
22年前の殺人事件捜査がいま、ふたたび動き出す――チャン・ガンミョン『罰と罪』解説特別公開
韓国人作家、チャン・ガンミョンによる初の警察小説、『罰と罪』(オ・ファスン=訳、カン・バンファ=監訳)がハヤカワ・ミステリ文庫より刊行されました。
本欄では、『罰と罪』の解説を再録します。
解説
編集部
韓国人作家チャン・ガンミョンの初の警察小説、『罰と罪』(재수사/2022)の全訳をおとどけします。
舞台は2022年、韓国。ソウル警察庁・強行犯捜査隊・強行犯捜査一係・強行一チーム・一班所属の新米刑事ヨン・ジヘは、チーム班長のチョン・チョルヒから、22年前の夏に彼が担当した殺人事件の話を聞きます。その事件──ソウル繁華街の新村(シンチョン)で起こった女子大生ミン・ソリムの殺人事件は、被害者のマンションの防犯カメラの映像と彼女の遺体に残されていた体液という証拠がありながらも、いまだ犯人を捕まえるにいたっていませんでした。チームでの再捜査が決定し、ジへは足を使って地道に当時の事件の関係者を聴取します。美しく、奔放な性格で、実家も富豪であり、周囲に対しまるで女王のように振る舞っていたソリム。彼女に夢中になった男性は数しれません。かつて所属していたサークル──ドストエフスキーの読書会の仲間、家庭教師をつとめていた少年、英会話スクールの講師……捜査線上にはさまざまな人物があがります。いったいソリムを殺したのは誰なのか、そしてなぜ殺したのか──。偶数章でジへの捜査が描かれるいっぽうで、奇数章では犯人の独白が綴られます。殺人に駆り立てられた理由、自分なりの哲学、そして自分が魅せられてやまない、ドストエフスキーのこと……。異なるふたつの語り口から事件の全貌が見えたとき、あきらかになる被害者ソリムと犯人の罪、そして下った罰とは──。

原題の 재수사 は「再捜査」の意。いまや上質な警察映画・警察ドラマは韓国エンタテインメントの主軸といえますが、ここまで捜査の過程が丁寧に描かれた警察小説はかなり珍しいのではないでしょうか。ジャーナリストとして長年第一線を走ってきた著者、チャン・ガンミョンならではの目線が光る、スリリングな物語をお楽しみください。

著者、チャン・ガンミョン(張康明、장강명)は1975年、ソウル生まれです。ウェブマガジンを運営するほどSFにのめり込んだ延世大学(本書の被害者ミン・ソリムたちと同じ大学です)の学生時代を経て、建設会社に勤めたのちに韓国の三大紙のひとつ〈東亜日報〉の社会部に転職します。ここで11年間、ジャーナリストとして活躍しますが、2011年に『漂白』(표백)でハンギョレ文学賞を受賞、作家デビューします。『熱狂禁止、エヴァロード』(열광금지、에바로드/2014)で秀林文学賞、『コメント部隊』(댓글부대/2015)で済州四・三平和文学賞および今日の作家賞を、『朔日、あるいはあなたの世界の覚え方』(그믐、또는 당신이 세계를 기억하는 방식/2015)で文学トンネ作家賞を受賞。文芸作家として活躍しています。
日本では『韓国が嫌いで』(한국이 싫어서、吉良佳奈江訳、2020)、ディストピア小説『我らが願いは戦争』(우리의 소원은 전쟁、小西直子訳、2021)、韓国の労働問題をテーマにした連作小説集『鳥は飛ぶのが楽しいか』(산 자들、吉良佳奈江訳、2022)、SF作品集『極めて私的な超能力』(알래스카의 아이히만、 吉良佳奈江訳、2022)などの邦訳があります。
*参照 「チャン・ガンミョン インタビュー 不可能な世界を想像すること」(〈SFマガジン〉2022年8月号掲載、早川書房)
*上記のチャン・ガンミョン氏のインタビューは、こちらからお読みいただけます!