
権力集中が進む世界で、いかに希望を見出すか──2017年のクーデターを下敷きにジンバブエの作家が描く、現代版『動物農場』と評された寓話『動物工場』
長篇デビュー作『あたらしい名前』(早川書房刊、谷崎由依訳)でジンバブエ人およびアフリカ出身の黒人女性として初のブッカー賞最終候補入りを果たし注目されたノヴァイオレット・ブラワヨの、9年ぶりの長篇Gloryが『動物農場』というタイトルで刊行です(川副智子さん訳)。
著者は、ジンバブエで2017年に起こったムガベ政権下のクーデターを記録すべくノンフィクションの形で執筆を始めましたが、やがて「フィクションとして書くべきだ」と気づき、すべての登場人物を動物に置き換え(動物たちのSNSでのつぶやきなども織り交ぜながら)書き上げられたのが本作です。世界が不安定になっている今こそ読まれるべき、現代版『動物農場』ともいえる傑作寓話です。

◆あらすじ
アフリカにある動物たちの王国ジダダでは、植民地支配から民を救った建国の父、オールド・ホースの政権誕生40周年が祝われる。治安部隊の犬に警備された広場は、動物たちで埋め尽くされ、妻のロバ、副大統領の馬、預言者の豚を傍らに、オールド・ホースはスピーチを始める。しかし、いまや建国の父の輝きは翳り、独裁政権と化していることに国民たちは気づき始めていた──
やがて訪れるオールド・ホースの失脚にともない、国が混乱に陥る中、若い雌山羊が王国に戻ってきた。暴君の栄光の影で、犠牲となってきたものたちの声を響かせるために。動物たちのSNSでのつぶやきも織りまぜながら語られる、現代版『動物農場』ともいえる傑作寓話。
◆いまこそ読むべき寓話
本作の刊行は2022年だが、そのテーマは普遍的であり、刊行から数年が経っても多くの媒体で注目されている。
2025年1月には、イギリスのブッカー賞公式が「厳しい状況にあっても、新たな希望を見つけ出すことは可能だと教えてくれる10冊」のうちの一冊として本書を紹介している。
Novels that offer a reminder that new beginnings are always possible, even in the most challenging of circumstances ⤵️https://t.co/tUlLVarUYM
— The Booker Prizes (@TheBookerPrizes) January 19, 2025
◆著者について
ノヴァイオレット・ブラワヨ(NoViolet Bulawayo)
1981年、ジンバブエ生まれ。コーネル大学でトルーマン・カポーティ・フェローシップを受けて創作の博士号を取得。2010年に短篇「ブダペスト襲撃」を《ボストン・レビュー》誌に発表し、高く評価された。同短篇を書き継ぎ、2013年に初の長篇となる『あたらしい名前』(早川書房刊、谷崎由依訳)を発表し、PEN/ヘミングウェイ賞、ロサンゼルス・タイムズ文学賞、エティサラート文学賞を受賞、ブッカー賞最終候補となった。この最終候補入りは、ジンバブエ人およびアフリカ出身の黒人女性として初であった。本書『動物工場』も2022年ブッカー賞の最終候補に選ばれている。
***
『動物工場』は早川書房より2月3日に刊行予定です。