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映画「死刑にいたる病」5月6日公開記念、原作者・櫛木理宇×白石和彌監督対談!

(c)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

 連続殺人鬼からの依頼は、たった一件の冤罪証明だった……。
 サイコサスペンスの名手・櫛木理宇によるベストセラー小説『死刑にいたる病』を、鬼才・白石和彌監督が映画化しました。2022年5月6日にいよいよ公開です。

原作『死刑にいたる病』櫛木理宇(ハヤカワ文庫)

 稀代のシリアルキラー・榛村大和(はいむら・やまと)を阿部サダヲさん、大和の依頼を受けて事件を再調査する大学生・筧井雅也(かけい・まさや)を岡田健史さんが演じます。

 公開を記念して、原作者・櫛木理宇さんと白石和彌監督による対談を掲載いたします。お互いが考える原作小説の読みどころと映画の見どころ、キャスティングからシリアルキラー談義まで、豊富に語っていただきました。どうぞお見逃しなく! (編集部)

映画「死刑にいたる病」5月6日公開記念対談

原作者・櫛木理宇×白石和彌監督

構成・文:千街晶之


―― 櫛木さんは、映画をご覧になってどのようなご感想を持たれましたか。

櫛木 二時間を超えると事前にうかがっていましたので、失礼かもしれませんが、もっと長く感じると思ってたんです。でも非常に短く感じられて、二時間があっという間で驚きました。

白石 よかったです。

―― 監督は原作小説のどのあたりに惹かれて映像化しようと思われたのでしょうか。

白石 まず、榛村大和の造形が素晴らしかったことと、話の展開の先が見えなかったというところが面白いなと思って。大和をまず観てみたいと個人的に感じました。原作のあのエピソードを入れておけばよかったかなと思うところはあるんですけど、阿部(サダヲ)さんや岡田(健史)くんがやってくれたことで、原作の良いところを映像化できたかなと思っています。

(c)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

―― 映像化される際に、原作のどの部分を忠実に再現して、どの部分を改変するという判断はどのようになさったのでしょうか。

白石 大和の過去の話などには時間をあまり割けないだろうから、現在進行形でいま何が起きているのかということと、どう盛り上げていけるかについて考えました。あとは、筧井雅也の部分で少し青春ミステリ感を出したかったので、これは原作にはなかったんですけどスカッシュのシーンを入れました。

櫛木 確かに青春映画の一面があると思いました。スカッシュのシーンもそうですよね。それに、嫌な大学生たちの言動や空気感がすごくリアルでした。

白石 ああいうところは得意なんです(笑)。ちょっとした悪意を持ったヤツらというのかな。

櫛木 岡田さんくらいルックスが良かったら、普通は陰キャ男子になるはずないじゃないですか(笑)。でも猫背っぽく歩いているシーンとか、本当に鬱屈した陰気な大学生に見えて素晴らしかったです。そこも青春の翳を感じましたね。

(c)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

―― 阿部サダヲさんと岡田健史さんというキャスティングはどのように決まったのでしょうか。

白石 阿部さんは『彼女がその名を知らない鳥たち』を監督した時に出てもらったんですけど、とあるシーンで、蒼井優ちゃん演じる十和子という人を、つい五分前に人を殺してきたような目で見てくださいというようなことを演出上で言った時の目が印象的だったんです。『死刑にいたる病』を映像化させていただくにあたって、あの時の阿部さんの顔がすぐに浮かんできて、阿部さんでやってみたいという話をしたんです。プロデューサーもいいですねと言ってくださって。岡田くんは先ほど櫛木先生もおっしゃられたように、イケメンなのだけどそれが前面に出ない感じがあって、鬱屈した様子も出やすいんじゃないかなと。彼がまとっている雰囲気みたいなものが気に入ってお願いしました。

―― 櫛木さんは映像化にあたって、監督に何か要望は出したのでしょうか。

櫛木 いえ、白石和彌監督だと最初にお聞きした時から、これはお任せして大丈夫だと思ったので、要望は特に出してません。完全に百パーセントお任せで。

白石 ありがとうございます。

―― お互いに、小説だからこそ、あるいは映画だからこそできた表現だと感じたのはどのあたりでしょうか。

白石 映画でいうと、面会室のシーンがかなりの時間を占めています。二人が来るたびに状況が変わって、そのなかでいろんな葛藤があってということを積み上げているんですが、単純に絵で見ると、面会室で座って喋っているだけということにもなりかねないので、そこをどう映像的な工夫でダイナミックに見せられるか考えました。場合によっては阿部さんが、あり得ないのだけど(面会室の)アクリル板を越えてきたようなイメージを入れたりとか、そのあたりは映画ならではの遊びができたのかなと思っています。

櫛木 小説のほうは、動きがなくてもとりあえず心理描写を積み重ねていけば話が成立しちゃうじゃないですか。でもやっぱり映画は絵として見せなくてはいけないので、先ほど監督がおっしゃっていましたが、アクリル板を突き抜けて手が出てくるようなところは映像でしかできない演出だなあと。私が小説ですっとばしてしまった、大和がどうやって獲物に近づいて仲良くなるのかというところも映画では描いてくださってましたね。スーパーでバイトをしているレジの女の子、あの子がすごく好きで。獲物との仲良くなり方に、こちらもフッと画面に吸い寄せられるような錯覚を起こしました。映画ならではの見せ方をしてくださったからこその効果ですよね。

白石 阿部さんのキャラクターもあって、不信感なく近づいていく感じを想像してつくりました。あと、被害者の少年少女たちは、櫛木先生の本を読んでいると、特別イケメンである必要はないかもしれないというか、内面の美しさもすごく重要なのだろうなということを感じたので、そういう感じが出るような子たちにできるだけ出てもらうよう気を遣ったところですね。

櫛木 獲物役の少年少女のキャスティングも確かに素晴らしいなと思いました。みなさんもちろん美形なんですけど、それ以上に清潔感があるというか。

白石 そうですね。清潔感はすごく気にしました。だから、衣装も色がついているというよりはモノトーンな感じの印象にできるだけしようと。

(c)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

―― 櫛木さんが原作でシリアルキラーを描いた理由は何だったのでしょうか。

櫛木 私はデビュー前に、十年ぐらいシリアルキラーのサイトをやっていたんです。こういうジャンルがもともと好きで、資料も自宅に山ほどあるんですけど、デビュー作はシリアルキラーとは関係のない話でした。そういう意味で、『死刑にいたる病』は作家としての集大成じゃなくて、作家になる前からの自分の集大成のような気がします。デビューして五年ぐらい経って、文章もちょっとマシなものを書けるようになって、構成力も上がってきて、それでやっと書けたのがこの作品だったので、映画という形にしていただいて、後世に残るかもしれないと思うと非常に嬉しいですね。

白石 ある意味、櫛木先生の理想のシリアルキラーが大和だと思っていいのでしょうか。

櫛木 そうですね。いろんなシリアルキラーの要素が少しずつ集まってできたようなキャラクターです。シリアルキラーのサイトを作ろうと思ったきっかけは、月並みですがコリン・ウィルソンの『現代殺人百科』です。まだ会社員だった頃、しばらく読まずに積ん読してたんですが、ある日、インフルエンザで高熱を出した時に無性に読みたくなって熟読したんです。そうしたら脳にガツンと来て。テキストを勢いでダーッとメモ帳に打って、一週間ぐらいでサイトを完成させました。

白石 そのエピソード、最高ですね(笑)。逆に、サイトを作っていなかったら小説家にはもしかすると……みたいな。

櫛木 なっていなかったかもしれません。サイトのテキストを書いているうち、文章も多少なりと上達していった気がするんです。そういう下地がなければ小説を書いて応募はしなかったかもしれませんね。

白石 なるほど、すごいな。

―― これは監督にお聞きしたいんですが、監督の出世作の『凶悪』も、死刑囚からメッセージが来て、その真偽を調べていくという構成になっていますよね。設定的にちょっと重なる部分がありますが、そのあたりは意識されたのでしょうか。

白石 意識せざるを得なかったというところはあります。最初はちょっと、同じような印象のスタートにもなってしまうし、僕が映画化するのは難しいのかなと思ったんですよね。ですが、何度か読んでいくうちに、話は全然違うし、展開も違うし、『凶悪』も、もちろん面会室はあるのですけど、逆にあの時は特別なにか演出を加えるということは、むしろしなかったんです。逆にそれがあったので、違う雰囲気で、今回はもっと縦横無尽に面会室のなかで暴れるようなカメラワークをしながらというのがあったので、むしろ『凶悪』があったおかげで『死刑にいたる病』は前に進めたというものがありましたね。

―― 櫛木さんは白石監督の今までの映画をご覧になって、特に気に入った作品はありますか。

櫛木 『凶悪』も好きですし、『孤狼の血』も。あのピエール瀧さんがすごく好きで。

白石 ありがとうございます。嬉しいです。

櫛木 瀧さん自身の存在感ももちろんですけど、コメディもやれる方が怖い役をやると恐ろしいというのは、今回の阿部サダヲさんにも通じる部分じゃないでしょうか。そういうところが白石監督の真骨頂じゃないかと思います。

白石 ありがとうございます。光栄です。

(c)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

―― では最後に、《ミステリマガジン》読者へのメッセージをお願いします。

白石 ずっとやりたかった原作をこういう形でできて、岡田くんのキャラクターもあって青春ミステリみたいな形になったというのと、僕がもともと一番やりたかったのは、榛村大和を自分自身で見てみたかったというもので、個人的な欲望が満たされたんですけど、ミステリとしてもすごく面白い作品になったかなと思うので、ぜひ映画を観てください。小説を読んでから映画を観る、でもいいですけど、ぜひ両方をいろんな角度から楽しんでいただければ嬉しいなと思います。

櫛木 サイコミステリとして、《ミステリマガジン》を読んでくださっている方にはまさにど真ん中で楽しめる作品になっていると思います。ラストにドンデン返しもありますので、ミステリファンならではの目線で見ていただけると光栄です。

―― ありがとうございました。

(2022年3月16日オンライン収録)

プロフィール

櫛木理宇(くしき・りう)
1972年新潟県生まれ。2012年『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞・読者賞を受賞。同年、『赤と白』で第25回小説すばる新人賞を受賞する。著書に〈ホーンテッド・キャンパス〉シリーズ、『死刑にいたる病』(『チェインドッグ』改題)『死んでもいい』(以上2作ハヤカワ文庫刊)『鵜頭川村事件』『虜囚の犬』『老い蜂』『残酷依存症』などがある。2016年に『ホーンテッド・キャンパス』が映画化、2022年に『死刑にいたる病』が白石和彌監督映画化『鵜頭川村事件』は入江悠監督でドラマ化が決まっている。2022年5月10日に最新作『氷の致死量』を早川書房より刊行予定。

白石和彌(しらいし・かずや)
1974年北海道生まれ。1995年、中村幻児監督主催の「映像塾」に入塾。その後は若松孝二監督に師事。2010年、「ロストパラダイス・イン・トーキョー」で長篇監督デビュー。第2作「凶悪」(2013)で新藤兼人賞金賞などを受賞し注目を集める。「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017)、「孤狼の血」(2018)でブルーリボン賞監督賞受賞。さらに「孤狼の血」は日本アカデミー優秀監督賞、優秀作品賞などを受賞し、続篇「孤狼の血 LEVEL2」(2021)でも再び同賞を受賞している。2022年秋より「仮面ライダーBLACK SUN」配信予定。

映画「死刑にいたる病

2022年5月6日(金)全国公開
監督:白石和彌
出演:阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、中山美穂
配給:クロックワークス
公式HP:siy-movie.com

原作
死刑にいたる病

櫛木理宇
ハヤカワ文庫JA刊
定価814 円(税込)
鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也(かけいまさや)に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和(はいむらやまと)からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」地域で人気のあるパン屋の元店主にして、自分のよき理解者であった大和に頼まれ、事件の再調査を始めた雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていき……一つ一つの選択が明らかにしていく残酷な真実とは。解説:千街晶之

 なお本記事は、ミステリマガジン2022年7月号(5/25発売)にも収録予定です。お楽しみに!!(編集部)


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