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宇宙災害クラスの新星爆誕。草野原々イントロダクション

SF作家・草野原々の単著デビュー作『最後にして最初のアイドル』。作品も著者自身もあまりにも個性的すぎるその概要を、各作紹介とデビュー時の著者インタビューによってご紹介します。

草野原々『最後にして最初のアイドル』

1月24日(水)発売/本体780円+税/ハヤカワ文庫JA
カバーイラスト:TNSK
カバーデザイン:伸童舎

SFコンテスト史上初の特別賞&「神狩り」以来42年ぶりにデビュー作で星雲賞を受賞し、SF史に伝説を刻んだ実存主義的ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSFの表題作をはじめ、ガチャが得意なフレンズたちが宇宙創世の真理へ驀進する「エヴォリューションがーるず」、異能の声優たちが銀河を大暴れする書き下ろし声優スペースオペラ「暗黒声優」の3篇を収録する、驚天動地の草野原々1st作品集!

★収録作&著者紹介

「最後にして最初のアイドル」

時はアイドル戦国時代。生後6か月でアイドルオタクになった古月みかは、高校のアイドル部で出会った新園眞織とともに宇宙一のアイドルになることを目指す。しかし非情な現実が彼女の望みを打ち砕くのだった。それから数年後、謎の巨大太陽フレアが発生。地球人類は滅亡の危機に陥る。地獄のような世界をサヴァイヴする彼女たちが目にした、〈アイドル〉の最終局面とは? 著者自らが「実存主義的ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSF」と名付ける、最終選考会に嵐を巻き起こしたSFコンテスト史上最大の問題作。

『エヴォリューションがーるず』

新社会人・笹島洋子の精神は緩やかに死につつあった。大流行中のソーシャルゲーム「エヴォリューションがーるず」がその原因だ。アニメから入って何気ない気持ちで始めた「エヴォがる」への課金は、坂から転がり落ちるような勢いでその額を増していく。時間と貯金を削られていくなか、廃人と化してしまった洋子はついにその命を散らすことになる。しかし、それは新たな生の始まりであった――他者を捕食して〈ポイント〉を貯め、〈ガチャ〉を回すことで〈がーるず〉としての進化を遂げていく世界で、アメーバに転生してしまった洋子の、愛とソシャゲと宇宙創生をめぐる大冒険が幕を開ける! 驚天動地のワイドスクリーン・バロック。

『暗黒声優』

宇宙がエーテルに満たされて、地球が虹色に輝く時代――エーテルから無限のエネルギーを取り出すことができる遺伝子を見出された声優たちは、『大声優時代』と呼ばれる宇宙進出の栄華ののち、独立戦争とその敗北を経て、現在は『声優監視委員会』によってプライベートを徹底管理される日々を強いられていた。そんな絶望的な状況を変えるべく、〈最強の声優〉となることを目指す声優カラテの使い手・四方蔵アカネは、後輩の天宮サチーとともに熱川バナナワニ園で『暗黒声優』と名乗る人物に襲われたことで、大宇宙をまたにかけた絢爛たる復讐行へ乗り出すことになる――伝説級の銀河声優スペースオペラ!

草野原々(くさの・げんげん)

1990年生まれ。広島県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒、北海道大学大学院理学院在学中。2016年、「最後にして最初のアイドル」が第4回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞し、電子書籍オリジナル版として刊行されて作家デビュー。同作は2017年に第48回星雲賞(日本短編部門)センス・オブ・ジェンダー賞(未来にはばたけアイドル賞)を受賞し、著者本人も第27回暗黒星雲賞(ゲスト部門)を受賞した。(Twitter: @The_Gen_Gen

★草野原々インタビュー(SFM2016年10月号より)

──まずは自己紹介をお願いします。

草野 自己とは何か。社会生活を営むにあたって、自己紹介機能=自己製作機能が生まれた。文字から、図から、素早く切り替わるイラストからキャラクターが生まれるように、世界にあふれ、四六時中聞こえる〈心の声〉と場所を選ばず現れる映像から自己が生まれる。材料は有り余っている。大変なのはどこをどう繋げればよいかだ。適切な対象が作れないと大変だ。アニメを見てもセル画の連続しか見えないように、どれだけ口うるさい〈心の声〉を聞いても自己に行き着かない。重要なのは正確さではなくどれだけ素早く作れるかである。わたしも自己製作能力を持っている。さあ、自己を作るぞ!

 自己に必要なのは、まず存在だ! わたしの基盤となる存在は、一九九〇年、四月十六日、広島県東広島市で生まれたはずだ。データが正しいならばな。それから中学校になり、横浜市へと転居したが、まだわたしは発生していない。記憶はあるが、それが自己であるという感覚のタグ付けができていない。夢の記憶はあるが、わたしは夢の中の人物ではないのと同じようなことだ。わたしが生まれるのは、大学に入ってからの人生で最良の二つの選択を行ってからだ。人生のベスト2の選択。それは慶応SF研究会に入ったことだ。そこで、ようやくわたしは安定的な自己紹介=自己製作を繰り返すことになった。ベスト1の選択、それは『行動履歴』の製作だ。行動履歴とは、思考に浮かんだことを書き記すノートだ。このノートは一種の外部脳のはたらきをした。思考を相互に整理して、ひとつの体系を作ることができた。ようやく、「わたし」を固定できたのだ。

──応募の経緯を教えてください。

草野 皆さんご存知かもしれないが、拙作の原案はアニメ『ラブライブ!』の二次創作小説であった。ラブライブ!のSF小説作品を集めた『School Idol Fictionally』という合同誌に参加させてもらったものだ。もともとの題名は「最後にして最初の矢澤」という。当時、精神状態が非常に悪かったため、小説を書こうと思った。小説を書くモチベーションの維持にツイッターでSFの合同誌の企画などないか探してみたら見つけたので渡りに船で参加した。完成してみると非常に良い小説になったので、オリジナルに改稿して賞に投稿しようと決意した。基本的なストーリーの枠組みは変わっていないが、すでにキャラクターが確立している原案に対して、オリジナルにするためにはキャラクターを作らなければいけないため、主人公の半生を書き足した。また、作中でキーポイントとなる地球規模の大災害は、原案では温暖化防止の地球工学の破綻をきっかけにしたものであったが、太陽のスーパーフレアの暴走に変更した。

──SF小説はこれまでどんなものを読んできましたか?

草野 SF小説と聞くと、まっさきに連想するのがフィリップ・K・ディックである。彼の作品はわたしの血と肉である。特に意味不明となる後期の作品が好きだ。最も溺愛する作品は『ライズ民間警察機構』。LSDダーツを撃たれて世界が崩壊していく描写は他の小説と比べ物にならない。オーディオブックを買って英語で何度もそのシーンを聴いているくらいだ。好きなSFはとにかく壮大なものや意味がよく分からないもの、哲学的な要素があるもの、ヘンなものである。「大きなことは良いことだ」とばかりに銀河規模、宇宙規模、全時空規模のアイディアを繰り出すスティーヴン・バクスター。SF界では珍しいほどの徹底した悲観主義とスラップスティックを併せ持つスタニスワフ・レム。深遠な哲学的っぽい設定を用いているのに、基本はあくまでスペースオペラなバリントン・J・ベイリー。一発屋で終わったがとてつもなくヘンなSF『キャッチワールド』をこの世に残したクリス・ボイス。数学的知識をフルに活用して合理性と神秘性で殴りかかるルーディ・ラッカー。最近ではピーター・ワッツの『ブラインドサイト』が素晴らしかった。SFに求めるものは人間の頭をおかしくさせることだ。

──小説の書き手として意識されている方はいらっしゃいますか?

草野 フィリップ・K・ディックの初期作品は読者を退屈させないために、場面が停滞するとすぐに予想外のことが起きる。わたしも自分で書いていて退屈してきたらなんらかのアクションか、その場で考えたアイディアをぶち込む。わたしの書き方は基本的には足し算だ。大まかなストーリーラインに持っているアイディアをすべて投入する。これはワイドスクリーン・バロックというジャンルの手法である。スタニスワフ・レムは『ソラリス』を書くときはじめに自分でも答えを知らない謎を提示して、後半でその答えを考えるという手法をとっていたそうだが、物語が思いつかないときの方法として参考になる。描写の面では、ラヴクラフトのひたすら繰り返されるメタファーやマルセル・プルーストの延々と続くディテールに影響を受けた。

──「最後にして最初のアイドル」の特別賞受賞は、ネット上でも大きな話題となりました。ご感想はいかがでしょう。

草野 すばらしいの一言だ。作家のスタートダッシュとしてこれ以上ない後押しである。みんな! 話題にしてくれて本当にありがとう!! もっともっと口コミを広げてくれ! みんなの応援があれば、ゆくゆくはコミカライズ、ドラマCD、そしてアニメ化も夢ではない!!!!!!!!!

──アイドルというテーマを扱った理由を教えてください。

草野 直接的な理由としては原案が『ラブライブ!』の二次創作であったからだ。原題の「矢澤」に代わるタームとしては「アイドル」以外にはないと直感した。

──ちなみに草野さんご自身が最近注目されているアイドルはいますか?

草野 静岡県で活動しているAqoursというアイドルグループに注目している。理由は彼女たちを見ているとわたしがキラキラしてくることだ。

 実在という性質を欠いたアイドルでいま注目しているのは、一月からスタートするアニメ『BanG Dream!』で活動するPoppin' Partyである。キャラクターを演じる声優が楽器も演奏するというシステムであり、よりいっそうのリアル/フィクション間の破壊に期待できる。

──そのほか、今作の参考にしたものが何かあればお願いします。

草野 『ラブライブ!』はもちろんだが、他に大きな影響を受けたアイドルアニメとして『アイカツ!』がある。拙作の大きなテーマとして「アイドル活動」というものがあるが、『アイカツ!』にも奇想天外なアイドル活動が大量に出てくる。題名を見てすぐに分かった人がいるかもしれないが、オラフ・ステープルドンの『最後にして最初の人類』とその姉妹作『スターメイカー』をモチーフにしている。クリーチャー造形では、『キャッチワールド』『地球の長い午後』『フューチャー・イズ・ワイルド』『マン・アフター・マン』『皆勤の徒』などを参考にしている。もしも拙作がコミカライズされたり、アニメ化することがあったとすれば酉島伝法さんにクリーチャー原案を頼みたい。哲学分野においては、デイヴィッド・チャーマーズの『意識する心』をヒントにしている。彼は『哲学的ゾンビ』という用語の考案者で有名であるが、心の哲学において支配的な唯物論に対して性質二元論という学説をもって立ち向かっている。彼によると存在には物的性質と心的性質という二つの面があるらしい。いずれは性質二元論をテーマにしたハードSFを書きたい。意識は生物学的に生まれたのではなくて文化的に生まれたとするジュリアン・ジェイムズの『神々の沈黙』にも影響を受けている。作中ではアイドルが様々な姿に変身するが、『サイボーグ・フェミニズム』や『生まれながらのサイボーグ』などの思想を基盤に置いた。言語の使用を皮切りに人間はサイボーグとなったのだ。科学分野では宇宙そのものがブラックホールの生成により進化しているとする『宇宙は自ら進化した』や科学番組の『コズミックフロント』などを参照した。

──今後書いていきたいSFのジャンルは何がありますか?

草野 ワイドスクリーン・バロック(すごい規模が大きくてヘンなアイディアがたくさんあるSFのこと)だ! 代表的作者としてはバリントン・J・ベイリーやアルフレッド・ベスターがいるが日本SFでこの人とまっさきに連想する作家はいない。わたしがその位置を占めたい。ひとまず、SFマガジンでワイドスクリーン・バロック特集が組まれるようになるのが目標だ。現在の海外SF界ではこの言葉は使われなくなっているようだが、逆輸入させたい。

 百合(女性同士の関係性を描いたフィクション)SFも普及させたい。『ハーモニー』以降、狭義のSFにおいては目立った百合作品は少ない。しかし、百合を求めるSFファンは数多くいる。需要に対して供給が不足している。そこにわたしの作品が投下される。ワイドスクリーン・バロックと百合は非常に親和性がある。そこでわたしは『ワイドスクリーン・百合・バロック(Wide-screen Yuri Baroque)』という造語を考案した。百合が中心的要素のワイドスクリーン・バロックのことである。ワイドスクリーン・百合・バロックに最も接近した作品として『魔法少女まどかマギカ』が挙げられる。まどマギはものすごく売れたのでワイドスクリーン・百合・バロックはものすごい売れることが証明されている。これからは、百合といえばワイドスクリーン・バロック、ワイドスクリーン・バロックといえば百合という時代になっていくだろう。

 プロレタリアートSFも書いていきたい。SFはテクノクラートを正当化するという危険性のある文学ジャンルだ。わたしはその対抗軸となるだろう。

 最近、『放浪息子』を読んで感動したのでジェンダーSFにも挑戦してみたい。VR/ARはジェンダーという枠組みを大きく変える技術となるだろう。

 SFは合理性と神秘性という二つの要素を兼ね備えることが出来る文学形式だ。この二つの要素は水と油のように言われているが、実はそれほど反発しあうものではない。わたしの作品は合理性と神秘性がカクテルのように混ざり合い人間の頭を爆発させることになるだろう。

 SF作家には自然科学や工学の知識に優れている人は多いが、哲学・倫理学・社会学などの文系知識になると比較的少なくなる。両者を兼ね備えた人となるともっと少ない。わたしは自然科学と人文科学の要素を兼ね備えたSFを書くことになるだろう。伊藤計劃以降の作家によって、自然主義的哲学(科学の知識や方法論を哲学に持ち込もうとする一派)では先んじられているので、わたしは反自然主義的哲学をSFに持ち込むということをやりたい。おそらく、日本SFにおいては未開拓地であろう。自然科学の分野でSF界・エンタメ界・学術界を結ぶ作家はたくさんいるが、哲学の分野では稀だ。わたしはその位置を目指す。

 まとめると、とにかくメチャクチャで読む人の頭をおかしくして読後に踊りだしてしまうようなSFを書きたい。具体的な計画としては、現在、シンギュラリティとジャイナ教を組み合わせた長篇小説を書いている。また、知性を持つ巨大昆虫が存在する異世界を舞台に手話を第一言語とする魔術師が活躍するファンタジーや、アイドルと軍艦のカップルが魔法少女と戦うバトルものなどを考案中である。

──最後に読者へのメッセージをお願いします。

草野 お願いは二つだ!

①とにかくわたしの名前を覚えてくれ! 草野原々だ! くさのげんげん! さあ! 声に出して覚えよう! 原々! 原々! 原々! ツイッターアカウントは@The_Gen_Genだ! いますぐフォロー! 名前を覚えたら応援だ! 応援をするんだ! みんなの応援でわたしが元気になる!!

②買ってくれ! お願いだ! わたしの作品を買ってくれ! スマホを出して即購入だ! Kindleがなくともスマホがあればアプリで読めるぞ!!

 わたしは専業SF作家にならなければならない。他に道はない!! 親にそう言ったら、三十歳(二〇二〇年)までに年収百万円を達成できれば良いが、ダメであれば就職せよ! と指令が下った! 精神が非常に弱いわたしが就職すれば、精神状況が悪化してSFが書けなくなるだろう。SF界はこの悲劇に一丸となって立ち向かわねばならない!

 年収百万円を達成するために、わたしは来年の星雲賞を手に入れることを決意するのであった(編集者注:本当に受賞しました)。そして、この文章を読んだものは、「最後にして最初のアイドル」に投票することになるのだった。星雲賞受賞に押されて、コミカライズとドラマCD化、そしてアニメ化が決定することになるのである。

──ありがとうございました。

(2016年11月/メール・インタビュウ)

文庫版「最後にして最初のアイドル」は、文庫袖からカバー裏までTNSK氏のイラストと、ショッキングピンクの背景がぶち抜く豪華仕様。SF史に伝説を刻んだ1冊、ぜひ物理書籍でもお楽しみください。紙版・電子版のどちらにも、前島賢氏による名解説「げんげん♥SF道」が収録されています。

追記:英訳版の配信も開始しました。

Last and First Idol (English Edition)


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