用心棒

デイヴィッド・ゴードンの出版されなかった小説とは? 最新作『用心棒』刊行記念インタビュー

用心棒
デイヴィッド・ゴードン/青木千鶴訳
ハヤカワ・ミステリから好評発売中!

――最後の著作雪山の白い虎(2014、早川書房)を発表してから4年が経ちました。その間はどのような活動を?

もう4年も経ったなんて(笑)。最初の2年は『用心棒』とは別の長篇を書いてたんだ。けど、出版には至らずで。アメリカの出版社にとってはあまりに性的、あるいはユニークすぎたのかもしれない。コメディタッチに始まって、犯罪小説になって、諜報小説になって、最後はSFになるって話だったから。『浮世の七つの季節』ってタイトルだったんだけど。

――その後、心機一転、『用心棒』に取り掛かった?

いや、少し時間がかかったかな。『浮世の七つの季節』が出版社に売れなかったから、学校で教えたり、記事を書いたりしてしばらくは忙しくしてたんだ。新作のアイデアはすでにあったけど、前の作品に全力を注いだあまり、新しい本に取り組む気にはなかなかなれなくて。

――『用心棒』を書き始めたのはいつごろでしょう?

去年の冬休みだね。自宅のアパートで過ごしていて、特にやることもなかったときだった。突然エネルギーが満ちたみたいになって最初の20ページを1日で書き上げたんだ。その後は取り憑かれたようになって、第一稿を2週間で完成させた。こんなに早く書けたことはこれまでなかったね。幸運にも今回は出版社もすぐに見つかって。

――おめでとうございます。

しかも、うれしかったのは、ミステリ界では伝説的な存在のオットー・ペンズラーが編集してくれたんだ。ロス・マクドナルド、エルモア・レナード、パトリシア・ハイスミスを担当した編集者だよ!

――『用心棒』は、文学とパルプ小説をミックスさせたようなゴードンさんのこれまでスタイルとは一線を画す作品ですね。今回、純粋な犯罪小説を書いてみようと思ったのはなぜ?

僕にとってスタイルはストーリーから導き出されるものなんだ。二流小説家の主人公は文学コンプレックスのあるパルプ作家であり、「ハードボイルド探偵」の形式から生まれた登場人物だったから、一人称になるのはほとんど必然だった。彼には内省的に創作や本について語ってもらう必要があった。


一方で『用心棒』は展開の早い、サプライズやどんでん返しでいっぱいのケイパー(強盗)ものにしたかった。だから、これまでみたいな一人称の語りはあり得なかった。一人称小説でサプライズをやるのは難しいんだ。語り手は秘密を持ちづらいからね。そして視点をどんどん動かしながら物語を転がしていったから、登場人物が内省的になる時間なんてなかったよね。

――実際、主人公の用心棒ジョー・ブロディーの内面はあまり描かれないですね。

 ジョーはミステリアスな存在だからね。彼の内面へのアクセスは極めて限られてる。そういう意味では、文体についても同様だった。ある種の詩のように、圧縮されつつもダイレクトな文体を目指した。文学の系譜で言えばまずはヘミングウェイであり、あとはダシール・ハメットのスタイルかな。いずれにせよ、『用心棒』の物語を動かしていったのは、プロットであり、会話であり、アクションであって、内面や情景の描写ではないんだ。

――アメリカでの書評は、カール・ハイアセンやドナルド・E・ウェストレイクの言及がありましたね。

ウェストレイクがリチャード・スターク名義で書いた〈悪党パーカー〉シリーズがこの本のお手本なんだ。ウェイストレイクはケイパー小説の達人だからね。僕の狙いは悪党パーカーのような説得力ある主人公を創造して、ウェストレイクのようなエキサイティングなプロットを構築することだった。成功したかどうかは自分でも分からないな。一流のケイパー小説には繊細なメカニズムと言うか、「マジックタッチ」が必要だからね。

――他の作家の影響はありますか?

エルモア・レナードの影響は大きかったね。会話や登場人物、皮肉っぽいユーモアなんかは特に。もうひとりはチェスター・ハイムズかな。彼のヴォイスと彼が作り出したニューヨークのハーレムのリアルな描写が大好きなんだ。『用心棒』の主人公のジョーが住んでいるニューヨークはあんな風に描きたかった。つまり本や映画のニューヨークよりもっとリアルな僕の故郷のニューヨークであり、同時に神話的で、代替現実みたいな僕の夢の中のニューヨークをね。

――日本の読者は黒澤明の用心棒の影響を考えずにはいられません。特にジョーのキャラクターは三船敏郎を思わせます。

それについては素晴らしい偶然の一致としかいいようがないね。僕は黒澤の大ファンで、三船も大好きで、『用心棒』は特に好きな映画なんだ。DVDで繰り返し見てるくらいにね。ただ、英語ではこの映画は『ボディガード(The Bodyguard)』ってタイトルなんだ(編集部注:本の原題はThe Bouncer)。日本語だと同じタイトルになるなんて考えもしなかったよ。

――我々の先走りでしょうか(笑)。

ただ、この本を人に紹介するときにはサムライ映画みたいな小説って言ってるんだ。最初はどんな人間だかわからない浪人が出てくるタイプの、って。ジョーがどんな人物で何が望みかは本全体を読まないと分からない。そういう意味では、ジョーは三船に似てるって言えなくもない。三船ならジョーを完璧に演じたと思うよ! だからまったくの的外れとも言えないんじゃないかな。

――よかったです。今後の予定は?

いまは『用心棒』の続篇に取り組んでるところです。あとは『浮世の7つの季節』もオーディオブック・オリジナルで出ることになったんだ! こちらも紙の本で出せるといいんだけどね!

(了)

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