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ビル・ゲイツがエンジニアの発想をとことん突き詰め考案した解決策! 長谷川眞理子氏が読む『地球の未来のため僕が決断したこと』

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マイクロソフト社を創業した技術者で、世界的な経営者、慈善家として知られるビル・ゲイツによる20年ぶりの著書『地球の未来のため僕が決断したこと――気候大災害は防げる』。ウクライナ戦争をきっかけにエネルギー問題への関心が高まる今、持続可能な世界の具体的道筋を示した本書が、改めて注目を集めています。
そんな本書に対し「そんなことできっこないでしょうと、うだうだ言っている人たちにこそ読んで欲しい」と賛辞を贈るのは、総合研究大学院大学学長で、人類学や生態学の視点から気候変動問題に深い関心を寄せて来られた長谷川眞理子氏。気候変動、温暖化をめぐる世界の最新動向とあわせ、本書の読みどころを解説いただきます。

ビル・ゲイツの決心/長谷川眞理子氏による書評

若いころに友人とともにマイクロソフト社を設立し、情報関係テクノロジーで億万長者になったビル・ゲイツ。つねに世界長者番付のトップ5以内に居続けている大金持ちだ。そのビル・ゲイツが、地球の未来のために何を決断したというのか? 答えは、気候温暖化を防ぎ、現在の文明を真に持続可能な文明に転換するためには、何をしなければならないかを考え、その方策を立てて実行しようということである。

唐突にそんなことを、と思う向きもあるかもしれないが、彼の思考の経路を理解するには、まずは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の活動を知るべきである。これは、今や世界最大規模の慈善団体だ。この財団は、億万長者ビル・ゲイツが夫人ととともに2000年に設立し、世界の貧困を改善すること、人類全体の健康を促進すること、アメリカでの中等・高等教育の機会を広げること、の3つの目標のもとにさまざまな事業を行ってきた。

これらの活動を精力的に行う中で、ビル・ゲイツは、気候変動問題に出合った。最初はそれほど大変なことだとは思っておらず、それよりも、眼前にある貧困や健康の問題を解決することが先だと信じてきた。

しかし彼は、多くの人々から話を聞くにつれ、気候変動、温暖化の問題の深刻さを次第に理解し、これこそが人類全体の命運を左右する大問題だと気付いたのであった。それで、「地球の未来のため僕は決断した」。2050年までに世界全体での温暖化ガスの排出をゼロにしなければならない。これは必須の目標だ。では、毎年どれほどの温暖化ガスが排出されているのか? 520億トンである。それを2050年までにゼロにする。

そんなことはできないでしょ、と悲観的な反応をするのはたやすい。しかし、本当にそうしなければ人類の今後の存続が危ういというなら、是が非でもそれを達成しなければならない。だとすれば、何をしなければならないか? そこで、エンジニア、ビル・ゲイツは真骨頂を発揮し、問題を分析して解決策を考案するのである。

日本では、どうもそのあたりの認識が薄いように私は思う。私もいろいろな人たちとこの問題について話をしたが、政界、経済界、生態学以外の学界の大物たちは、概して、温暖化問題をここまで深刻には考えていないように見える。今ですら、温暖化と気候変動自体が本当にそうなのかどうか、疑っている人たちも多い。ましてや、真剣に何を実行しようかと決意を表明する人たちは非常に少ない。中には、ビル・ゲイツがまたもや自分自身の儲けを増やすためにたくらんだことなのでしょう、と言う人もいた。

しかし、温暖化と気候変動の危機は本物であり、早急に何かをしなければ、人類の存続が怪しくなるほどの問題なのだ。少なくとも私はそう思うし、生態学関係の学者たちはみなそう思っている。

2021年10月31日から11月13日にかけて、第26回気候変動枠組条約締約国会議(通称COP26)が、英国のグラスゴーで開かれた。そもそもCOPとは、1992年に国連で採択され、1994 年に発効した国連気候変動枠組条約に基づいて、世界各国が気候変動を抑えるためにどんな目標をたて、何をしたらよいのかを議論して決める会議である。

1997年に京都で開催されたのはCOP3であった。そのときに採択されたのが有名な京都議定書である。そこでは、2020年までの温室効果ガスの排出制限に関する取り決めがなされた。そして、2020年以降についての取り決めを行ったのが、2015年にパリで行われたCOP21である。そこで採択されたパリ協定も有名だ。

そして2021年のCOP26 である。地球の大気における二酸化炭素の濃度が、産業革命以後どんどん増えているのは事実だ。それはそうなのだが、そのことが人類の持続可能性にどれほどの影響を与えるものなのかについては、問題が非常に複雑であるがために、議論百出で意見の一致が難しかった。

しかし、とうとう、2021年のCOP26では、2050年までに二酸化炭素の排出をゼロにしなければならない、という結論に至ったのだ。2030年までに部分的に削減していくというオプションもあるにはあるのだが、大きな結論は、2050年までにゼロ・エミッションを達成することである。

ビル・ゲイツは、これが本当に重要なことなのだと確信した。それ以後の彼の反応は、さすがに数々のイノベーションを起こしてきたエンジニアだと思わせる。毎年520億トン。ではそれはどこから出てくるのか? 電気を使うことによる排出が全体の26%。セメントや鋼鉄などのものを作る過程で生じるのが29%。作物を育てたり家畜を養ったりする過程で生じるのが22%。ものの輸送で生じるのが16%。エアコンなど、暖める、冷やすで生じるのが7%だ。このそれぞれの分野において、排出をゼロにするには何をしなければならないか? 今できることは何で、今はできないことは何か? 今はできないことのうち、早急にイノベーションで解決せねばならないのは何か? そのための技術開発はどこに目を向けるべきか? 本書は、その分析のもとに、早急にやらねばならないことを提案している。

今現在、世界は毎年520億トンもの二酸化炭素を排出している。そして、発展途上国はみな、今よりもよい暮らしを望んで発展しつつある。ということは、このままでは、二酸化炭素などの排出はもっと増えるし、環境破壊ももっと進むしかない。「このままでは」というのが鍵だ。「このまま」をやめよう。このままの状態を変えればよいし、変えなくてはならない。

そのために、エンジニアの発想をとことんまで突き詰め、現在ある技術を駆使しての解決と、これから知恵を絞って解決できるかもしれないことの分析を提言するのが本書である。人類の知恵を集めればそれは可能だし、可能にしなければならない。人類の問題解決能力への信頼は大変なポジティブ思考だし、絶対にやるぞという決意は、小気味よいほどにさわやかだ。そんなことできっこないでしょうと、うだうだ言っている人たちにこそ本書を読んで欲しい。

確固たるばら色の信頼は絶対必要だと思うのだが、私としては、もう一つ考えて欲しいこともある。それは、よい暮らしを求める欲望、というものに対する省察である。ビル・ゲイツはプライベイト・ジェットを持っていて、それで移動している。その燃料は、環境負荷のないものに変えたと本書で述べているが、そもそも、プライベイト・ジェットを持ちたいという欲望に関しては、彼は何も述べていない。億万長者なのだから、どんな欲望でもかなえていいのだろうか?

心地よい暮らしを求めるのは、確かにすべての人々の権利である。しかし、野放図な欲望の実現が、私たちの権利なのだろうか? 本書に満ちているオプティミズムに賛同しながらも、私はそこに疑問を持たざるを得ないのである。

と思っていたところが、ロシアによるウクライナ侵攻である。環境問題は全世界が一丸となって取り組まねばならないので、世界が割れて戦争しているような状況では、つねに先送りされる。また、民主的な政府でないと、環境負荷を真剣に論じないし、正直なデータを公表することもない。それを考えると、今回の戦争で地球環境問題の解決は、数歩後退するに違いないと憂慮する。一刻も早く戦争が終わり、世界がまた一つに団結できることを願うばかりである。

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