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【一部抜粋】ローカス賞受賞、驚異のノンストップ・ゴシック・ファンタジイ、タムシン・ミュア『ギデオン-第九王家の騎士-』発売中! 

 ハヤカワ文庫FTより発売中のガタムシン・ミュア『ギデオン-第九王家の騎士-』(月岡小穂訳)は、ローカス賞第一長篇部門を受賞した、話題の死と魔法のファンタジイです。
 帝国の皇帝の配下の第二から第九の8つの王家。死霊術で帝国を支配する不死の皇帝が、各王家の後継者とその騎士を第一王家の惑星に呼び寄せます。帝国の墓守たる第九王家からやってきたのは、腕利きだが口の悪い女騎士ギデオンと、王家の姫君で稀代の骨の魔術師ハロウハーク。彼女たちを待ち受けるものは……?
 ギデオンとハロウハークが登場する、冒頭の一シーンを一部抜粋して紹介します。

第一王家の〈不死の王〉たる銀河帝国の皇帝が即位して一万年。配下の八王家から、王位継承者の死霊術師とその首席騎士が召集される。皇帝がその治世で初めて、絶大な力と悠久の命を持つ側近リクトルの後継者を選ぶというのだ。第九王家の女剣士ギデオンは、幼いころから確執のある骨の魔術師〈聖なる娘〉ハロウハークとともに、第一王家の惑星へと向かうが……。ローカス賞、クロフォード賞受賞の死と魔法のファンタジイ

タムシン・ミュア『ギデオン-第九王家の騎士-』上巻あらすじ
タムシン・ミュア『ギデオン-第九王家の騎士-』

新リクトル選考会のため、三人の司祭とスケルトンの召使が管理する宮殿の廃墟に招き入れられたギデオンとハロウハーク。八つの王家の候補者たちは、それぞれキー・リングが与えられ、迷路のような建物内で危険な謎解きを命じられる。不仲な第九王家の二人がしぶしぶ協力し始めたとき、ある王家の候補が死体となって発見された! 事故なのか、殺人なのか、それとも……。新鋭によるノンストップ・ゴシック・ファンタジイ

タムシン・ミュア『ギデオン-第九王家の騎士-』下巻あらすじ

  

 あと五分というところで、八十七回目の脱走の試みは混乱しだした。
「おまえの天才的戦略はお見通しよ、筋肉女(グリドル)」通路から声がした。ついにラスボスの登場だ。「シャトルを予約して脱走するつもりだったんでしょ」
 立坑の前に〈第九王家の姫君〉が立っていた。黒衣に身を包み、冷笑を浮かべている。
〈聖なる娘〉ハロウハーク・ノナゲシムスは黒衣と冷笑により、圧倒的存在感を示しつづけてきた。これこそがハロウハークの真骨頂だ。ギデオンは舌を巻いた。宇宙広しといえども、わずか十七歳で黒衣をまとい、自信たっぷりな冷笑を浮かべることができるのは、ハロウハークだけだろう。
 ギデオンは言った。
「本当のことを言うなよ。照れるだろ。たしかに、あたしは策士だからな」
〈聖なる娘〉はきらびやかなローブが埃で汚れるのもかまわず、裾を引きずって近づいてきた。クラックスとアイグラメネーもいっしょにいた。ハロウハークの後ろで数人の修道女がひざまずいている。雪花石膏(アラバスター)で顔を灰色に塗り、髑髏(どくろ)に見えるように黒い塗料で頬や
唇に模様が描かれている。だぶだぶの色あせた黒いローブを着たその姿は、もの悲しく色あせた、落花生を模した二頭身のキャラにそっくりだ。
「こんなことになって、とても残念だわ」ハロウハークはそう言って、フードを上げた。全身黒ずくめのなかで、顔だけがぽつんと青白く塗られている。両手までが黒い手袋でおおわれていた。「脱走したいなら、すればいい。失敗してくれれば、万々歳だけど。剣から手を放しなさい。みっともないわよ」
「第二王家のトレンサム行きのシャトルが出発するまで、十分を切った」と、ギデオン。剣から手を放そうとはしない。「あたしはシャトルに乗る。ハッチを閉めれば、おさらばだ。あたしを引きとめようとしても、あんたにできることは、文字どおり、もう何もない」
 ハロウハークは手袋をした片手を上げ、考えこむ表情で指をマッサージしはじめた。ペイントした顔や黒く塗った顎、死んだカラスの色をしたショートヘアに、光が当たっている。
「わかったわ。おたがいのために、けりをつけようじゃないの」と、ハロウハーク。「異議その一。奴隷的立場にある者は帝国軍に入隊できない」
「譲渡証書にはあんたの署名がある。あたしが偽造した」と、ギデオン。
「でも、あたくしがひとこと言えば、おまえは囚われの身に逆戻りよ」
ハロウハークは自分の手首を二本の指でつかみ、ゆっくりとその手を上下させた。
「魅力的なストーリーだけど、キャラ設定がいまいちね。どうして、あたくしが急にあわれみを受ける側になるわけ?」
「あんたがあたしの脱走をじゃましたら」ギデオンは手を剣の鞘に置いたまま言った。
「あたしを呼び戻したら──なんていうか、あたしの罪をでっちあげて並べ立て、帝国軍にちくったりしたら……」
「例のエロ本のことも、そのなかに含まれてるわよ」
「大声で叫んでやる。第八惑星からでも聞こえるぐらい、声をかぎりに叫びつづけてやる。洗いざらい話す。あたしはあんたの秘密を知ってる。ぜんぶ、ぶちまけてやる。たとえ囚われの身に逆戻りしようとも」

(つづきは書籍でお楽しみください)

***

『ギデオン-第九王家の騎士-』・下
Gideon the Ninth
タムシン・ミュア  月岡小穂 訳
装画:たえ    装幀:早川書房デザイン室
ハヤカワ文庫FT/電子書籍版
各1,320円(税込)
2022年7月20日発売

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