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新たなる竜戦記の開幕!『フォース・ウィング―第四騎竜団の戦姫―』評論家・堺三保氏 解説全文公開

『フォース・ウィング―第四騎竜団の戦姫―(上・下)』好評発売中! 書評サイトGoodreadsでは130万人が★5.0をつけたという、話題のロマンタジー(ロマンス×ファンタジー)です。そんな本書に、評論家・堺三保氏から「新たなる竜戦記の開幕」と題した解説をお寄せいただきました。今回はその全文を公開いたします。この解説を読んで、ぜひ本書『フォース・ウィング―第四騎竜団の戦姫―(上・下)』をお手に取りください! (本文を読み終えてから解説をお読みになるのももちろんOKです)

フォース・ウィング―第四騎竜団の戦姫―(上・下)』
レベッカ・ヤロス 著、原島文世 訳
装幀/名久井直子
早川書房
単行本四六判並製/電子書籍版
ISBN: 上 978-4152103499/下 978-4152103505
各2,090円(税込)2024年9月4日発売

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『フォース・ウィング―第四騎竜団の戦姫―』解説
  新たなる竜戦記の開幕

評論家 堺 三保 

 巨大な竜の背に乗って勇敢に戦う主人公の物語は、常にSFやファンタジーを愛する人々の心をつかんできた。先駆者であるジャック・ヴァンスの『竜を駆る種族』、最も有名なアン・マキャフリイの〈パーンの竜騎士〉シリーズ、近々のヒット作であるナオミ・ノヴィクの〈テメレア戦記〉等、様々な人気作品がこれまで発表されてきた。

 本作『フォース・ウィング―第四騎竜団の戦姫―』は、そんな竜騎手たちの物語に新たな息吹を吹き込んだ最新の話題作だ。その人気はすさまじく、2023年5月にアメリカで発売されるや、TikTokの読書コミュニティで評判となったのをきっかけに、またたくまに売れ始め、アマゾンランキングのトップに躍り出ると共に、ニューヨークタイムスのベストセラーリストの第1位に22週にわたって乗り続けるという爆発的な大ヒットを記録した。

 本作の舞台となるのは、隣国ポロミエル王国との戦いに明け暮れる王国ナヴァールにあるバスギアス軍事大学。主人公のヴァイオレットは、書記官科への入学を望んでいたが、ナヴァール軍の司令官でもある母によって、騎手科への入学を強いられる。竜に乗って戦う騎手は軍の華であるが、それと同時に常に死と隣り合わせの厳しい兵科でもあった。しかもその死の試練は、戦場に出る以前、いや入学時から続く苛酷なものだった。知力には秀でているものの、もともと小柄で身体も弱いヴァイオレットは、はたして生き延びることができるのか。そして、そんな彼女の前に現れた上級生ゼイデンとの激しい愛憎の行く末は……。

 というわけで、誤解をおそれずに例えるなら、本作の魅力は〈パーンの竜騎士〉のような竜騎手もの〈ハリー・ポッター〉のような学園もの〈ハンガー・ゲーム〉のようなサバイバルもの〈トワイライト・サーガ〉のような恋愛ものという、ファンタジーファン、特に女性や多感な年頃のファンが大好きな要素を詰め込めるだけ詰め込んでいるというところにあると言えるだろう。

 主人公であるヴァイオレットが、他の騎手たちと違い、体力的には劣るところをひたすら努力、知力、そして竜や他の人々とのつながりで挽回していくところも、体育会系よりも文化系が多いであろう読書家たちの好みに合っているだろうし、何よりもハンデのある主人公が強者たちに勝つという展開はアメリカ人が大好きなアンダードッグ(負け犬)ものの定番だ。

 そこに、ものすごくハンサムでツンデレな上級生との恋愛話が絡むのだが、これはもうアメリカのロマンス小説はもちろん、日本の少女マンガの十八番でもある。

 それらの要素を波瀾万丈の冒険と共に綴っているのだから、これはヒットしないわけがない(と言うのは、結果を知っているからこその後知恵ではあるが)。

 ちなみに、今やアメリカではこういう小説を、ロマンスとファンタジーをあわせて「ロマンタジー」と言うらしい。かつてロマンス小説界で呼ばれていた「パラノーマル・ロマンス」とも似た響きを持つが、あちらはあくまでも現代(もしくはその並行世界)を舞台にしているのに対して、ロマンタジーは異世界であるものが多い。

 この言葉が2023年以降、突然アメリカの出版界でトレンドとなったのは、レベッカ・ヤロスによる本作の爆発的なヒットによるものだ。

 そして、本作のヒットによるジャンルとしての認知度の高まりと相前後するように、新人作家たちによる新作も、それこそ雨後の竹の子の如く続々と出版されており、今やアメリカのファンタジーの新刊の多くはロマンタジー枠で占められていると言っても過言ではない。

 もともと恋愛要素は娯楽小説を構成する大きな要素であったし、前記の「パラノーマル・ロマンス」のようにロマンス小説のサブジャンルとしても成立していたのだが、今回のロマンタジーブームの特徴は、ファンタジーとしての骨太で壮大な設定やストーリーをきちんと練り上げているところ。ファンタジー要素もロマンス要素もしっかりと同列に扱っているところが人気の秘訣らしい。

 実のところ本作を最も大きく特徴づけているポイントは、ロマンタジーという用語から連想されるような甘いロマンスではなく、そのシビアな世界観にある。そこには、かつてのヤングアダルト向けファンタジー小説やロマンス小説とは一線を画する厳しさがあるのだ。

 たとえば、主人公たちが乗る竜たちの描写も、他の竜騎手ものとは全く違う。彼らのお眼鏡にかなわなければ、あっという間に殺されてしまうのだ。互いに相手の力量を認めた上でしか絆が成立しないのである。

 そして、その竜との絆構築も含め、一つ間違えば訓練中に簡単に死んでしまうという、まさに死と隣り合わせの学園生活。恐ろしいことに、そこではイジメまでも命に関わるものとなる。

 こうした尋常ではない学校運営の背景にあるのが、主人公たちの国家の硬直した戦時体制だ。隣国との長年の全面戦争によって、国の形が軍事専制国家として歪んでしまっているのだ。しかも、本作を最後まで読んでいただければわかるのだが、この戦争には、何か大きな陰謀が隠されているらしい。

 さらには、そうやって厳しい鍛錬を重ねた竜騎手たちでも苦戦を強いられる強力な敵兵力も、主人公たちの前に立ち塞がる。

 まさに内憂外患。平和な世界であれば青春を謳歌すべき年頃である主人公たちは、四面楚歌の厳しい世界で、ひたすら生き延びようともがいているのである。

 この張り詰めた緊張感こそ、本作を駆動し、読者を魅了して読み進めさせる最大の特徴なのだ。

 一方で、本作における主人公のロマンスは、非常に情熱的かつ直截的に描写される。そしてそこには大胆で直接的なセックス描写も含まれている。もしかすると、それを苦手に感じる読者もおられるかもしれない。

 だが、こうした描写は、死に囚われた厳しい世界に対する反抗としての、生を表す象徴だということもできる。つまり本作においては、生(エロス)と死(タナトス)がきわめてダイレクトな形で対比されているのだ。この、ダイナミックな生と死の扱いこそが、現代アメリカにおけるロマンタジー人気の本質だと言ってもいいのかもしれない。本作の主人公の持つ一途な激しさこそが、今のアメリカの読者たちに一時の逃避と、ささやかな夢と希望を与えているのだろう。

 実はこうした、死と生の極端な対置による作劇は、ステファニー・メイヤーの〈トワイライト〉シリーズやスーザン・コリンズの〈ハンガー・ゲーム〉シリーズといった、2000年代以降アメリカで大ヒットしたヤングアダルト小説と通底しているところがある。これらの作品が若い世代を中心に大きな人気を得たのは、21世紀以降の不安定で閉塞感に満ちた社会情勢に対する、人々(特に若い世代)の不満や怒りを解消する力がその極端な作劇にあったからであり、本作に代表される現代ロマンタジーもまた同様の文脈で広く受容され人気を得ていると言っても、過言ではないように思われる。

 日本においても本作が、この不透明で閉塞した現実を生きる人々の精神を一時でも解放してくれる娯楽となることを願ってやまない。

 なお、本作は出版から半年も経たない 2023年10月、アマゾンMGMスタジオがテレビドラマ化を進めていることが報道された。制作には人気俳優のマイケル・B・ジョーダンの会社、アウトリア・ソサエティが携わるということで、キャストやスタッフの人選など、今後の展開に注目が集まっている。

 本作の作者、レベッカ・ヤロスは、本人のウェブサイトによると、コロラド州で退役軍人の夫と6人の子供と共に暮らしている。小説を書き始めたのは 2010年代で、本作以外は全て現代もののロマンス小説だとのこと。

 さて、本作をお読みになれば判るとおり、物語はまだまだここからが佳境である。本作の続篇 Iron Flame(アイアン・フレーム)は 2023年11月にアメリカで出版され、ネット上での予約が最初の1日で史上最高の数に達したことが話題となった。また、第3作 Onyx Storm(オニクス・ストーム)の全米発売も 2025年1月になるとすでに予告されている。ヤロスによれば、本作から始まる連作(〈エンピリアン(天)〉シリーズと呼ばれている)は全5部作となるとのこと。まだまだお楽しみは始まったばかりのようだ。日本でもアメリカと同じ熱気に包まれることを期待したい。

  2024年7月

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『フォース・ウィング―第四騎竜団の戦姫―(上・下)』
Fourth Wing
レベッカ・ヤロス
原島文世 訳
装幀/名久井直子
早川書房
単行本四六判並製/電子書籍版
‎ ISBN: 上 978-4152103499/下 978-4152103505
各2,090円(税込)
2024年9月4日発売

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あらすじ

灼けつくような、恋と死を――
竜の騎手たちが魔法の力で国防を担う国ナヴァール。書記官を目指していた二十歳のヴァイオレットは、軍の司令官である母親の命令でバスギアス軍事大学に入学して騎手を目指すことに。だがそこは、入学者の大半が命を落とす死と隣り合わせの場所だった。
... 新入生の多くはライバルを減らして竜と契りを結ぶため、小柄なヴァイオレットを殺そうとする。また 彼女が所属する第四騎竜団(Fourth Wing)の冷酷な団長ゼイデンも総司令官への恨みから、娘である彼女の命を狙っていた。しかし有能で魅力的な彼にヴァイオレットは強く惹かれてゆき……。
彼女を待ち受ける極限状態での恋、友情、そして命懸けの戦いの行方は――。

著者紹介

レベッカ・ヤロス/Rebecca Yarros
アメリカ・コロラド州在住。2014 年に作家デビュー。現代ものロマンスやミリタリロマンスで15 作以上の著作がある。2023年5 月に初のファンタジー作品として本書Fourth Wing を発表、累計400万部突破の大ベストセラーに。本書がきっかけで「ロマンタジー(ロマンス×ファンタジー)」というジャンルが世界的に流行している。11 月に発売されたシリーズ2作Iron Flame は、発売後1週間で55万部以上という記録的な売り上げとなった。

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過去の記事はこちらでお読みいただけます。
・Vol.1 全世界が熱狂する"ロマンタジー"日本上陸!
・Vol.2 ロマンタジーの時代が来る! 発売前から大反響
・Vol.3 これがロマンタジーだ!
・Vol4 各国で絶賛! 桁違いの人気ぶり
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