【1/19同時刊行】第9回ハヤカワSFコンテスト大賞『スター・シェイカー』人間六度氏&優秀賞『サーキット・スイッチャー』安野貴博氏、受賞コメントを公開!
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【1/19同時刊行】第9回ハヤカワSFコンテスト大賞『スター・シェイカー』人間六度氏&優秀賞『サーキット・スイッチャー』安野貴博氏、受賞コメントを公開!

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第9回ハヤカワSFコンテストでは、スケールの大きさで4年ぶりの大賞作品誕生となった人間六度『スター・シェイカー』と、凄まじい完成度で審査員を驚かせた優秀賞作品、安野貴博『サーキット・スイッチャー』が選ばれました。

2021年はアガサ・クリスティー賞大賞受賞作の逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』が第166回直木賞の候補になり、紙版だけですでに7万部を超えるベストセラーになっていますが、ハヤカワSFコンテストの受賞作も負けていません。
早速読んでくださった逢坂冬馬さんがツイートしているように、どちらもハイレベルのエンタメ作品に仕上がっています。

2021年受賞作は、クリスティー賞だけでなくSFコンテストもすごい!

1月19日の同時刊行を記念して、〈SFマガジン〉2021年12月号に掲載された両者の受賞の言葉をWebにて全文公開します!

人間六度『スター・シェイカー』

受賞の言葉


                     人間六度

 SFっていいですよね。何がいいかというと、ダサくて情けない矮小な個人でも、宇宙やそれよりもっと巨大なものと繋がることで、束の間、自分を許せるから。

 たとえば好きな子に振られた時、SFが利用できます。これは遺伝子のなせる技だ、僕は操られているだけなんだ、って。そうやれば、恋をしたのも、失恋したのも、自分のせいではなくなりますから。そういえば急性リンパ性白血病を告知された時も、SFによって世界と自分を接続することで、あたかも避雷針のように利用してショックを和らげました。SF受け身。

 僕を助けた臍帯血移植という治療は、出産直後に母子から切り離される臍(へそ)の緒の血液を注入し、自分の免疫と入れ替えるという方法です。僕の中に他人の命が流れ込んでくるというのはもはやSF以外の何物でもありません。

 父親は読書家で、彼の本棚には大量のハヤカワSFシリーズの新書が積まれています。最近引越してだいぶ整理したそうですが、僕にとってはいぜん膨大な量です。昔から僕が何か創作の話をすると父は、必ず「まるでレムみたいだ」とか「デューン 砂の惑星的だな」とか言います。僕はその話を大抵読んだことがなくて、どういう話? って聞き返すのですけど、彼なりに抽出した部分しか教えてくれなくて、僕はフロッタージュのように少しずつSFの輪郭を擦り出していきました。

 白血病の罹患を知ったのは浪人中です。現役時代は深夜に書いて学校に眠りにただ行くような生活をしていたから、罰が当たったのだと思いました。でも移植するとなった時父が、僕の書いた小説の自費出版をしよう、と言ってくれて。遺作のつもりだったらしいです。それでも遺るものがあれば、気が和らぐだろう、と。かぐや姫をベースにした、SFロマンスでした。その時、言い訳できないほど書くことが好きなのだと知りました。書くために生きようと思いました。

 だから、嬉しいです。この結果を両親と、心配してくれた友達と、そして、僕を生かした血液、及びドナーの母子に捧げたい。A型からO型に変わったこの血液が書いたのです。吐き気のするあの病室でのたうち回っていた屍に、強いて書かせたのです。って書くと血界戦線みたいでカッコいいですね? メモしよ。

『スター・シェイカー』は、4年前、自動車学校に通っている時から考えていました。テレポートが免許制だったら面白いな、と。マニュアルを取ろうとしたのですが、当時左足の筋力がなさすぎて教官に止められたのを覚えています。2日でオートマに変えさせられました。あの嫌味な教官のことは絶対に忘れません。

 SFっていいですよね。当たり前のことに気づかせてくれます。世界はどこまでも巨大かつ緻密で、残酷かつかっこうよくて、自分がその確かな一部だということに。

 だから好きです。

 大賞に選んでくださって、ありがとうございます。

安野貴博『サーキット・スイッチャー』

受賞の言葉


                     安野貴博

 『サーキット・スイッチャー』は、自動運転の実現を人間社会はどう受け入れるのか? という疑問からはじめて一気に書いた小説です。私は機械学習関連のスタートアップで仕事をしているのですが、自動運転は数あるAI応用の中でも際立って重要な技術だと感じています。この技術は、今まで曖昧なままにしておけた決定困難な課題に対し、明確な回答を要求するものだからです。一方で、自動運転にまつわる技術的課題はどんどん解決していっているのに、社会がそれを受容する準備ができているようには見えません。

 社会が変化するボトルネックは、これまで技術進化のスピードにありました。しかし、指数関数的な技術的進化により、ボトルネックの所在は移り変わりつつあるのではないでしょうか。社会が技術を受容する速度より、技術が進化する速度の方が速くなったのです。技術は単体でインパクトをもたらすことはできません。人の心がそれを受け入れることで初めて社会は変わります。だから、私たちは人類史上初めて、人の心の変化速度が社会の進化を規定する時代に生きている可能性があります。

 そういう意味で私は、物語こそが人の心を変化させる力を持っていて、社会を前進させるキーとなる、と考えています。ストーリーを辿りながら、読者は擬似的に想像上の世界を、未来の社会を、そこで起きる問題を体験することができます。小説は空想ですが、読者の思考は現実です。物語は読者の脳に染み込み、世界モデルを微調整することができます。

 だから、自分も社会を加速させるような物語を書いてやるぞ……と、大きすぎる野望を抱きながらこの物語を書きはじめました。しかし、冷静になった今読み返してみると、また違った趣があることに気づきました。知らないうちに、自分のパーソナルな気持ちが作品に色濃く埋め込まれていたのです。

 この作品を書き始めたのは2020年2月のことでした。まさに新型コロナウイルスの感染拡大がはじまった頃です。私の生活も一変しました。慣れないリモートワーク体制の中、移動は制限され、コミュニケーションは希薄になりました。感じたフラストレーションは相当なものでした。情けないことに、自分の心が変化するスピードより、環境が変化するスピードの方が速かった、というわけです。

 読み返してみると、あの頃に感じていた閉塞感、そして状況を打破したいともがいていた気持ちが作品にも強く反映されていると感じました。マクロな観点から選んだつもりの「自動運転」というテーマですら、「移動すること」そのものが制約されていた執筆時の緊急事態宣言下の環境と無関係ではないように思えます。

 作品を発表する場をくださった早川書房様、選考に関わっていただいた選考委員の皆様、小説を読んで感想をくれた友人たち、そしてプロフェッショナルなインプットをくれた妻に心より感謝いたします。読んでいただく方に、マクロな野望とミクロな感情がミックスされたこの作品を、少しでも楽しんでいただければ幸いです。



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