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笑えて、使えて、誰かに話したくなる。タイムトラベラーのみなさんに役立つ実用書『ゼロからつくる科学文明』!

国内10万部のベストセラー・コミック『ホワット・イフ?』の著者、ランドール・マンローもヤバい本だと舌を巻く、雑学&サイエンスたっぷりの「過去で遭難したタイムトラベラーが、自分の手で科学文明をもう一度とりもどすためのガイドブック」が誕生しました!

その名も、『ゼロからつくる科学文明――タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』! 早川書房から9月17日(木)発売です!

書籍紹介

現代の科学文明を構成するあらゆるモノのつくり方を網羅したサイエンス本として送り出される、内容もりだくさんの本書。手にしたあなたにどんなことができるようになるのかを、わかりやすい箇条書きで紹介しましょう。

「あなた発」の言語を生み出せる
・植物を集め、品種改良をして農業をはじめられる
・一緒に暮らすと役に立つ(ついでに全然役に立たない)動物がわかる
陶器をつかってご飯を食べられる
金属を採掘し、実用的なかたちにできる
・自分で作った服を着られる
・水車、蒸気機関、電気から動力を得られる
・自転車、船、飛行機で迷子にならずに移動できる
・地球にはじめての現代的な音楽や視覚アートをつくり出せる

もちろん、これだけでは終わりません。哲学の主要な考え方のリスト、数学をやるために必要な値のリスト、アルゴリズムの基本(ゲームがしたくなったら自分で作る必要があるので、ここから始めましょう)、爆発したりして危ない化学物質をつくるためのリストなど、とっても役に立つ知識がぎっしり詰まっています!

手始めに、このガイドを生み出したライアン・ノースによるみなさんへのメッセージをご紹介します。今後、内容もちょっとずつ公開予定です。お楽しみください。

読者のみなさんへ

 この本は、私が書いたものではない。見つけたのだ。岩盤のなかに完全に埋まっていた。私がその硬いグラニュライトの岩を割ったんだから、間違いない。そのときは、2週間ばかり建設現場で働いていたんだ。たんまりもらえるって聞いたからなんだが。

 そんなことはなかった。

 断固として申し上げるが、私には硬い岩のなかに本を入れる技術などない。そんなこと誰もできっこない。私はその本を放射性炭素年代測定にかけてもらおうとしたが、無理だった。その本は得体の知れない高分子でできていて、そこには炭素が含まれていなかったのだ。

もちろん、本が見つかった岩の年代測定はでき、先カンブリア時代とわかった。つまり、人類、恐竜、その他地球上のほとんどの生物が登場する前の時代である。先カンブリア時代の岩といえば、地球最古の岩に数えられる。

 というわけで、これ以上どうしようもなかった。

 もちろん、これからあなたがお読みになる文章が、世界中探してもほかに知る人のいない特殊な技術を使い、痕跡をまったく残さずに太古の硬い岩の内部に物体を封じ込めるという、莫大な資金を投じて巧妙に仕組まれたいたずらの一環である可能性がないとは言い切れない。

しかし、その可能性は極めて低そうだ。だが、タイムトラベルというものが可能で、どこかで実施されており、私たちの宇宙全体が過去のある時点──いつなのかは未知──で、元の宇宙から分岐したコピーに過ぎないという、もうひとつの可能性もやはりあり得ないようだ。

 私はこの本に書かれているすべての事柄を調べた。確かめられるものはすべて確かめたが、どうやらこの文書は、地球の歴史のなかの任意の時代にいる人に、文明を再びゼロから作り上げる方法を正確に説明しようという、誠実な真の努力によって生まれたようだ。文中に書かれている歴史的な出来事はすべて私たち自身の歴史上の事実と一致する。

ただし、それが起こった国や、それを行った人物よりも、技術や文明そのものに主眼を置いた手引書になっているし、年月日や個人名はあまり詳しく書かれていないので、私たちが自分の知識と照らし合わせようとしても難しいようだ。

「彼ら」の世界は、私たちの世界によく似ているが、はるかに進歩しているらしい。技術水準はより高く、歴史に関する理解もより深く、それにもちろん、消費者向けレンタル・タイムマシンもある。

私たちもいつの日かタイムトラベルを発明するかもしれない。そのときは、このガイドに書かれていることを検証し、やがてカナダ楯状地になる硬い岩のなかに、このあり得ないような本が埋まったのがいつのことで、それはどんな状況だったのかが解き明かされるだろう。

 もっとも、私たちがタイムトラベルを発明しない可能性だってある。

 このあとすぐに始まるガイドの本文は、元々の形そのままであり、私は、ふたつの場合にのみ注を加え、巻末にまとめて示した。注を加えたのは、ひとつにはより明確な説明もしくは追加の解説が必要と思われた場合、そしてもうひとつ、元々の文書の記述が私たちの現在の科学、技術、あるいは歴史に関する知識を超えた内容になっている場合である。

脚注は元々の文書にあったとおりであり、その内容も示し方も一切変更していない。元々のガイドブックのイラストは「ルーシー・ベルウッド」なる人物によるとされていたが、これもそのまま採用している。これと同じ名前で、私たちの世界で活動しているイラストレーターが存在するが、彼女はこのガイドブックのこともその出どころも一切知らないと主張しており、私には彼女を疑う理由はない。

 いろいろとあり得ないような断り書きをしてきたが、最後に、「まさか」と思われそうなことをお伝えしなければならない。このガイドブックの著者であるテクニカルライターは、自分の名前をたった一度、それも脚注のなかでのみ明かしている。それが私と同じ名前なのだ。そんなことに大した意味などあり得ないさ、と、私は心のどこかでわかっている。世の中には大勢のライアン・ノースが存在するのだし。

そして私は、すでにその大半に電子メールを送っている。このガイドブックの著者は、この世界に住む大勢のライアン・ノースの誰かの、並行タイムライン上に住むコピーかもしれない。あるいは、私たちの世界にはコピー元が存在しない、並行タイムライン上に出現した新たなライアン・ノースかもしれない。このガイドブックは、タイムトラベル事故が発生して、私たちの遠い過去の、どこかの岩に埋もれてしまったもので、タイムトラベラーもその時代、あるいは、また別の時代に足止めされてしまったのだろう。

その結果、私たちの世界はほんの少しとはいえ、見逃せない変化を遂げたはずだが、具体的にどのように変化したのかは、私たちには決して解明できないだろう。私たちにはタイムトラベルができない理由は、そこにあるのかもしれない。

 だが、恐ろしく金をかけたいたずらにはめられただけだという可能性も依然として否定できない。

 自分がどう考えているかはわかっている。私がこのガイドブックを発見し、かつ著者が自分と同じ名前で、しかもルーシー・ベルウッドも知っているということが、宇宙の法則によればいかにとんでもなくあり得ないかということは明らかだ。

もしもあなたが、私もこのガイドブックを使った策略に何らかのかたちで関わっているのだろうと思っておられるとしたら、私はこの断り書きの最初に申し上げたことを繰り返そう。この本は、私が書いたものではない。

 少なくとも……このタイムラインのなかでは。

 元々は『タイムトラベラーのハンドブック:FC3000TMタイムマシンの直し方と、それがうまくいかなかったときにゼロから文明を作り直す方法』というタイトルだったこのガイドブックを、初めて無削除完全版でいよいよ公開することに、今私はわくわくしている。

著者紹介

ライアン・ノース

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photograph©Connie Tsang

トロント在住の作家。「Dinosaur Comics!」シリーズは漫画のアカデミー賞と呼ばれるアイズナー賞とハーヴェイ賞を受賞。マーベルの「絶対無敵スクイレルガール」シリーズの原作も担当している。その他の著作に、カート・ヴォネガット『スローターハウス5』のグラフィックノベル(未邦訳)など。愛犬ノーム・チョムスキーとともに穴(くぼみ)に落ち、ニュースになったことがある。



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