スターダスト

【第3シーズン7/18刊行開始記念】《ローダンNEO》おさらいその1:第1巻『スターダスト』の前半分第9章までを連続掲載(第1章)

世界最長のSFシリーズ《宇宙英雄ローダン》、そのリブート企画として始まった新プロジェクト《ローダンNEO》の第3シーズン全8巻(第17~24巻)毎月連続刊行を記念して、第1巻『スターダスト』を毎日1章ずつ全体の半分まで公開します!

《ローダンNEO》第1巻『スターダスト』(第1シーズン第1巻)

《ローダンNEO》第1巻『スターダスト』

     フランク・ボルシュ著
     柴田さとみ訳

1

「笑え、馬鹿者。笑うのだ」
 パウンダーの指示で、ペリー・ローダンはやむなく笑った。
 二〇三六年六月一九日の早朝、ネバダ宇宙基地の発射場に広がる果てしないコンクリート砂漠をクルーとともに歩みながら。そして、地面に体をめり込ませようとする宇宙服の鉛のような重みに耐えながら。
 全身が汗みずくなのを悟られぬよう、彼は笑った。
 まるで、このミッションにかかっているのが自身とクルーの命だけであるかのように。
 笑顔の裏にもっと大きなもの──すなわち、人類の命運がかかっていることを、発射場わきの観覧席から、あるいは世界中から、彼の歩みに熱い視線を送る人々に決して悟られぬように、彼は笑ったのである。
 ローダンたちの背後、宇宙基地の管制センターでは、迷宮のような施設内で何百人もの専門スタッフたちが最後の発射準備に追われている。彼らの作業を、北米や全世界に散らばる数万人規模の人員が補い、モニタリングし、ときに修正を加えていた。
 ローダンの前方には発射台が高くそびえている。その圧倒的な全貌は、宇宙服の金属リングが首に食い込むほど仰ぎ見なければ視界に収められないほどだ。今の彼には、堂々たる存在感を放つ発射台が中世ヨーロッパの壮大な大聖堂のように思われた。
 発射台には無数のケーブルと電線によってつながれたロケットがある。ローダンと彼の部下たちを地上から射出するためのそのロケットは、シューシューとうなりをあげて蒸気を発していた。その先端に搭載されているのが、彼らの乗る宇宙船《スターダスト》である。機体に設けられた小翼は、この船が大気圏の飛行を──すなわち地球への帰還を前提に設計されたことを示していた。
「パウンダーの奴、いつかぶん殴ってやる! 俺たちを月まで飛ばそうってのに、船までは歩きで行けだなんて! いったい、どういうつもりでしょうね!」
 ローダンの隣でブルがフンと荒く鼻を鳴らした。このずんぐりとした体型のシステム・アドミニストレーター兼副パイロットの額には滝のように汗が流れており、それが首筋を伝い宇宙服の中に消えていく。あらゆる非常事態を想定して設計された宇宙服も、どうやら地上での散歩には不向きのようだった。
「パウンダーにも事情があるってことさ」
 ローダンは言った。アメリカ空軍のテストパイロット時代から、彼とブルは単なる親友という枠を超える強い絆で結ばれてきた。
 ローダンは友人であるブルの性格をよく知っている。小さなことに目を向けて、それが何であろうと固執するのは、ブルが好んで用いるプレッシャー対処法であり、これは実によく機能している。ブルは恐れを知らぬ男ではないが、いざというときには恐れ知らずに行動できる男だった。ブルは過小評価されがちな人物だが、それがかえってはかりしれない強みにもなっている。
「事情、ね。奴は、いつだってそうだ!」
 ブルは引き下がらなかった。右脇に抱えたヘルメットがなかったなら、大きく手を振りまわして憤りを表したことだろう。ヘルメットを手で持てというのも、パウンダーの指示だった。
「その事情とやらをですよ、あのじいさんはなんでこっちに押し付けるんです?」
「そりゃ、俺たちが今回のミッションに自ら志願したからさ」
 ローダンは口を挟んだが、その言葉もブルの気を一瞬そらしたに過ぎなかった。
「自ら志願しただって? 奴に無理やり説得されたんだ! だいたいパウンダーは……」
 ブルの言葉はしかし、クルーの装着するイヤホンから流れてきたパウンダーの声にさえぎられた。
「……皆さん、本日は大勢お集まりいただき感謝します。正直に申しまして、今回のミッションにここまで注目していただけるとは思いもよらず、そのため席が少し足りなくなってしまいました。男性諸君には、ご婦人に席をお譲りいただくようお願いいたします」
 記者会見が始まったようだ。表向きはカウントダウン直前の要望に応えてやむをえずといった態を装ってはいるが、実はパウンダーが最初から計画していた会見だった。
 その音声をクルーたちにも聞かせようというわけだ。
「これより、今回の《スターダスト》のミッションについて手短に説明いたします。のちほど質疑応答の時間をじゅうぶんに設けておりますので、途中での質問はご遠慮願います……」
 酷使された空調とおぼしきかすかな機械音が、イヤホンから響いてくる。ローダンは狭苦しい──もちろんパウンダー自らが意図して選んだのだろうが──小部屋に記者たちがひしめきあい、彼の演出におとなしく従っているさまを思い浮かべた。
 パウンダーを敵視する人間は実に多い。彼らはパウンダーのことを傍若無人だと非難するが、それは不当な評価といえよう。彼は公正な人間であり、それらは不当な評価と言える。ただ、頑として自分の思い通りにことを運ぼうとするだけなのだ。それに抗っても無意味なことは、ローダンも、《スターダスト》のクルーたちも、そして会場に集まった記者たちもよくわかっていた。
「包み隠さず申し上げますが……」パウンダーが言葉を続ける。
「現在、我々はトラブルを抱えています。月の表側に設置された月面調査拠点、アームストロング基地からの通信が、二七日間にわたって途絶えているのです。そのため、現地に赴いて状況を確認する必要があると判断しました」
 ざわめきが起きた。やはりだ、と記者たちは思った。
 やはり、自分たちの勘は間違っていなかった。何かが起きているのだ。そして今、NASAの飛行司令官(フライト・デイレクター)にして有人宇宙飛行の偉大な父であるパウンダーの口から、ことの詳細がじきじきに告げられようとしている──。
「根拠のない憶測を防ぐべくはっきりと申し上げますが、過度に憂慮すべき状況ではありません。たしかに、月面の環境は生命にとりまして過酷極まるものです。月には大気がなく、気温は摂氏一三〇度からマイナス一六〇度と大幅に変動し、人間も物質も極大の負荷にさらされます。しかし、お忘れなきよう。アームストロング基地は、そうした条件をすべて計算に入れて設計されているのです」
 それはまさに、ブルの言うところの「パウンダーらしい」話しぶりだった。たしかに、内容はすべて事実である。どんなに厳しい記者のチェックもクリアすることだろう。
 その一方で、彼ほど巧みに事実を操り、自分の目的に即した、一見すると理屈のとおったイメージを作り上げられる人物を、ローダンは他に知らなかった。物事を常に自分に都合のよい方向に導くことにかけて、パウンダーはまさしく天才だ。
「通信機の不具合というのは、そう珍しいことではありません。アームストロング基地の滞在チームにとって、大きな問題とはならないでしょう。この基地は外部からの補給なしで六カ月は稼働できるよう設計されています」
 彼は天才であり、そしてパトロンでもある。ローダンをNASAに引き抜いたのはパウンダーだった。陰謀と嫉妬がうずまく宇宙機関の伏魔殿においてローダンに庇護の手を差しのべ、最終的に《スターダスト》の船長に抜擢してくれたのも、彼なのである。
 ローダンは、彼に大いに世話になってきた。そしてその間に、この老人の魔術に対抗する術(すべ)を理解するようにもなっていた。コツはよく聞くこと、それだけだ。注意深く聞いていれば、そして多少の運さえあれば、パウンダーが客観的な事実という領域から一歩踏み出す瞬間をとらえることができる。
 今、彼が話している月の環境や月面基地の情報は、たしかに正確である。しかし、そのいずれも、欺瞞の領域へとジャンプするための助走に過ぎない。
「その上で我々は、月の状況が万事問題ないことを確認すべきと判断しました。宇宙飛行士の生命を無条件で最優先とする、それがNASAの伝統であります。議会の近視眼的かつ大幅な予算縮小を考慮してもなお、この伝統を遂行する義務があると考えるのです」
 ジャンプだ。あまりにさりげなかったので、疑念を抱いた記者は一人としていなかったことだろう。
 たしかにNASAは、緊急時に宇宙飛行士個人の生命を守るにあたり、何億という支出も厭わない。しかし、今回の《スターダスト》のミッションには、その何倍もの莫大な予算が投じられている。さらに言えば、このミッションには月面基地に滞在する宇宙飛行士一八名の生命をも超えた、もっと大きなものがかかっているのだ──。
「《スターダスト》は太平洋標準時七時一〇分、調査ミッションへと出発します。この《スターダスト》は月シャトル、通称LSのプロトタイプです。LSが実用化されれば、アームストロング基地への補給は大幅に簡易化されるでしょう。月面の常設コロニー設置に向けた歩みが、大きく加速するのです。今回のミッションは、同シャトルの月への処女飛行となります。本プロジェクトに長年携わってきた我々一同も、皆さまと同様、長らく待ちわびたこの瞬間に心躍らせています」
《スターダスト》に関する美しい、そして事実のみに彩られた説明だった。
 だが、たとえばオレゴンのセント・ヘレンズ山が噴火の予兆を見せており、打ち上げに支障が生じる可能性がある、といったような説明はそこから省かれているのだ。
《スターダスト》を宇宙に運ぶ、推進ロケットに関する言及も皆無だった。《スターダスト》は処女飛行を三年も延期してきた。その理由は、推進ロケットNOVAの試作機が次から次へと投入されては、ネバダの砂漠に住むスナネズミたちに盛大な花火を披露してきたからである。とはいえ、《スターダスト》を月軌道に乗せる手段を、NASAはNOVAロケット以外に持ち合わせていなかった。
「今回のミッションを成功へと導くべく、《スターダスト》には選りすぐりの優秀なクルーが搭乗しています。ここで簡単に、クルー一同をご紹介しましょう。なお、各クルーと月シャトルおよび関連事項につきましては、記者会見終了後に皆さまの記者用Webアカウントに視聴覚資料をアップロードいたします」
 ローダンが発射台にたどり着くと、特殊作業服を着た地上勤務員が、電解質飲料入りのボトルを差し出してくれた。宇宙飛行士の体内水分バランスを理想的な状態に保つ飲料で、添加された人工甘味料が、栄養を摂取したかのような幻想を空っぽの胃にもたらしてくれるのだ。ローダンとクルーたちは二四時間、食べ物をいっさい口にしていなかった。万一の際に、吐瀉物が喉に詰まるリスクを最小限に抑えるための予防措置である。
 エレベーターのドアが開いた。ローダンが内部に入り、残りのクルーもそれに続く。ドアが閉まると、息が詰まるような狭苦しい空間が四人の男たちを取り囲んだ。それは、これから先の数週間にわたり、彼らが過ごす環境の予言であるかのようだった。
 かすかな振動とともに、エレベーターが動き出す。
「本ミッションの船長および正パイロットを務めるのは、ペリー・ローダン少佐であります。ローダン少佐は現在三七歳、独身。カリフォルニア大学バークレー校の卒業生であり、NASAでもっとも優秀なテストパイロットの一人です。ああ、先だっての注意にもかかわらず、話の途中で記者の皆さまの質問攻めにあわないよう、あらかじめ申し上げておきましょう。さよう、彼は二〇三二年三月にすばやい機転でLS初期試作機を墜落から救った、あのローダンであります。この一件以来、彼は同僚から『瞬間切替装置』と評されています。もっとも、本人はこの呼び名をあまり気に入っていないようですがね」
 少なくとも、最後の説明だけはそのとおりだった。ローダンはあのとき、誰でも思いつく当然の対応をしたに過ぎなかったのだ。
 試作機はコンピュータ制御にまったく反応しない状態だった。そこで彼は搭載コンピュータの電源を切り、試作機を手動で着陸させたのである。
 もちろん、機体の飛行には本来、コンピュータによる膨大かつ繊細な調整が常時必要となる。それを手動で操縦し、最終的に滑走路を外れはしたものの、試作機と自分自身とクルーをなんとか無傷で地上に降り立たせたのだった。
「システム・アドミニストレーター兼副パイロットを務めるのはレジナルド・ブルです。ブル大尉は三六歳、独身。これまでに月周回飛行をはじめとする二四度の宇宙ミッションにおいて成功を収めてきました。今回の《スターダスト》での飛行は、彼にとって大きな節目となるでしょう。NASAは彼に対し、心からの祝辞を送るものであります」
「そいつはありがとうよ、パウンダー!」
 ブルが、短く刈ったごわつく赤毛を乱暴な手つきでかき混ぜたので、汗の粒がエレベーター内に飛び散った。
「まさか、こんなにすてきな任務をプレゼントしていただけるとはな!」
「クラーク・G・フリッパー大尉は天文学者であり搭載物管理技術者(ペイロード・スペシヤリスト)です。フリッパー大尉は三二歳とクルーの中では最年少ですが、その能力の高さは疑うべくもありません。なお、ここで一点プライベートな事柄について触れさせていただきたい。彼に関してネット上で囁かれている噂については、皆さまもすでにご存じかと思います。こうした現象は不愉快ながら現代社会にはつきものですからな。フリッパー大尉の同意のもと公表しますが、それらの噂はけっして根拠のないものではありません。大尉が現在、深刻な不幸に見舞われていることは事実であります。そのような苦境にあってもなお、今回の任務への参加を決断してくれた大尉に対し、この場を借りて心からの感謝を表明します。我々は皆、彼に深い恩義を感じております」
 ローダンはフリッパーと視線をあわせようとしたが、それは叶わなかった。フリッパーはじっと床に視線を落としている。その心にいったいどんな思いがうずまいているのだろうかと、ローダンは同僚の心中を思った。
 ブルであれば、きっとこう言うだろう。「何も考えちゃいませんよ」と。「フリッパーは無類のプレイボーイです。週単位で女性をとっかえひっかえしてる。そのうち一人が消息不明になったからって、どれほどのことかってんですよ」とも。
 ヒマラヤはアンナプルナ連峰の山頂付近、月面にも匹敵する過酷な環境に支配された、生命の危険をともなう六〇〇〇メートル超地点。ベスの登山隊からの無線連絡は、三六時間にわたり途絶えていた。どうひいき目にみても、彼女の生命は尽きていると思われた。
「心配なんぞ無用です。フリッパーならすぐに立ち直りますって。来週には、新しい女を三人ばかり引き連れてることでしょうよ」
 心配するローダンにブルはそう言い放ち、それきり気にする様子もなかった。
 だが、ローダンは違った。
 たしかにベスは星の数ほどいる女性の一人だ。しかしフリッパーにとって彼女は常に帰るべき場所であり、彼の錨だったのである。その彼女が死んだも同然の状況にある今、フリッパー──夢見るような瞳をもつ長身の青年は、じっと床をにらみつけている。
「エリック・マノリ博士は、船医および材料科学者として《スターダスト》のミッションに同行します。マノリ博士は四六歳。数多くの周回軌道ミッションに参加してきたベテランであります。細胞変質の分野における権威として、その名を知る方々も多いでしょう。博士に今回のミッションに参加いただけることは、我々にとって非常に光栄であります」
 マノリの参加は、ローダンが今回のミッションに際して提示した条件のひとつだった。
 彼は荒波のなかに立つ岩石の如く、何事にも動じない冷静さを備えた人物である。直情的なブルと──通常であれば──活発でにぎやかなフリッパー。この二人とのバランスを考えたとき、マノリの存在は《スターダスト》に欠かせないとローダンは考えたのだ。
「さて皆さま、大変熱心にご拝聴いただき嬉しいかぎりです。願わくば、続いてご紹介する活動についても、同じくらい興味をお持ちいただければ幸いです。まさに今この瞬間、我がNASAの無人探査機が、これまでほとんど未知の領域であった木星の──そう、聞き間違いではありませんよ、木星の環に到達しました。これは木星の誕生のみならず、我々の住まう太陽系そのものの誕生にも関わる貴重な新事実の発見につながると、専門家チームは期待しております。皆さまのデータフォルダにさまざまな画像データをアップロードしておりますので、ぜひご注目を!」
 エレベーターが停止してドアが開く。ローダンは外に進み出た。はるか二〇〇メートル眼下の谷底には、ネバダ宇宙基地が横たわっている。空気がひんやりと乾燥していた。
《スターダスト》のハッチわきに立つ専門スタッフが、クルーに手を差し出した。ローダンは首の左側に装着していた測定装置を引きはがした。この装置の役割は、宇宙飛行士の医学的データを管制センターに送信することである。他のクルーもローダンに倣った。
「幸運を!」専門スタッフが声をかけた。
「ありがとうよ。幸運か、後々さぞ役に立つだろうさ!」ブルが鼻を鳴らした。
 四人の宇宙飛行士は船内へと体をねじこんだ。ローダンの耳には、パウンダーの演説の締めの言葉が届いている。
「皆さま、ただ今、クルーたちが《スターダスト》への搭乗を完了しました。打ち上げ前の最後のひとときを、厳かな沈黙とともに見守っていただきたい」
・したがって、しつこい質問はお断りだ!・と、ローダンは心のなかで付け加える。だが、これは逃避的な思考に過ぎなかった。この先に控える任務が、彼の心に重くのしかかっていたからである。
 ローダンは自身の身体形状にあわせて設計された専用シートに深く体を沈め、宇宙服のヘルメットを装着した。シートがかすかに震えている。推進ロケットの振動が《スターダスト》の船体に伝わっているのだ。左耳に装着したヘッドホンからは、ギシギシときしむ音が響く。
 隣のシートによじ登り、同じくヘルメットをかぶったブルがローダンに顔を向けた。
「そうだ、最後にひとつ言っておきますよ。背中の下のどでかい爆竹が爆発して、こっぱみじんになる前にね。あんたの友人でいられて、実に楽しかった」
「おい! やめないか、この……」
 ローダンの声は機械音のうなりにかき消される。推進ロケットのエンジンが作動したのだ。全長約一五〇メートルのNOVAロケットは、アームストロング基地の常設化を目指すNASAの最後の希望だった。
 NOVAは実験では度々、発射直後に大爆発を起こして空中分解をくり返してきた。そのためエンジニアや技術者たちは最近まで、このロケットのことを「超新星(スーパーノヴア)」と呼んで皮肉っていたものだ。
 だが、パウンダーがスターダスト打ち上げ計画の開始を指令して以来、この冗談をあえて口にするものはいなかった。
 ローダンは当初、パウンダーがこのような馬鹿げた決定を下したことを、にわかには信じられずにいた。ほどなくして、彼は飛行司令官の自宅に招かれた。そこでパウンダーから直々に、《スターダスト》打ち上げに向けてNOVAの実用配備がまもなく整うだろうと告げられたのだ。
 どうしてそんな馬鹿げたことを、とローダンは唖然として問いかけた。パウンダーは、庭でのバーベキューで、ステーキを裏返すために手にしていたトングを置くと、ズボンのポケットに手を入れ、一枚の写真を差し出した。それは、月面基地から送られてきた最後の写真だった。月の裏側で稼働している自動探査機の搭載カメラが撮影したものである。
 クレーターが写っている。直径三キロはあろうかという巨大なクレーターだ。その中央に、山のように高く、おそろしく巨大な球体が鎮座していた。自然物にしては完璧すぎるほど左右対称で、あまりに均一な物体。明らかに、この世のものではなかった。
 それはまさに、人類が考える「この世の果て」の光景だった。それが、ローダンの目指す場所である。
 メインエンジンが作動し、《スターダスト》とクルーたちは天へと送り出された。

【第2章へ】(7/8以降公開)

《ローダンNEO》第1巻『スターダスト』(第1シーズン第1巻)

《ローダンNEO》第9巻『グッドホープ』(第2シーズン第1巻)

《ローダンNEO》第17巻『テラニア執政官』(第3シーズン第1巻)

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【シリーズ紹介】世界最長のSFシリーズ《宇宙英雄ローダン》、その新プロジェクト《ローダンNEO》とは? 第2シーズン全8巻2018年7月より日本版刊行開始!

《ローダンNEO》シリーズ、第2シーズン全8巻連続刊行開始! 新シーズン開幕の第9巻に掲載の森瀬繚氏による解説を公開

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