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【1章3.5節】第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』発売直前、本文先行公開!【発売日まで毎日更新】

第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作、竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』の本文を、11/19発売に先駆けてnoteで先行公開中! 発売日前日まで毎日更新(日曜除く)で、1章「最後の現金強盗 Going in Style」(作品全体の約25%相当)を全文公開です。

※前回までの更新はこちらからお読み頂けます

SECTION 3.5

 この俺、五嶋に言わせれば、悪党ってのはおたふく風邪だ。ガキの頃からかかっていれば程々の症状で落ち着くが、年いってなると手がつけられなくなる。何故かと言えば、そういう連中には初期ドロップアウト組にないもの……つまり集中力があるからだ。
 三ノ瀬はその最たるものだ。昼間は人参ぶら下げられた馬のように開発して、丑三つ時を過ぎるときっかり寝落ちする。キーボードに突っ伏してよだれで壊さないあたりは、褒めてやりたいプロ意識だ。
 アホ面を尻目に新作映画の試写会レビューを漁っていると、スマートフォンが鳴り出した。六条の通話だ。この時間に口頭ってあたりがいかにも奴らしい。メールの打ち方知らないんじゃないか。
「もしもし、こちら未来のムービースター」
『計画書は届きましたがね、五嶋さん何ですかアレは』
 ノーセンス。単刀直入本題一本なところがノーセンスだ。もう少し下衆なからかいの一つでもしたらどうだ。気が利かない。
『本気で関東のCBMSのドローンステーションを全て調べ上げるんですか?』
「そうだ。身内は使うなよ。何も知らないバイトを雇うんだ。横着はナシだ。皆がベストを尽くしてこそ、強盗は美しい。合唱コンクールと一緒だな」
『そうは言っても、この範囲は……逃走経路を絞るなりなんなりあるでしょう』
「ない。データ集めは基礎工事みたいなもんだ。そこで失敗すれば、どんな御殿を建てても二秒で崩れる。取れるデータは全て取って、初めて土俵に上がれる。CBMSに勝つには他の手段はない」
 通り一遍でもっともな事実を並べながら、俺はこれが無駄話だと解っていた。六条の不平はそうした理知的な部分にあるわけではないからだ。
『それも、三ノ瀬の受け売りですか』
「専門家のご意見だ」
 電話口で六条が唸る。過激にならない反論を必死に見繕っている。六条は俺に言葉を選んでいるんじゃない。資本主義に言葉を選んでいる。肩で風切るヤクザものでも、資本主義からは逃れられない。組のロンダリングルートのいくつかは俺がコンサルしてやったものだ。今後の活動を考えれば、会計とITに強いフリーランスとの関係悪化は避けたいはずだ。
『五嶋さん。例えばあなたが養豚場の経営者だったとして、豚に命令されたらどう思います? エサを変えろ。寝床を掃除しろ。豚舎を広くしろ……。豚の命令を部下に伝えて、経営者の面目は保てますか?』
「相変わらず、たとえが可愛いな」
 電話口で何かを蹴り飛ばす音が聞こえた。遊びすぎたかな。随分ピリついているようだ。先代の浪費で首が回らないのは知っているが、よほど借金取りが怖いらしい。
「クールダウンだ、六条ちゃん。こう考えろ。債務者をタコ部屋に放り込んだのと同じだ。労働搾取ってやつ。たまたま、三ノ瀬ちゃんには珍しい使い方があった。それだけ。だろ?」
「本当に、使うだけならいいんですがね」
 六条は声のトーンを一段落とした。
「五嶋さん。あなたにはコンサルとして頼みたいネタがいくらでもあります。これからも末永く付き合っていきたい。ですが、三ノ瀬は違う。あれはうちが貸した商品です。変な情を持たないでもらいたい」
「プロにかける忠告じゃぁないな」
 通話を切ると、三ノ瀬が豚のように鳴いた。びくりと体を一度震わせて、また深々と寝入った。
 水面下で不穏な空気。羨ましいね。主役っぽくて。

『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』11/19発売! 発売日まで毎日更新(日曜除く)します。(五嶋のセリフ「皆がベストを尽くしてこそ、強盗は美しい。合唱コンクールと一緒だな」は痺れますね! 強盗も合唱コンも、一人ひとりの当事者意識の持ちよう……大事です)

前回までの更新をまとめたページを作成しました。


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