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「ケラリーノ・サンドロヴィッチ自選戯曲集」発売記念!(No.007) 「ちょっと、まってください」作品紹介

不条理劇からウェルメイド劇まで、振り幅の大きい作品群を精力的に発表し続ける現代劇の鬼才、ケラリーノ・サンドロヴィッチ。
著者初となる自選戯曲集(全2巻)では、広がりのある作品世界を一望する8作品を一挙収録します。

収録作品
「シャープさんフラットさん 」
「2番目、或いは3番目 」
「社長吸血記」
「ちょっと、まってください」
「睾丸」
(以上[ナイロン100℃篇])

「東京月光魔曲」
「黴菌」
「陥没」
(以上[昭和三部作篇])

解説:徳永京子[ナイロン100℃篇]
   嶋田直哉[昭和三部作篇]
装幀:はらだなおこ
写真:平塚篤史

発売:6月18日
定価:4,600円+税[ナイロン100℃篇] 
   3,800円+税[昭和三部作篇]

*著者直筆サイン入りをお求めの方はこちら!
http://www.e-fanclub.com/cube/webshop/search.asp?search_kwd=%83P%83%89%83%8A%81[%83m


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発売に向けた特別企画として、早川書房のnoteでは、
自選戯曲集に収録する全8作品を、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)のコメントとともに紹介。
今回は「ナイロン100℃篇」収録の「ちょっと、まってください」の紹介です。

◎「ちょっと、まってください」作品紹介

女2 あたしね、運動には参加していないけれど、シソウはあるの。あたしなりのシソウがあるんです......よくよく考えてみたんですけどあたし......反対派の意見には賛成できない。
男4 (愕然として)君......賛成派なのかい……!?
女2 賛成派かどうかは......ただ反対派に賛成できないの。
女4 だから賛成派じゃないの。反対派に反対なんだったら。
男3 ん、反対なんだったら反対派だろ、反対なんだから。
男4・女4 (男3を見る) 
男3 (ので)反対してりゃ反対派、賛成してりゃ賛成派だろう。
女4 ですけど反対派に反対してるんですからねエミリーは。反対派は反対に賛成してるから反対派なんですから。
男3 (混乱して)ん......!?
女2 反対してるわけじゃないんです、賛成できないだけで。賛成派にも賛成できない部分はあるんです。つまり反対派には賛成できないけど賛成派に反対するところもあるんです。(「ちょっと、まってください」)

「ちょっと、まってください」は、ナイロン100℃・44th SESSION として2017年に上演。
KERAは本作を創作をするうえで、「別役実作品で構成されたルイス・ブニュエルを目指した」「不条理喜劇と呼ばれるのがしっくりくる作品を作ってみたかった」と語っている(「ナイロン100℃ シリーワークス」)。

賛成派と反対派のシュプレヒコールが遠く聞こえる中、物語は始まる。
とある洋館に暮らす金持ちの一家。夫婦と息子・娘が、今日も退屈な会話を繰り返している。
そこに仕立て屋の娘を誘拐した犯人から、身代金を要求する間違い電話がかかってくる。
父は代わりに身代金を払ってやるように言うのだが、その電話は、退屈な日常を過ごす父に、日記に書く出来事を与えるため、息子が使用人にかけさせたものだった。そしてこの家は借金まみれで、もはや金などないことが明らかになる。
一方、洋館の前には、隣町からやってきた乞食の兄妹。妹は会ったこともないこの家の息子と結婚すると言い、その姿を確認してもらおうと兄を電信柱によじ登らせ、自分は窓から洋館に入っていく。
残された兄は、あとからやってきた父、母、祖母と庭に住み着き……。
「言葉」と「世界」が果てしなく更新され続ける、不気味で恐く、そして可笑しい、21世紀の不条理劇。


◎ケラリーノ・サンドロヴィッチ コメント
(本書収録「あとがき」より)

別役実作品のパスティーシュである。氏の戯曲からの引用も多く、書いていたらどんどんそうなってしまったので、慌ててご本人に連絡して了承を得た。あの天才がもうこの世にいないことを、改めて寂しく思う。ニュアンスを的確に演出するのが大変だった一方、書くのは楽しい作業だった。傍に フラグメントとして別役作品があると思うと、二〇代の頃のように奔放になれた。かつての自分は、通常の劇作家が行かない場所に、堂々と踏み込んでいったものだ。昔、ジャズベーシストだった父から聞いた言葉を思い出す。 「ジャズの初期の歴史において、独学で楽器の使い方を覚えたミュージシャンたちは、自分たちの楽 器の音域とキャパシティーをどんどん拡大していった。それというのも彼らは、その楽器で何ができないとか、何をすべきでないということが書かれた教則本を与えられなかったからだよ」。
おや、文脈がおかしいか。別役作品という教則本がありながら、無知であった頃のように自由に書けたというのは......。別の機会に改めて考察するです。

明日はいよいよ発売日&ラストの作品紹介になります!

◎作品紹介バックナンバー





◎著者略歴
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
劇作家、 演出家、 映画監督、 音楽家。1963年1月3日生まれ。82年、 ニューウェイヴバンド「有頂天」を結成。またインディーズ・レー ベル「ナゴムレコード」を立ち上げ、70を超えるレコード・CDを プロデュースする。85年、「劇団健康」 を旗揚げ、 演劇活動を開 始。92年解散、93年に「ナイロン100°C」を始動。99年、『フロー ズン・ ビーチ』 で第43回岸田國士戯曲賞を受賞し、 現在同賞の選 考委員を務める。2018年秋の紫綬褒章を始め、 第66回芸術選奨文 部科学大臣賞、 第24回読売演劇大賞最優秀演出家賞、 第26回読売 演劇大賞最優秀作品賞(ナイロン100°C『百年の秘密』)、 第4回ハ ヤカワ「悲劇喜劇」 賞(世田谷パブリックシアター+KERA・ M A P # 0 0 7 『 キ ネ マ と 恋 人 』) な ど 受 賞 多 数 。 音 楽 家 と し て は 、 ソ ロ活動の他、「有頂天」(2014年再結成)、鈴木慶一とのユニット 「No Lie-Sense」、ケラ&ザ・シンセサイザーズなどで、ライブや 新譜リリースを活発に展開中。

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