ウェイプスウィード_帯

人類と藻類のファーストコンタクト。『ウェイプスウィード』瀬尾つかさインタビュー

●瀬尾つかさ(せお・つかさ)
2005年、『琥珀の心臓』にて第17回ファンタジア長編小説大賞審査委員賞を受賞し、同作でデビュー。宇宙テーマSFから学園アクション、ファンタジーまで、幅広い作風とテーマで活躍し、人気を博する。著書に『約束の方舟』『クジラのソラ』『白夢(スノーミスト)』『円環のパラダイム』『くいなパスファインダー』『スカイ・ワールド』ほか多数。


『ウェイプスウィード ヨルの惑星』瀬尾つかさ
ハヤカワ文庫JA/イラスト:植田亮

時は25世紀。海面上昇により地表の大半を水に覆われた地球では、ミドリムシの変異体であるエルグレナが人類に代わって生態環境を支配していた。
その地球の調査に宇宙コロニーからやってきた研究者ケンガセンは、島嶼部で暮らす巫女の少女ヨルと出逢う。2人は知性を持つとされる、エルグレナと菌類が融合した巨大な白い花・ウェイプスウィードの調査に乗り出すが……
技巧派エンタメ作家がヒトと地球の未来を綴る海洋SF。

■地球を舞台に閉鎖環境ものを

――本作は二〇一一年の『約束の方舟(上・下)』以来、七年ぶりとなる瀬尾さんのハヤカワ文庫JAへの登場作となります。ご執筆の経緯を教えてください。

瀬尾 「ウェイプスウィード」は、最初は短篇として書かれました。『約束の方舟』刊行の翌年、〈SFマガジン〉二〇一二年二月号の日本作家特集用に依頼されて執筆したものです。いくつか違ったアイデアを出したもののなかでこれが採用され、実際にはちょっと長くなったので二月号/三月号に分割して掲載されました。その後、没になった長篇企画などもあったあと「このお話の続篇を書いてみましょうか」ということになり、いまに至ります。

――本作も『約束の方舟』同様に「共生」が大きなテーマですが、多世代恒星間航宙船が舞台だった前作とは異なり、物語のほとんどは二十五世紀の、海面上昇で陸地の多くが失われた地球で繰り広げられます。海洋SFというテーマを選ばれたのはなぜでしょう?

瀬尾 閉鎖系における生命のありかたの変化そのものに興味があります。『ウェイプスウィード』の舞台である人類の大半が太陽系コロニーに去ったあとの地球も、閉鎖系に近い環境として設定しました。大陸自体が縮小していて、人類の生存圏がかなり狭まっている。二十五世紀という時代設定は現代からちょっと近すぎるかなと思ったんですけど、あまり遠いと文明そのものを失伝してしまうこともありうると思って、ぎりぎり今の文明の一部が残っていそうな四百年後に設定しました。
 海洋SFというテーマについてはあまり意識していなくて、どちらかというとまだあまり開拓されていない分野で好きなことを書こうとした結果です。当時すでに上田早夕里さんの『華竜の宮(上・下)』という巨大な海洋SFがありましたが、他には未来の地球の自然を扱った国内作品は少なかった。

■藻類とのファースト・コンタクト

――未来のコロニー圏ではクローン技術や人体改造などが一般化していて、電脳体という身体をもたない人工生命も出てきます。設定だけだとサイバーパンクにもなりそうですが、話の大部分がそういった技術の持ち込みに対して環境保護団体から圧力がかかっている地球ということで、それらはあまり話の前面に出てこない……という捻り方も面白かったです。

瀬尾 もともと短篇だったので、テーマを絞るように意図した部分もあります。閉鎖環境ものであり、ファースト・コンタクトものだということが伝わるように、サイバーパンクは政治的な理由で地球に持ち込めないという設定を作りました。二話と三話ではそのあたりも少し掘り下げましたね。

――本作のファースト・コンタクトは、人類がミドリムシの変異体であるエルグレナの知性と向き合う形で描かれます。このアイデアはどこから来たのでしょうか。

瀬尾 二〇一二年の時点でユーグレナの研究開発は現実でもニュースになっていて、石垣島の商店街に「ユーグレナモール」という名前がつけられたりしていました。そこからとったのですが、六年経ってもいまだに健康食品として人気があって、ネタが古びなかったのは良かったです。
――同じテーマでお好きな作品や、参考にされたものがあれば教えてください。

瀬尾 当時読んでいたパオロ・バチガルピの『ねじまき少女』はいろいろ参考になりました。あとは自然探索もののノンフィクション番組がもともと好きで、放送大学の『ミャンマー・インレー湖周辺の水環境』という講義で見た水上家屋で暮らす民族は第二話「沼樹海のウィー・グー・マー・」の描写に生かされています。他にも『ダーウィンが来た!』とか『クレイジージャーニー』とか、ビジュアル的な元ネタはそのあたりですね。水辺中心にしたのは、陸地はもう書きつくされていた気がしたので。

――ちなみに、地球に実在するスポットで行ってみたい場所はありますか?
 行ってみたいところはいっぱいありますが、出不精なので滅多に旅行もしないのです。もっぱら映像番組やグーグルさんのお世話になっています。ここ最近行ったのは石垣島と、沼津の水族館くらいですね。

■キャラクターと人類について

――木星圏出身の三十代の研究者崩れケンガセンと、地球の巫女の少女ヨルの、互いを補い合いつつもどこかぎこちない主人公コンビが魅力的です。ふたりの年齢や設定は最初から決まっていたのでしょうか。

瀬尾 当時の担当氏からの「人気の出そうなキャラクターにしてください」という身も蓋もない要望で設定しました……ケンガセンの研究者生活の苦労は、知り合いの話を聞いていると未来でもこんな余裕のない感じなんだろうなと。年齢設定は想定する読者になんとなく合わせています。ヨルの巫女設定は、信仰のつよい現地住民ということをわかりやすくしたかったので象徴的な言葉として「巫女」を遣いました。

――技術の進歩によって様々に形を変えた「人類」が登場する本作ですが、瀬尾さんにとって理想的な人間の在り方というのはどんなものなのでしょう? 

瀬尾 電脳体《ボーカルドール》になりたいです(本音)。それはそれとして、理想的な人間というのはひとつじゃなくて、様々なかたちのものが並列に存在し共存しているのが本当は望ましい……んでしょうねえ。現実をみるとそれがどれほど難しいかわかるんですが。

――ちなみに、今後SFで書いてみたいと思う題材はありますか。

瀬尾 『円環のパラダイム』(一迅社文庫)でもやったようなネタを発展させて、分断された世界での冒険物語を書いてみたいです。《ゲイトウェイ》のようなシステムのSFということです。それと、ハヤカワ文庫以外からも秋くらいには何かの新作を発表できると思います。

――ありがとうございました。最後に読者の皆さんに向けて、本作についてのメッセージをお願いいたします。

瀬尾 読んでいてビジュアルが最後に残るような、絵として楽しめるSFを意識して書きました。ぜひ読んでみてください。

(二〇一八年六月十二日/於・早川書房)

★第1話「ウェイプスウィード」試し読みを以下で公開中です。
その1 25世紀、人類のものではなくなった地球で

その2 木星圏生まれの研究者と地球の巫女
その3 知性を持つ巨大な白い花
その4 命が生まれて消える場所
その5 『ばあちゃん』の真実
その6 海の底で孤独に生き続けるもの
その7 人類の研究者



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