ハヤカワ・ノンフィクション
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本
ホモ・デウス化を回避するプリミティブ/オルタナティブな自己変容――なぜ今、仏教なのか?
by 早川書房ノンフィクション編集部
1999年、オックスフォード大学。ジーザス・カレッジの歴史ある図書館で、ひとりの青年が博士論文に取り組んでいる。中世の兵士たちが記した自伝的文書に目を通しながらも、青年の心は別に向いていた。人生の意味とは? この世界や私自身の人生にはどうしてこれほど多くの苦しみがあるのか? 読んだ本から得られるものはすべて、手の込んだ虚構にすぎなかった。
青年には親友が
一切皆苦からイグジットせよ! 暗黒啓蒙、進化心理学、『なぜ今、仏教なのか』
By 早川書房ノンフィクション編集部
本稿はロバート・ライト『なぜ今、仏教なのかーー瞑想・マインドフルネス・悟りの科学』文庫化のお知らせであり、Exit(出口・離脱)、Evolutionary psychology(進化心理学)、Enlightenment(啓蒙・悟り)の3つの観点から、暗黒啓蒙と仏教の思想的交点を見出す試みである。
1.Exit
哲学者・ブロガーのニック・ランドが2012年
仏教が進化論的に「正しい」理由とは? 『なぜ今、仏教なのか――瞑想・マインドフルネス・悟りの科学』第1章全文公開【8/5発売】
1 赤い薬を飲む
人間のありようをドラマチックに表現しすぎるのを覚悟のうえで尋ねよう。映画『マトリックス』を見たことはあるだろうか。
主人公のネオ(キアヌ・リーブス)は、自分の住む世界が夢の世界であることに気づく。ネオが日々暮らしていると思っていた生活は実際には精巧な幻覚にすぎず、現実のネオの肉体は、ぬめぬめした液体に包まれて棺大のポッドにとらわれていた。ネオのポッドは、何列も何列もずらり