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「私の理想とする物語」—―作家・斜線堂有紀による解説を一部公開!『なめらかな世界と、その敵』

2019年のベストSFランキング第1位の伴名練『なめらかな世界と、その敵』より斜線堂有紀さんによる解説を一部公開します。心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集。


文庫『なめらかな世界と、その敵』解説より一部抜粋(文:斜線堂有紀)
 私は物語というものが好きである。それは、自分とは違うものの見方を味わって噛み砕き、自分を保ちながら他の人生を生きられるからである。ある意味で私は物語の中の隔たりを愛しているのだ。それでいて、私は物語中の人間と人間が強い感情を交わし合う物語も好きだ。愛だろうと憎しみだろうと、どんどん投げ合って反響し合ってほしい。
 そんな私が伴名練作品に強く惹かれるのは当然だろう。隔たりの寂しさと、それが故に繋がっていく感情は、私の理想とする物語なのだ。なので私は、伴名練作品を読むといつも悔しい。
 小説の上手さにおいては悔しいが、その才能がどんどん広がり、小説執筆だけに限らず発展していくことには、素直に驚嘆している。伴名練という才能は、SFというジャンルの間口を広げている。いわば、伴名練はSFからの使者であったのかもしれない。
 伴名練が面白いSF小説を書く、二〇一〇年代、世界で最もSFを愛した作家であるということが知らしめられたことは、SFというジャンルへの祝福だった。伴名練の作品が面白いから、伴名練が薦めているSF作品を読もう、というムーブメントが生まれたからだ。
 伴名練は『日本SFの臨界点』シリーズ(ハヤカワ文庫JA)にて、アンソロジストとしても非凡な才能を発揮している。短篇集未収録の傑作を中心としたアンソロジーや、その作家の作品を網羅した上で編まれた作家別アンソロジーなど、今このアンソロジーを編めるのは伴名練だけだろうと思うような素晴らしいものばかりだ。
 みんな、面白い小説を書く人間が一体何を読んでいるかは気になるものだ。もしくは、伴名練作品と同じくらい面白い小説を探すなら、伴名練が薦めているものを読むのが一番のショートカットだろうと見做されているのかもしれない。自分の好みのミステリを書いている作家が薦めたアガサ・クリスティーから読む、というのはミステリの世界でもよくある話だ。
 小説家は自分が面白いと思わなかったら、自作を世に出そうとは思わない。それ故に、面白い小説を書く人間の『傑作』という言葉には重みがある。
 先に述べた通り、伴名練は『日本SFの臨界点』シリーズにて、今の世には広く読まれていなかった傑作SFを復活させ、広く読まれるようにした。
 これもまた、隔たりを繋ぎ直した伴名練の功績だ。伴名練の採録した小説はどれも面白く、伴名練がいなければこの傑作群が一所に集められることはなかったのだと思うと、改めてその存在の大きさに感謝させられる。
 そう考えると、伴名練作品の隔たり-繋がりのラインは、伴名練という存在そのものにも適用されるのかもしれない。伴名練作品を読んで確信したのだが、読者は従来のイメージよりもずっとSFが好きで、求めていたのではないだろうか。今この短篇集が文庫化し、更に広く読まれていくことで、きっと自分の読みたかった、あるいは書きたかったものはSFだったのか、と多くの人間に気づかせてくれるのではないだろうか。
 その時、伴名練はまた一つ得難い“繋がり”を生むのである。

■書誌情報
『なめらかな世界と、その敵』
伴名 練
文庫本/価格:880円(税込)/4月20日発売

■著者紹介
伴名練
1988年生まれ。京都大学文学部卒。2010年「遠呪」で第17回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
同年『少女禁区』で作家デビュー。2019年に本書の単行本版でベストSF2019投票の国内篇第1位を獲得。編著に《日本SFの臨界点》、大森望との共編『2010年代SF傑作選1・2』がある。

■斜線堂さんが解説で言及していた作品はコチラ
『日本SFの臨界点[怪奇篇]ちまみれ家族』
『日本SFの臨界点[恋愛篇]死んだ恋人からの手紙』


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