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劇場アニメ『僕愛』『君愛』主演・宮沢氷魚インタビュー「こんなに色々な組み合わせで楽しむことができる映画はなかなかない」

乙野四方字さん原作の劇場アニメ『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』の公開まで、あと3日! 本欄では、SFマガジン2022年10月号に掲載した宮沢氷魚さんの独占インタビューを再録します。

みやざわ・ひお
1994年4月24日生まれ。アメリカ出身。 ドラマ「コウノドリ」(’17)で俳優デビュー。 以後、ドラマ「偽装不倫」(’19)、連続テレビ小説「エール」(’20)などに出演。 初主演映画「his」(’20)にて数々の新人賞を受賞、また、映画「騙し絵の牙」(’21)では、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。 現在、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」に出演中。 映画「グッバイ・クルエル・ワールド」、映画「エゴイスト」の公開が控えている。

■原作を読んで感じたこと
──今作が声優初挑戦とのことですが、出演が決まったときの率直なお気持ちを教えていただけますか。

宮沢 喜びももちろんありましたが、声だけのお芝居は経験がまったくなかったので、最初は不安が大きかったです。脚本を読んで、作品自体がとても面白かったのでぜひ挑戦してみたいと思いました。

──乙野四方字さんの原作小説『僕が愛したすべての君へ』(以下『僕愛』)『君を愛したひとりの僕へ』(以下『君愛』)は、読む順番によって結末が変わるしかけが話題の作品です。「できることなら記憶を消して、逆の順番でもう一度読み直したい!」という読者の声も多いのですが、宮沢さんはどちらの順番で読まれたのでしょうか。

宮沢 アフレコの予定に合わせて『僕愛』から読みました。

──切ない結末に感じられる方ですね。読んでみていかがでしたか?

宮沢 幼いころに両親が離婚して、どちらについていくのかというのは暦にとってすごく大事な決断ですよね。そこでどういう決断をしたかによって、その後の人生がまったく違うものになる。小説ではそれが見事に描かれていて、心を揺さぶられました。『僕愛』『君愛』はそれぞれで読後感が違うのも醍醐味だと思いますし、映画でもそういった、温度感の違いのようなものをお届けできたら嬉しいです。

──原作を読んだ方は、映画をあえて逆の順番で観る楽しみ方もできそうですね。

宮沢 そうですね。あとは映画を観る前に原作を読むか、観た後に読むのか、とか。原作ものの映画は沢山ありますが、こんなに色々な組み合わせで楽しむことができる映画はなかなかないと思います。

■作品ごとの違い
──宮沢さんが演じた二作品の主人公、高崎暦と日高暦は少しずつ違う並行世界を生きている役どころです。二役を演じるにあたって、気をつけられたことなどはありますか。

宮沢 どちらの作品でも少年時代から四十代くらいまでを一人で演じるからこそ、一人の人間としてのぶれない軸、一貫性が出るように意識しました。「ここは若いころのシーンだからハキハキと、こっちはもっと大人っぽく」とか考えすぎても、実際に録った声を聴くとイメージとはギャップがあったりするんですね。録音した自分の声を聴いてびっくりしたことってありませんか? 演技のバランスもそれと同じで、主観と客観ではやはり多少ズレが生まれてしまうんですよね。『僕愛』と『君愛』では音響監督(編集部注:アニメやゲームにおいて、音声面の演出を行うスタッフのこと)も別の方だったので、演出にもテクニカルな違いが出ているんじゃないでしょうか。

──初めてのアフレコはいかがでしたか。

宮沢 先に録った『僕愛』は、音響監督のリクエストに忠実に応えることを心がけました。芝居は感情も大事ですが、ストーリーを進行させるために必要な演技のあんばい──どんな声色で、どのくらいのテンポで話すのか──をコントロールルームからみっちり指示してもらいました。逆に『君愛』は「思いっきり自由に演じて欲しい。それで(演出意図と)違ったら、言うから」という方針で、こちらは映像のお芝居で求められる感覚に近かったかもしれません。技術と感情、どちらを優先するのも正解だし、二パターンの作り方を経験できたので、勉強になりました。

■並行世界のラブストーリー
──ヒロインを演じられた橋本愛さん、蒔田彩珠さんの声の印象はいかがでしたか?

宮沢 橋本さんとは直接お会いしていないんです。なのでアフレコでは、先に録られていた橋本さんの声を聴きながら声を入れていきました。暦に対して厳しい面もありますが、でもちゃんと寄り添ってくれている感じが声でしっかり表現されていて、本当にイメージしていた和音そのものでした。おかげで暦と和音の関係性はかなり良いものに仕上がっているように思います。蒔田さんとは一緒にブースに入って、掛け合いのやりとりを録りました。感情をあらわにするような難しいシーンでも堂々とされていて、しっかり栞になりきっていて素晴らしかったです。

──暦がパラレル・シフトを研究する理由を和音に打ち明けるシーンのアフレコを見学させていただきましたが、お二人の声のエネルギーに圧倒されました。ネタバレにならない程度に、それぞれの作品でおすすめの場面を教えて下さい。

宮沢『僕愛』はやっぱり、カラオケのシーンが特に好きですね。放課後に和音と暦がカラオケに行って話をするんです、学生らしいシチュエーションですね。感情の変化がたくさんあるシーンなので演じていて楽しかったし、印象深いです。『君愛』は作品全体を通して感情的なシーンが多かったですね。栞の肉体は無くなっても魂だけ並行世界に残っていて。暦がやるせない気持ちを吐露するシーンは演じていて辛いなと思いながらも、泣き崩れていく姿を思いっきり演じられたので、是非観ていただきたいですね。

──青春SF的な要素の強い『僕愛』と、切ないドラマに仕上がっている『君愛』。どちらも楽しみです。

宮沢 はい。誰かを愛する想いがたくさん詰まっている作品が出来たと思います。

■SF的な見どころ
──最後になりますが、宮沢さんは愛読書にジョージ・オーウェル『一九八四年』を挙げていらっしゃるのですね。普段からSFに親しんでいる宮沢さんから見た、今作のSF的な見どころはどんな部分でしょうか。

宮沢 パラレル・シフトって、今の技術では実際には不可能じゃないですか。でもこの作品では、きっと近い将来実現するんじゃないかと思うくらい、それが自然に描かれています。SFのなかでもかなりリアルに近いSFですね。

──超近未来、みたいな。

宮沢 すごく遠い世界には行けないかもしれないけど、身近な所でちょっと移動するとかなら、できそうじゃないですか? このお話の世界のなかでもパラレル・シフトはまだ研究途上の分野として描かれているから、余計にリアリティを感じさせるんでしょうね。普段こういうジャンルになじみがない人でも、すっと物語に入っていけるんじゃないかと思います。
(二〇二二年七月九日/於・都内某所)

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