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それなりに反響があったので連載になりました。いけるところまでいってみましょう。「ポスト真実」時代を予言したと話題のジョージ・オーウェル『一九八四年』(第一部-2、高橋和久訳、ハヤカワepi文庫)、無料公開002。

『一九八四年[新訳版]』ジョージ・オーウェル/高橋和久訳

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第一部-1はこちらから。


第一部

2

 ドアのノブに手をかけながら、ウィンストンは日記をテーブルの上で開きっぱなしにしていたことに気づいた。一面に〝ビッグ・ブラザーをやっつけろ〟と書いてあり、しかも部屋の端からでも読めるくらいの大きな字である。とんでもなく愚かなことをしたものだ。しかし、彼は悟った──パニックに襲われた最中でさえ、インクが乾かないうちに日記を閉じてクリーム色の紙を汚したくなかったのだ。

 息を吸ってドアを開けた。すぐに暖かい波のように安堵感が身体を流れていく。血の気のない、打ちひしがれたような女性が、髪を小さく無造作に束ね、皺(しわ)だらけの顔をして、ドアの前に立っていた。

「ああ、同志」彼女は暗い、哀れっぽい声で口を切った。「お帰りになったような音が聞こえたので。わたしの家のキッチンの流しを見ていただけないでしょうか。詰まってしまって──」

 ミセス・パーソンズだった。同じ階に暮らす隣人の妻である。(〝ミセス〟は党があまり歓迎しない呼称だった──誰に対しても〝同志〟と呼ぶよう求められていた──けれども、ある種の女性に対しては本能的に使ってしまう)。三十歳くらいだが、もっとずっと老けて見えた。顔に刻まれた皺に埃(ほこり)が溜まっているような印象を与える。ウィンストンは彼女の後について廊下を進んだ。このように素人が修繕をしなければならないという事態は日常茶飯事で、悩みの種になっていた。ヴィクトリー・マンションは古い建物で、建てられたのは一九三〇年かその前後、今や崩壊寸前だった。漆喰(しつくい)が天井や壁からたえず剥がれ落ち、ひどい氷結が起きるたびに水道管が破裂する。雪が降れば屋根は必ず水漏れを起こし、暖房システムは、完全に停止されるとき以外でも、節約を理由に半分しか稼動しないという有様。修理を行なうには、自分でできる場合は別として、こちらの事情など一顧だにしない委員会の許可が必要だった。その委員会は、窓ガラス一枚の修理を二年間差し止めにするくらい平気なのだ。

「もちろんトムが家にいるならお願いしないのですが」ミセス・パーソンズはことばを濁した。

 パーソンズ夫妻の部屋はウィンストンの部屋よりも広く、ウィンストンの部屋とは違った意味で薄汚れていた。ありとあらゆるものが叩(たた)きつぶされ、踏みつけにされたように見える。まるでこの部屋が今しがた、大きくて凶暴な獣の襲撃を受けたかのようだ。邪魔物扱いされた遊び道具──ホッケーのスティック、ボクシングのグローブ、穴のあいたサッカーボール、裏返しになった汗臭いショートパンツ──が所狭しと床の上に放り出され、テーブルには汚れた皿や頁(ページ)の隅の折れた練習帳がいくつも散乱している。壁には〈青年団〉や〈スパイ団〉の赤い旗、そして〈ビッグ・ブラザー〉の等身大のポスター。建物全体に染みついているどこも同じ茹(ゆで)キャベツの匂いはともかく、それを貫くようにもっと強烈な汗の悪臭が鼻を突く。どうしてかは分からないが、一嗅ぎしただけで気づかされたのは、それが今この場にいない人間の汗だということだった。別の部屋では誰かが櫛とトイレット・ペーパーの切れ端を口に当て、テレスクリーンからまだ流れている軍楽隊の音楽に合わせて音を出そうとしている。

「子どもたちです」ミセス・パーソンズがそう言って、何か気がかりなことがあるといった様子でドアの方に目をやった。「外に遊びに行かないんです。それにもちろん──」

 彼女は言いかけた途中で口を噤(つぐ)む癖があった。キッチンの流しは緑色がかった汚水がほとんど縁まで溜まっていて、キャベツどころではない悪臭を放っていた。ウィンストンは跪(ひざまず)いて、パイプのひじ継手(つぎて)の部分を調べた。手を使うのは嫌だったし、屈むのも嫌だった。そんな姿勢を取るといつも咳きこんでしまうのだ。ミセス・パーソンズは何もできずに見守るだけだった。

「もちろんトムが家にいたら、すぐに直してくれるはずですが」彼女は言った。「こうしたことは大好きな人ですから。手仕事なら何でもこいなんですよ、トムは」

 パーソンズはウィンストンと同じく真理省に勤めていた。太り気味だが活動的な男で、まわりが唖然とするくらい愚鈍で、おめでたい感激屋だった。何ひとつ疑わず、辛気臭い仕事をひたすらこつこつとこなす下っ端たちの一人で、党の安定は〈思考警察〉以上にかれらあってのものだった。彼は不承不承ながら三十五歳にしてやっと〈青年団〉から追い出されたのだが、〈青年団〉の一員へと昇格する前には、法定年齢を一年超過するまで首尾よく〈スパイ団〉に留まったほどである。真理省では知性を必要としない下級のポストについていたが、他方、〈スポーツ委員会〉では、そしてまた、地域住民連帯ハイキング、自然発生デモ、貯蓄キャンペーンやボランティア活動一般を組織するその他もろもろの委員会では指導的立場にあった。パイプをふかしながら、静かなプライドを漂わせる口調で、儀礼上〈地域住民センター〉にはこの四年間毎晩のように顔を出しているのさ、というのが口癖だった。彼がどこへ行こうとも、彼の生活のたゆまぬ努力を無意識のうちに証明する強烈な汗の匂いがついてまわった。それどころか、彼がいなくなってからもその匂いは消えずに残るのだ。

「スパナはありますか?」ウィンストンはひじ継手部分の留めねじ相手に格闘しながら言った。

「スパナですか」ミセス・パーソンズは急にためらいがちになった。「覚えがないわ、本当に。もしかすると子どもたちが──」

 ブーツを踏み鳴らす音ともう一度櫛を吹き鳴らす音が聞こえ、子どもたちが居間に突撃してきた。ミセス・パーソンズがスパナを持ってくる。ウィンストンは水を流し、パイプを詰まらせていた頭髪の塊を吐き気を催しながら取り除いた。蛇口から出る冷たい水で手を思い切り洗い、元の部屋に戻る。

「両手を挙げろ!」凶暴な声が叫んだ。

 顔立ちの整った丈夫そうな九歳の男の子が突如テーブルの後ろから現われて、おもちゃの自動拳銃で彼を威嚇した。一方、二歳ほど年下の妹は材木の欠片を持って、兄と同じように身構えている。二人ともブルーの半ズボンにグレーのシャツ、そして赤いネッカチーフという〈スパイ団〉の制服を身につけていた。ウィンストンは両手を頭上に上げたが、気持ちはどこか落ち着かなかった。その男の子の様子には、どこまで遊びだか分からない悪意が窺われた。

「お前は裏切りものだ!」男の子が喚いた。「お前は思考犯だ! ユーラシアのスパイだ! 撃ち殺してやる、蒸発させてやる、強制労働に送ってやる!」

 突然、兄妹は二人して彼を囲むように跳ねまわり、「裏切りもの!」「思考犯!」と叫ぶ。妹は一挙手一投足まで兄を真似ていた。すぐに人食い虎に成長する虎の子がふざけて跳ねまわっているかのような、何だかぞっとする光景だった。男の子の目には、どこか企みを秘めた獰猛さと、ウィンストンを殴るか蹴るかせずにはいられないというかなり明白な欲望と、もうそれができるくらい大きくなっているのだという自覚とが浮かんでいる。手にしているのが本物の拳銃でなくてよかった、とウィンストンは思った。

 ミセス・パーソンズの目が神経質そうにウィンストンから子どもたちへ、そして子どもたちからウィンストンへとせわしなく動いた。居間の照明は他よりも明るく、彼女の皺に本当に埃が溜まっているのが見えて、ウィンストンは妙に気になった。

「ほんとうに騒がしくて」彼女は言った。「がっかりしているんです、絞首刑を見に行けないものだから。そのせいなんです。わたしは忙しくて連れて行けないし、トムは仕事で帰りが遅いし」

「どうしてぼくたち絞首刑を見に行けないのさ?」少年が大声で吠えるように喚いた。

「絞首刑を見に行きたい! 絞首刑を見に行きたい!」まだ跳ねまわりながら、妹が歌うように繰り返す。

 戦争犯罪によって収監されていたユーラシアの捕虜が、その日の夕方、〈公園〉で処刑されることになっていたのをウィンストンは思い出した。それは月に一度ほど行なわれる、人気の見世物だった。子どもたちは毎回、連れて行ってくれと口々にせがむのだった。彼はミセス・パーソンズのところを辞して、自分の住居へ向かった。ところが廊下を六歩も進まないうちに、何かが激しく首の後ろに当たって、猛烈な痛みに襲われた。赤熱の電線にずぶっと刺されたかのようだった。振り返ると、ミセス・パーソンズがちょうど息子を玄関のなかに引きずり戻すところで、その子はパチンコをポケットに隠そうとしていた。

「ゴールドスタインめ!」そう喚く少年の前でドアが閉まった。しかし何よりもウィンストンの胸をえぐったのはミセス・パーソンズの灰色がかった顔に浮かんだどうしようもない恐怖だった。

 自分の部屋に戻ると、足早にテレスクリーンの前を横切り、首筋をこすりながら再びテーブルの前に座った。テレスクリーンの音楽は止んでいた。それに代わって、早口で歯切れのいい軍人調の声が荒々しい調子で、新式の〈浮動要塞〉の装備についての解説を読み上げている。アイスランドとフェロー諸島のあいだに最近投錨(とうびよう)したのだ。

 彼は思った──ああした子供たちを抱えていたのでは、あの哀れな女性は恐怖の人生を送るに違いない。これから一年、いや二年、子どもたちは昼夜の別なく、非正統派の兆候が見えないかどうか母親を監視するだろう。最近の子どもはほとんど誰もが恐ろしい。特に最悪なのは、〈スパイ団〉のような組織によって、かれらが体系的に手に負えない小さな野蛮人へと変身し、しかもそれでいながら、党の統制に対する反逆心などは少しも生まれないことだ。それどころか、子どもたちは党と党に関係するもの一切を諸手をあげて礼賛する。党讃美の歌、行進、党の横断幕、ハイキング、模擬ライフルによる訓練、スローガンの連呼、〈ビッグ・ブラザー〉崇拝──それらはすべて、かれらにとっては華々しいゲームなのだ。かれらの残忍性はことごとく外に、国家の敵に、外国人、反逆者、破壊工作者、思考犯に向かう。三十歳以上の大人なら他ならぬ自分の子どもに怯(おび)えて当たり前だ。それも無理はない。《タイムズ》が一週間とおかず、盗み聞きの巧みな小さな密告者──一般に〝小英雄〟という呼び名が使われている──が疑わしい発言を小耳にはさんで、〈思考警察〉に両親を告発したという記事を載せているのだ。

 パチンコの弾の刺すような痛みは消えていた。彼は気の進まないままにペンを取り、日記にさらに書くべきことがあるだろうかと考えた。思いがけずオブライエンのことが再び頭に浮かんだ。

 何年か前──何年になるだろう。七年前だったに違いない、真っ暗闇の部屋のなかを歩いている夢を見たことがあった。進んでいくと、傍らに座っていた誰かの声がする。「きっと闇の存在しないところで会うことになるだろう」とても静かな、ほとんどさりげない口調だった。一つの陳述であって命令ではなかった。彼は立ち止らずに歩みを続けた。奇妙なのは、夢の中では、そのことばが少しも印象に残らなかったことだ。後になってから、しかも次第に、そのことばが意味を持ってきたにすぎない。オブライエンを最初に見かけたのがこの夢の前だったのか後だったのか記憶にない。また、夢のなかのその声がオブライエンのものだと最初に悟ったのがいつだったのかも思い出せない。しかしいずれにしても、その声はオブライエンの声だと認識したのだ。暗闇から彼に話しかけてきたのはオブライエンだった。

 ウィンストンは確信が持てなかった──今朝、一瞬視線を交わした後でも確信に至ることは不可能だった──果たして、オブライエンは敵なのか味方なのか。またそれが大問題だとすら思えなかった。二人のあいだには相互理解の絆があり、それは愛情や党派心よりも重要なものだった。「きっと闇の存在しないところで会うことになるだろう」と彼は夢で言った。ウィンストンにはその意味するところが何か分からなかったが、ただ、何らかの形でそれが現実になるような気がした。

 テレスクリーンの声が途切れた。トランペットの澄んだ美しい音が澱(よど)んだ空気のなかに漂う。耳障りな声が続く。

「臨時ニュース、臨時ニュースを申し上げます。ただいまマラバルの前線より速報が入りました。我が軍が南インドで華々しい勝利を挙げました。ここにお伝えしている交戦の結果、戦争終結は遠いことではなくなったと当局に代わり申し上げます。臨時ニュースです──」

 この後にはろくでもないニュースがくるな、とウィンストンは思った。案の定、ユーラシア軍を壊滅させ、死者と捕虜は途方もない数に上ると報じた後に、来週以降、チョコレートの配給が三十グラムから二十グラムに削減される見通しであるという告知が続いた。

 ウィンストンは再びげっぷをした。ジンの酔いが醒めて、落ち込んだ気分だけが残った。テレスクリーンは──勝利を祝うためか、或(ある)いは失われたチョコレートの記憶をかき消すためか──すさまじい音を発して国歌《オセアニアは汝(なんじ)のために》を流し始めた。気をつけの姿勢を取らなくてはならない。しかし今いる場所はテレスクリーンの死角に入っていた。

《オセアニアは汝のために》が軽音楽に変わった。ウィンストンはテレスクリーンに背を向けたまま窓辺に歩み寄った。空は相変わらず寒々として澄み切っている。どこか遠くでロケット弾が爆発し、鈍い音が反響した。目下、そうしたロケット弾が週に二十発から三十発くらいロンドンに撃ち込まれているのだ。

 眼下の路上ではちぎれたポスターがあちこちへと風に吹かれ、〈イングソック〉という文字が気まぐれに見えたり隠れたりを繰り返す。〈イングソック〉。〈イングソック〉の聖なる原理。ニュースピークに〈二重思考〉に過去の可変性。彼は、自分自身も怪物になっている奇怪な世界で道を見失ったまま、海底の森のなかをさまよっているような気がした。一人ぼっちだった。過去は死に、未来は想像の外。今生きている人間がたとえ一人でも自分の味方になるという保証がどこにあるというのだ? そして、党の支配が決して永遠には続かないなどとどうやったら知ることができるというのだ? そうした問いに答えるかのように、真理省の白い壁面に掲げられた三つのスローガンが再び目に飛び込んできた。

 戦争は平和なり

 自由は隷従なり

 無知は力なり 

 彼はポケットから二十五セント硬貨を取り出した。そこにもまた同じスローガンが小さいくっきりとした文字で、そして裏側には〈ビッグ・ブラザー〉の顔が刻印されている。硬貨からもその目が追いかけてくるのだ。硬貨にも、切手にも、本の表紙にも、旗にも、ポスターにも、煙草の箱にも──いたるところにその目はあった。いつ何時(なんどき)も目の監視が止むことはなく、声が耳にまとわりつく。眠っていても目覚めていても、仕事をしていても食事をしていても、室内にいても戸外にいても、風呂に入っていてもベッドで寝ていても──逃れるすべはなかった。頭蓋骨の内側に残されているほんの数立方センチメートル以外、自分のものと言えるものはない。

 太陽がすでに西に移動しており、陽光を反射しなくなっている真理省の無数の窓は、城砦の銃眼さながらの不気味な様相を呈していた。巨大なピラミッド型の佇まいを前にして彼は怖気を感じる。強固すぎる、とても歯が立たない。ロケット弾一千発をもってしても破壊することはできないだろう。誰のために日記を書いているのかと再び考える。未来のためにか、過去のためにか──想像のなかにしか存在しない時代のためになのか。自分を待っているのは死ではなく消滅なのだ。日記は灰となり、自分は蒸発する。書いたものを読むのは〈思考警察〉だけ。そして読んだ後でその存在を抹消し、その記憶を拭い去ってしまうだろう。自分の痕跡が何ひとつ残らず、紙片に走り書きされた書き手不明のことばすら目に見える形で残存できないのだとしたら、どうやって訴えを未来に届かせるというのだ?

 テレスクリーンが十四時を打った。十分後には出なくてはならない。十四時三十分までには仕事に戻らねばならない。

 奇妙なことに、時報が彼に新たな勇気を注入したようだった。自分は誰も耳を貸そうとしない真実を声に出す孤独な幻。しかし声を発している限り、何らかの人目につかない方法によってでも、真実の継続性は保たれる。他人に聞いてもらうことではなく、正気を保つことによってこそ、人類の遺産は継承されるのだ。彼はテーブルに戻り、ペン先をインクに浸し、書いた── 

 未来へ、或いは過去へ、思考が自由な時代、人が個人個人異なりながら孤独ではない時代へ──真実が存在し、なされたことがなされなかったことに改変できない時代へ向けて。

 画一(かくいつ)の時代から、孤独の時代から、〈ビッグ・ブラザー〉の時代から、〈二重思考〉の時代から──ごきげんよう!

 お前はすでに死んでいる、と彼は自分に言い聞かせた。決定的な一歩を踏み出したのは、自らの思考を明確に練り上げることができるようになった今なのだという気がした。あらゆる行為の結果はその行為のなかに含まれている。彼は書いた── 

〈思考犯罪〉は死を伴わない。〈思考犯罪〉が即ち死なのだ。

 自分が死者であると認めてしまうと、可能な限り生きながらえることが大切に思えてきた。右手の指二本にインクの染みがついている。まさしくこの種の些細なことが正体を露見させてしまう。省内の詮索好きな狂信的な党員が(たぶん女だろう、あの薄茶色の髪をした小柄な女や虚構局のあの黒髪の娘とかいった手合いだ)、昼食時間にどうして書きものなどをしたのか、どうして時代遅れのペンなど使ったのか、いったい何を書いていたのか、と訝りはじめ──そしてそれから、然るべき筋にそれとなく匂わすかもしれない。彼は浴室に行き、じゃりじゃりする暗褐色の石鹸で入念にインクを洗い落とした。紙やすりのようにざらつく石鹸なので、インク落としには最適だった。

 彼は日記帳を引き出しにしまった。隠すことなど考えるだけ無駄だったが、しかし少なくともその存在が知られたかどうかを確認することはできるだろう。頭髪一本を頁の端から端にわたしておくのはあまりにも見え透いている。彼は識別可能な白っぽい埃をほんの少し指先でつまむと、それを表紙の隅に軽く置いた。日記を動かせば振り落とされることになる。

つづく

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