ハウ_トゥー

セリーナ・ウィリアムズVSドローン! R・マンロー『ハウ・トゥー』より抜粋掲載その2


いよいよ来週23日に発売となる、マンローさんの最新作『ハウ・トゥー』。刊行記念特集その4は、前回掲載した『ハウ・トゥー』抜粋の続きです。あのセリーナ・ウィリアムズが、マンローさんのリクエストに応じてくれるとは……マンローさんのアメリカでの人気のほどがわかりますね。ではその「続き」をどうぞ。

ハウ・トゥー

ランドール・マンロー著『ハウ・トゥー』(吉田三知世訳)より一部抜粋

ドローンを落とすには(スポーツ用品を使って)――承前

セリーナがこころよく協力してくれたのは、うれしい驚きだった。彼女の夫、アレクシスは、テストで犠牲になるドローンとして、カメラが壊れたDJIMavic Pro 2を提供してくれた。ふたりは、世界最高のテニスプレーヤーが、侵入してきたロボット飛行物体の撃退にどれほど効果的かを確かめるために、彼女の練習用コートに向かった。

私が見つけることのできたわずかな研究によれば、テニスプレーヤーはものを投げる選手ほど正確さ指標は高くなく、投手よりもキッカーに近い成績だろうと推測された。私自身の最初のおおざっぱな推測は、サーブ時の正確さ指標は約50、12メートル離れたドローンに命中させるには5~7回繰り返さなければならないだろうというところだった(テニスボールはドローンを落とすことができるだろうか? ちょっとドローンをはじいて、そのあとカタカタ揺らす程度ではないだろうか? など、疑問が山ほどあった)。

ドローン図2

アレクシスはドローンをネットの真上あたりまで飛ばし、そこでホバリングさせた。そこでセリーナがベースラインからサーブした。

彼女の最初のサーブは、かなり低かった。2度めのサーブはドローンの片側をかすめて勢いよく飛んだ。

ドローン図3

3度めのサーブは、プロペラのひとつを直撃した。ドローンはスピンし、一瞬、空中に留まるかに見えたが、すぐにひっくり返り、コートにたたきつけられるように落ちた。セリーナは声を上げて笑いだし、アレックスは様子を確かめるために落下地点まで歩いて行った。ドローンはコートの上に横たわり、そばにはプロペラの破片数個が散らばっていた。

ドローン図4

テニスのプロは5回から7回程度トライすればドローンに命中できるだろうと私は予想していたが、彼女は3回めでやってのけた。

ドローン図5

機械に過ぎないとはいえ、地面にドローンが横たわっているのを見るのは、妙に哀れな感じがする。

破片が回収されたあとも、「ドローンを傷つけて、ほんとに気の毒に思ったわ」と、セレーナは言った。「かわいそうなおちびさん」

私は、「テニスボールをドローンにぶつけるのは、いけないことなんだろうか?」と思わずにおれなかった。

そこで、専門家に聞いてみることにした私は、MITメディアラボのロボット倫理学者、ケイト・ダーリン博士に連絡し、ドローンに面白半分にテニスボールをぶつけるのはいけないことかどうか尋ねた。

彼女はこう言った。「ドローンは気にしないでしょうが、ほかの人は気にするかもしれませんよ」。そして彼女は、ロボットが感情を持っていないことは明らかだが、人間には感情があると指摘した。「私たちはロボットを、まるで生きているかのように扱いがちです。機械にすぎないとわかっているのに。ですから、ロボットのデザインがますます人間そっくりになってくると、ロボットに暴力的なことをするのをためらうようになるかもしれません。人々はそれを不快に感じるようになるでしょう」

その説明は理に適っていたが、その一方で、人間はロボットの侵入や監視などに自分たちがさらされる危険性を放置していていいのだろうか?
「あなたがロボットを罰そうとするなら、それは見当違いです」と博士は言った。

博士の言うことには一理ある。私たちが懸念すべきは、ロボットではなく、ロボットをコントロールしている人々だ。

ドローンを下ろしたければ、たぶん、別の標的を狙うべきだろう。

ドローン図6


Excerpted from How To: Absurd Scientific Advice for Common Real-World Problems by Randall Munroe. Copyright Ⓒ 2019 by Randall Munroe.
(本抜粋は実際の刊本とは細部の異なることがあります)

ドローンに立ち向かううえでテニスプレーヤーが有効であることが、じつに贅沢な方法で確かめられたようです。あっぱれ。
これまでのランドール・マンロー特集(第1回第2回第3回)、および文庫化されたばかりのマンローの主著『ホワット・イフ?』(吉田三知世訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の抜粋ミニ連載(第1回第2回第3回)もあわせてごらんください。


ハウ・トゥー――バカバカしくて役に立たない暮らしの科学』(ランドール・マンロー、吉田三知世訳、46判並製、本体予価1600円)は、2020年1月23日、早川書房より発売予定です。

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