命まで大きく変えかねない恐ろしい技術だ。そんなセオの懸念をよそに、国の防衛機関はセオの研究成果をわがものにしようと躍起になっている。
 さらにもうひとつ、セオは自分が連続殺人鬼と似た遺伝子を持つ異端の存在、じつは数少ない〝狩る〟側の人間であることにも気づいていく。セオ自身も敵と同じく、何かを狩る宿命にあるのだろうか。
 このようなジレンマとほの暗い予感をかかえたヒーローがどこへ向かうのか、今後の展開がおおいに気になるところだ。

 著者のアンドリュー・メインは一作目でも紹介したとおり、マジシャン、イリュージョン・デザイナーとして活躍するかたわら執筆をつづける、異色のベストセラー作家である。さぞかし過密スケジュールに追われていることと思われるが、小説を書く時間をいったいどのように捻出しているのだろうか。本人が言うには、アイディアが浮かんだらかならずメモを取り、必要に迫られればいつでもどこでも執筆するらしい。ほかの仕事の合間はもちろん、カジノでも、ディズニーランドの行列でも書いたことがあるというからすごい。そして、マジックでも小説でも、大事なのはストーリーテリングであり、虚構だと知りながら観客や読者がはいりこめるようなリアルな世界を創ることだという。鬼気迫る物語の世界を一流のエンターティナーの技で心ゆくまで堪能していただけたら幸いだ。
 ただひとつ。冒頭で登場する少年チコのような話が実際に起こっているのはまぎれもない事実である。じつは、作中にあるとおり、いまでもアフリカの一部の地域では、色素欠乏症の人たちが根強い迷信のために襲われて残虐な仕打ちを受けている。国連が警鐘を鳴らしているが、襲撃事件はあとを絶たないらしい。一、二作目ともに、著者はこうした弱い立場の人々が狙われ、消えていくという現実に目を向けている。
〈生物学探偵セオ・クレイ〉シリーズは本国で四作目まで刊行されている。本作から読んでもかまわないが、作中で前作の内容に一部ふれているので、白紙の状態でスリルを味わいたいのなら、まず一作目から読み進めることをお勧めする。ただ、本作を読んでから一作目にもどっても、それはそれで二作目とはちがう冒険の醍醐味を存分に楽しめるはずだ。
 さて、つぎはどんな趣向で来るのか、あぶない科学者セオの活躍にどうぞご期待ください。

〈生物学探偵セオ・クレイ〉シリーズ
『生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者』(The Naturalist 二〇一七年)
『生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人』(Looking Glass 二〇一八年)
 Murder Theory(二〇一九年二月)
 Dark Pattern(二〇一九年一〇月)
 二〇一九年十二月

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