SFマガジン6月号

【SFマガジン掲載書評】オタク少年、地球を救う艦隊戦へーー『アルマダ』

『アルマダ(上・下)』
アーネスト・クライン/池田真紀子訳/ハヤカワ文庫SF

オタク少年、地球を救う艦隊戦へ SFネタ満載の1冊

小谷真理


 ついに、アーネスト・クラインが、ハヤカワSFブランドのデビューを遂げてしまった。感無量である。
 前作『ゲームウォーズ』は近未来を生きる極貧のゲーマーが〈オアシス〉というゲームの中に仕掛けられたお宝争奪戦に乗り込んでいくというゲーム小説だった。今回もゲーム世界が重要な役割を担っている。主人公は、ド田舎に暮らす母子家庭の高校生ザック。一見冴えない田舎の少年というのは世をしのぶ仮の姿で、実は彼はオンラインゲーム〈アルマダ〉では世界ランキング六位という凄腕のゲーマーである。亡くなった父もオタクだったから、サラブレッドというわけだ。ただし、そうしたオタクの才能は一般的には何の役に立つのかわからない。単に微笑ましいものとして語られるのがせいぜいではないだろうか。
 ところが本書の場合は違った。〈アルマダ〉は、地球を攻撃するエイリアンとの戦闘ゲームなのだが、なんとこのゲームこそ、戦闘の技術訓練のために作られていた、という仰天の事実が明かされる。それどころか、戦闘は間近だ、という切迫した事情があり、ザックはゲームを通じて戦士を養成していたEDA(地球防衛同盟軍)の戦闘員になって、月面基地に配属される。しかも死んだと思っていた父親はEDAの戦闘員として生きていた。かくして、オタク親子は二人してエイリアンとの戦闘に駆り出されていくわけだが、この親子、ゲーマーならではの感性で、エイリアンとの戦闘の背後にある、とんでもない秘密(陰謀?)を見抜くことに……。
 と、もうゲーマーの夢をそのまま小説化したかのような、ゲームオタク翼賛小説である。ここまで素直に徹底すると、気持ちがいいとしか言いようがない。大変さわやかなストーリーになっている。
 ゲーム世界がリアルな戦争と重なってしまうアイディアといえば、映画『ウォー・ゲーム』(一九八三)が思い出されるが、本書の場合、ゲーム世界と接続されているのは昨今話題のドローン遠隔操作。なるほど、確かに未来の戦闘要員はゲーマーとして育てられるかもねーなどと、良識的市民が読んだら卒倒しそうな危険妄想を駆り立てるのだが、しかし本篇自体はどこか、SFファン特有ののどかで脳天気な雰囲気に覆われている。なぜなら、前作同様、古今東西のSF作品ネタがごまんと登場するからだ。
 出撃には「フォースと共にあらんことを」と、その辺のSFファンなら必ず口にするあの名科白が必ず登場するなど、根っからのSFファンである主人公らは、ことあるごとにSFアイテムの小ネタを引用する。SFファンにとっては、ニヤリとしてしまう会話が満載なのだ。
 なお、仮想現実世界を扱ったこの手のサイバーパンク系電脳小説では、しばしば現実と仮想現実、リアルライフとアバター世界の書き分けがうまくいかず、読者の頭をいたずらに混乱させることがよくあるが、クラインの場合、前作からしてその辺は見事なくらい上手く書き分けていた。本書でもその技量は遺憾無く発揮され、現実と妄想の混乱によるバッド・トリップ体験があまり好きではないサイバーパンク・ファンにとってはありがたい内容になっている。おそらく、著者のゲーム体験が、物語上のリアリティを支えているためではあるまいか。

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